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第三譚:憎悪爆散の魔人譚

ホーグロン

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「ほいとホーグロンに到着だ。何だかんだで嬢ちゃんたちとは随分と長い付き合いになっちまったな。」

 街に入る手続きが済むと、アスキルドからここまで連れてきた運び屋のオヤジはイリアたちを荷馬車から下ろした。


「今までありがとうございました! おじさんたちはこれからどうされるんですか?」


「俺たちゃギルド本部にこれから向かうさ。アスキルドのギルド支部じゃあ登録は済ませたけどよ、あんなトラブルがあったあとだからな。一応ギルド本部にも挨拶して関係の紐を強くしておくに越したこたねえだろ。」


「そういえば気になっていたが、おっさんらはこれからの商売大丈夫なのか? アスキルドであれだけやらかして、目をつけられたんじゃないのか?」
 プカプカと宙に浮きながらアゼルは質問する。


「おいおい、やらかしたのはお前らの方だろうが! ったく、……まあ大丈夫だよ。さすがにアスキルド近辺での商売はしばらく控えるしかねえが、こっち……アニマカルマじゃギルドの力が強い。」

 オヤジの言葉通り、労務管理組織「ギルド」の本部を抱えるアニマカルマではギルドの権限は非常に強く、その庇護下にあるギルドメンバーの活動は固く保証されている。

「もちろんアスキルドがバックについている人材派遣組織『ハケン』もアニマカルマにはあるから、油断はしねえ方がいいのは確かだが。」


「ああ、アスキルドの奴隷を派遣する組織がどの国にも置いてあるって話だったな。人材を管理する国と仕事を管理する国がそれぞれ持ちつ持たれつでやってるわけだろ。人間たちの商売はよくできてるもんだ。」

 皮肉混じりにアゼルは言う。


「はっ、人間様の知恵と言ってくれ。ま、それだけやっても『最果てのハルジア』には及びもしねえんだから、ホントあの国の賢王はすげえよ。」


「? 人材と仕事の元締めを他の国に押さえられていて、どうしてハルジアが一番なんだ?」

 アゼルはイリアにも目配せをするが、イリアも分からないといった仕草をしている。
 イリアも政治や経済といった方面は疎かった。


「はん、言ってしまえばあの国は全ての国の財布の紐を握ってんのさ。それじゃ次にこの国で買い物するときに、扱ってるお金をよく見てみな。あの国の怖さが分かるだろうさ。」

 運び屋のオヤジは薄ら笑いをしながら結論をはぐらかす。

「ま、俺たちと勇者様とはここでお別れだから、関係ないといえばないんだが、また変なトラブルを起こすんじゃねえぞ。」
 オヤジは荒々しくイリアの頭を撫でた。

「エヘヘ、まかせて下さい。今回こそはトラブルとは無縁のスマートな旅をしてみせますから。」

 イリアは幼い少女に相応のにこやかな笑顔でオヤジに親指を立てる。……同時にフラグも立てる。


「色々あったが、あんたたちからは十分な額の金も貰えたし、真っ当な仕事をする良いきっかけにもなったしホント感謝してる。また機会があれば俺たちをご贔屓にしてくれよ。サービスするぜ。」

 言いたいことは言えたのか、オヤジはきびすを返してイリアたちの前から去ろうとする。

「おじさんたちもお元気で。」

「じぁあな、おっさん。」

 イリア、アゼルもそれぞれの別れの言葉を告げる。


「あ、そうだ。お前ら、早くあのガキどもと仲直りしろよ。」


 オヤジは、そう言葉を残して去っていった。


「………………………………………」

「………………………………………」

 そのオヤジの言葉を聞いたイリアとアゼルは同時に黙り込んでしまった。


「あんたたちいつまで黙ってるつもりよ。」

 突然重たい沈黙に入った二人を見かねて聖剣アミスアテナが口を挟む。

「そりゃ思い出したくはないだろうけど、いつまでも引きずっても仕方ないでしょ。出ていったものはしょうがないじゃない。」

 そう、今イリアたちの側には前回の旅で加わったはずの仲間の姿がない。

「だ、だって~。」
 イリアは半泣きになり、アゼルも気まずそうに頬をかいている。



 今も、あの少年の慟哭がイリアたちの胸には突き刺さる。



 それはアスキルドを脱出してから間もない頃のことだった。

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