上 下
50 / 52

48話 まだ明るいから

しおりを挟む
 ひたすらにアプローチをかけてくる雪菜ちゃんをマンションの近くまで送り届けて帰ろうとすると、そこで先生から電話がきた。

「はい」
『今終わったよ~!   ちかれたぁ~!  そういえば赤坂くんが物凄いスピードで廊下を走ってる姿見たけど、何かあったの?』
「なんでもないですよ」
『そう?   それならいいんだけど……って用事はそれじゃなくて……あ、あのね?   明日って何か予定あったりするかなぁ?』
「いえ、特にないですね」
『もし、もしね?  赤坂くんが大丈夫だったらなんだけど……今夜、一緒にいたいなって……』

 今夜?  どうしようかな。今週の月曜日からしばらく所用で家を空けるって言って、どこかに行った母さんがいつ帰ってくるかわからないんだよね。

「またなにかあったんですか?」
『と、特に何も無いよ!?   新しい下着買ったとか、新しい部屋着買ったとか、薬局行って色々買うの恥ずかしかったとか、昨日からちょっと豪華なご飯の下準備してたとかじゃないよ!?   ほら!  この前赤坂くんに好きになってもらえるように頑張るって言ったでしょ?  だから頑張ろっかなって。頑張ったら一緒にいれるかな?  って思ったの。……ダメ?』

 先生、全部ダダ漏れです。そして恥ずかしい会計っていったい何を買ったんですか?  全然想像出来ませんよ。全然。まったく。見当もつかない。

「えっと……」
『あ、その!   無理だったらいいの。急に言っちゃってゴメンね?  なかなか言う勇気出なくて当日になっちゃっただけだから。私がダメダメだっただけだから……ね?   うん、この話は無し!  あ、そうそう!  私のクラスに渡瀬彩音さん居るでしょ?  その子が赤坂くんの住所聞きに来たんだけど……何かあったの?  一応個人情報だから言わなかったんだけど』
「行きます」
「……ほぇ?」
「まだ家に着いてないので、一度帰って着替えたらすぐに行きます。だから部屋で待っててください」
「え、あ、うん……うんっ!」
「じゃ、そういうことで」

 僕は電話を切って家に急ぐ。学校で僕を追いかけてきた時の彩音さんの執着を見た感じだと、例え住所を聞けなくても僕の家を見つけるかもしれない。しかも今は母さんがいないから、尚更ママになるとか言いかねない。それはダメだ。一人で家にいるのは怖すぎる。急がないと。

 僕は家の近くまで来るとそこからは極めて慎重に行動する。なるべく人の目に映らない場所を移動し、周囲の気配を探りながら家の裏から玄関に回って家に入るとすぐに鍵を締める。ここまではセーフ。それにしても……

「母さんはまだ帰って来てないんだな。まぁ、連絡はたまにくるから大丈夫だろうけど。さて……」

 僕は急いで部屋に行くと制服を脱いで私服に着替える。そして全ての部屋の窓の戸締りを確認。鍵だけじゃなくてスライドのロックや玄関の内鍵もしっかり確認したあと、勝手口からこっそりと家を出た。

 ◇◇◇

 で、回り道や遠回りを重ねて今、先生の部屋の前に着いたところ。そしてインターホンを押──さないで右手をポケットに入れる。そして取り出したのは目の前の部屋の合鍵。タネも仕掛けもございません。この前泊まった時の帰りに無理矢理渡されたんだよね。「いつでも来ていいからね?  インターホンとか押さなくても勝手に入ってもいいから」って。
 だから僕は言われた通りにその鍵を使って中に入る。車はまだ無かったから、まだ帰って来てなさそうだし、中で待たせてもらおうかな。


「…………へっ?」
「………………」

 鍵を開けて中に入った僕の視線の先には裸の先生。髪が少し濡れてるからきっとシャワーにでも入ってたんだろうけど、タオルの一枚も持っていないからどこも隠れていない。

「な、なんで?」
「なんでって言われてもですね。来てって言われたから来たんですよ。それよりも早く体隠してください」
「え?   あ……ひゃあぁぁぁ! タオル取りに行くところだったのにぃぃぃ~!」

 そして手で体を隠すこともなく色々揺らしながら浴室に戻って行く先生。

「ご、ごめん赤坂くん。タオル取ってもらってもいいかな?   タンスの一番上の右側に入ってるから……」
「わかりました」

 一番上か。あれ?  そういえば一番上って……

「あっ!  やっぱりだめぇぇぇぇぇ!」

 先生がそう叫んだ時にはもう遅く、僕は既にタンスの一番上を引き出していた。
 そこにあるのはタオル──と、色とりどりの下着。こうして見てみると、やっぱり可愛い系のが多いや。で、その下着の列の一番手前には紙袋が置かれていて、それには【赤坂くんとの初めての時用♡】と書かれている。
 なるほど。

「見ないでぇぇぇぇ……」

 浴室から聞こえる先生の消え入りそうな声。早くタオル渡してあげないと風邪引いちゃうなーって思った僕はタオルを取って、その紙袋と一緒に持って行ってあげた。そしてドアの隙間から伸びてきた手にソレをしっかりと持たせる。

「はい先生。持ってきました」
「うぅっ……ありがとう……ってコレも持ってきたのぉぉぉ!?  え?  これを付けろってことなの?  っていうことは……え?  えぇ!?」
「じゃあ僕は部屋で待ってますね」
「ま、待って!」
「はい?」

 呼び止める声に振り返ると、先生が赤くなった顔を半分だけ浴室から出してこっちを見ていた。そして一言。

「ま……まだ明るいから……ダメ……だよ?」

 ……なにが?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

短編集「空色のマフラー」

ふるは ゆう
青春
親友の手編みのマフラーは、彼に渡せないことを私は知っていた「空色のマフラー」他、ショートストーリー集です。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

 女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】

m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。 その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする

田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。 最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。 自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。 そして、その価値観がずれているということも。 これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。 ※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。 基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

処理中です...