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第三譚:憎悪爆散の魔人譚

聖刀の街

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「……………………………………」
「……………………………………」


「あー、いい加減にしなさいよアンタたち。いつまで落ち込んでるつもりよ。仕方ないじゃない。アンタたちはあの子らにとってそれだけのことをしたんだから。」
 

「……………………………………」
「……………………………………」

 励ますようでいてさらに追い打ちをかけるこの聖剣、流石である。


「もう目的の街についたんだから気持ちを切り替えなさいよ。正直私だって、聖剣の模造品みたいなのが溢れた街になんて長居したくないんだからね。それでイリア、あの子の情報のアテはあるの?」


「んー、アテがあるってほどじゃないけど、聖刀使いなんだからこの辺りの刀鍛冶のところに顔を見せたりしてるんじゃないかな。とりあえず一軒一軒聞き込みしてみようよ?」
 なんとか気持ちを前に向けて、イリアがこれからの方針を提案する。


「う~、地道な話ね。だいたい何軒あるのよこの街の鍛冶工房。あっち向いてもこっち向いても工房だらけじゃない。」

 アミスアテナがどっちを向いているかは知らないが、聖刀の街ホーグロンは確かに鍛冶工房に溢れている。それも刀鍛冶に限定してだ。

「聞いた話じゃ、この街に住んでいる人の半分は刀鍛冶なんじゃなかったかな?」

「半分って。それだけの数が競いあって生活は成り立つのかしら。」

 アミスアテナの疑問は当然である。同じ業種が同じ場所に固まれば、需要に対して供給が過多になり、商売が成り立たなくなる。

 だがここでの実際は逆だ。ここにいる鍛冶職人たちは生活が成り立たなくなったからこそ、一か所に集まって必死に腕を磨いたのだった。



 200年前、魔族が人間の世界「ハルモニア」に侵略してきたその時より、あらゆる名剣、名刀がただの鉄クズに成り下がった。

 いかに優れた剣、刀、槍であろうと、魔族を相手にしてはそこら辺に落ちているヒノキの棒と変わりがなかったからだ。

 こうして多くの刀剣鍛冶たちは職を失った。いかに優れた剣を打ち上げようと、肝心の敵に通じないそれを使用する戦士はいないのだから。


 しかし多くの刀剣鍛冶たちが鎚を振るうことをやめていく中で、それでも諦めきれない者たちがいた。

 それまで見向きもされなかった「聖剣」が魔族たちに効果的であると判明して持ち上げられていく中、「それならばあの聖剣に届かせよう」、「あれを越える剣を打ってみせよう」、そう心に決めた刀剣鍛冶たちが一つの街に集ってひたすらに鍛冶の腕を磨き続けたのだ。


 叶うはずもないあまりにも無駄な愚行。


 だが彼らの熱い思いは厳しい現実を凌駕していく。


 聖剣を与えるという湖の乙女たち、そんな彼女らのいるとされる湖の水を使って打ち上げられた刀は、ついには魔族を切り裂く刃と成った。

 その効果は聖剣には及ばなかったものの、数に限りがある聖剣とは違い刀鍛治によって増産のできる刀「聖刀」は見る見るうちに日の目を浴びていった。

 需要がうなぎ登りとなった聖刀、そして刀鍛冶は商業連合国アニマカルマの一大産業として認められ、聖刀の街ホーグロンと名付けられた。

 ここで作られた聖刀は魔族との戦いの前線に納品されることで需要と供給のバランスが成立することとなった。

 一時は刀鍛冶から離れていた職人たちも再び集い、このホーグロンは約150年以上の間、聖刀鍛冶の街として栄えている。


「──────というわけじゃよ。」


 ホーグロンの玄関口に立っていた謎の老人からの説明が終わる。

「へー、そんな歴史があったんですね。勉強になりました。ありがとうございます。」

 老人は、ホッホッホと言いながら去っていく。


「おい、というかあの爺さん何なんだよ。」


「知らないの? どこの街にもああいう歴史を説明する謎の親切な人がいるものじゃない。」


「常識? それは常識なのか?」


「まあまあ、それじゃあさっそく街の中を見て回りましょう。」

 謎の親切な老人が去るのを見届けて、街を散策しようと振り向いたところでイリアは人とぶつかってしまう。

「きゃっ」
 身体の小さいイリアは思わず尻餅をつく。

 イリアとぶつかった相手はローブで身を包んだ、壮年の精悍な男性だった。
 馬にいくらかの荷物を載せて引き連れており、さらに後ろにはやはりローブに身を包んで馬を引き連れた痩せた男が付いてきている。
 
「おっとすまない。大丈夫か、少女よ。」
 深く、重たい声がかけられ、ぶつかった男は礼儀正しく手を差し出してイリアを起こそうとする。
 そして下から見上げる形となったイリアにはその男のローブの中身が見え、

「いえ大したことはありません。ありがとうございま、……えっ!? 賢王、グシャ?」

 自分を暗殺しようとしたハルジアの国王、賢王グシャ・グロリアスと久方ぶりに対面することになったのだった。
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