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第二譚:灼銀無双の魔法譚

アグニカ・ヴァーミリオン

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 暗く、昏い、永劫を内包する常闇の奥。


 物言わぬ巌のごとき、名状しがたい巨大な力が鳴動している。


 窒息してしまいそうなほどに濃密な魔素に満ちた空間に、恭しく立ち入る影がひとつ。


「御加減はいかがでしょうか。アグニカ様。」


 闇の中で、凛とした女性の声が響く。
 この空間では呼吸を止めるに等しいほどの苦しみが彼女を襲っているはずだが、毅然とした表情からはわずかたりともその苦痛を窺うことはできない。



「………………………」

 しかし、その彼女の言葉に応える声はない。


 だが、女性もすぐに言葉が返ってこないことは分かっていたのか、ただひたすらに跪いたまま待ち続ける。



 深い、深い瞑想から浮上するように、この闇の主が覚醒する。


「───────セスナか。────────気分はそう、悪くはない。」

 アグニカと声かけられた者の声は、重く、深く、あらゆる不吉を孕んでいた。


 セスナと呼ばれた白い騎士服を纏った美しい女性は痛々しげに目を伏せる。

「…………報告いたします。魔王アゼル様の行方についてですが、人間領の最果て、ハルジアという国にてアゼル様の魔城を確認したと情報がありましたが、私が直接赴いたところ影もカタチもない状態でした。微かにあの方の魔素の残滓があったことから、ハルジアにいたことは確かなようです。」


「………………そうか。あやつのことだ、死んだということはないだろう。」

 言葉を語るアグニカの瞳からは、一体いかなる感情を湛えているのかを読み取ることができない。

「必ず、あやつを探しだしてここに連れてくるのだ。手段は問わん。あやつの力が、存在が、絶対に必要なピースなのだから。」


「承知しております、アグニカ様。必ず探しだし、魔王アゼルを王の御前に引き連れてみせましょう。アグニカ・ヴァーミリオン様の御名にかけましても。」


「…………………」

 答える声はない。

 再び深い瞑想に入ったのか、アグニカ・ヴァーミリオンの瞳は閉じ、深く刻まれた皺がより一層険しくなっている。

 
「必ず、見つけ出してみせます。……アゼルッ。」


 深い闇の奥の奥、深慮遠望の思惑が蠢いていた。

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