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そして……さよならです

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「急だな。お前は来るときも帰る時も」

「すまないな、ロイエルーン。前もって連絡してからの転移だと便利なんだがな」

 ジュリアーノに取り持ってもらい、入浴中のロイエルーンに出てきてもらったのだ。

 初めから終わりまで、ロイエルーンとは風呂のタイミングが合わないものだ。

 クラッチは風呂上がりの姿に少し照れを隠している様子だ。

「世話になったな」

「止めてくれよ。ロイエルーンはいつだって気丈に振る舞ってなきゃ、らしくないよ」

「実際、お前が居なければ魔王軍との戦争は避けれなかっただろう。我が国の損害、下手すれば国が滅んでいた。反対組織の連中も処分して、上手く行けば明日、国王も帰ってくる。国王はどっちでもよいがな」

 最後の部分が一番大事で照れ隠しなのだろうか。

 一度、ミゼル達の父親なんだし会ってみたかった気もするが、それも叶わないな。

「ロイエルーンがこの鏡を大切にしてくれていなきゃ、俺も転移してきていないかもしれないんだ。間接的であっても、この国を守ったのはロイエルーンでもあるよ」

「お前こそ、らしくないことを言う」

「互いに謙遜し合う心は非常に大事なことですよ」

 この国を滅ぼそうとした本人が言うのだから滑稽なことである。

 闇の心さえなければ人々も争いを無くしてくれるのだろうか。

 それとも競争心から生まれた争いの心は無くすことができないのだろうか。

 競争があるから発展がある。

 人類が成長するためには欠かせないのかもしれないが。

「ウタルさんは自分自身で現世に帰る選択をしました。小さな事でも大きな事でも、自分が決断することによって自分で責任を負うことになります。何事も他人のせいではなく自分で責任を持つこと。それが己の成長に繋がり、成長の積み重ねがやがて身を守ってくれるのです」

 スペンサーは一呼吸置いてから再び口を開いた。

「人は必ず何処かで繋がっています。良い事をしても悪い事をしても、やがて自分に帰ってきます。そして、人は必ず一人では生きていけません。誰かに支えられて成長し、誰かを支えていく定めなのです。あなたの決断に自信と責任を持てば、必ず明るい未来があり、名も知らない誰かの未来も明るく照らすのです」

 スペンサーの身体が眩く光出した。

 眩しくて一瞬目を瞑り、恐る恐る開いた目に入ってきたのは、宇宙だった。

「部屋が、宇宙になってる?」

「広い宇宙であっても、人の繋がりは途絶えません。人は孤独ではありません。孤独と思い込む気持ちこそが排除しなければならない心です。そんな心に負けてはいけません。私はウタルさん、あなたにこの言葉を伝えられた事を幸せに思いますよ」

「あぁ。ロイエルーン!  急な別れになったけどとみんなに宜しく言っといてくれ。ルーチェとセリカは給料の心配ばかりしてるから食いっぱぐれないようにしてやってくれ。ロバーツも中途半端なって悪かったって。カイトもシーヴァイルもみんな、仲良くしてくれよなって」

 壁に掛けてある鏡が神々しく光を放つ。

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