上 下
124 / 138
クラッチは我慢が苦手です

123

しおりを挟む
 丁度そこへ、進行方向から何やらあわただしくくる馬車が到着した。

 その数、十台程度。

「遅いから迎えに来たのに、どうなってるんだこれは!」

 何やら身体の臭い奴等が、倒れている男に駆け寄っていく。

「完全にノビてます!」

「運べ!  運んでから治療するんだ、急げ!  船はもう出るぞ!」

 仕切っている奴の声で他の身体が臭そうな奴等が一人の音を運びだした。

「お前らがやったのか?」

 俺達三人は黙っていた。やったのはクラッチロウだからだ。当の本人は名乗ってまた揉めた時に手を出してしまうとわかっているからだろう。

「お前らがやったのかって聞いてんだ!」

「だったらどうだって言うのよ!」

 ミゼルは俺の頭をポカポカ叩きながら反抗している。

 見た目的に肩車されてる女の子が倒せる程ヤワな男ではなさそうだが。

「てめぇ、この方を誰だと思ってるんだ!」

「あ、自己紹介してたけど途中で泡吹いて倒れたの!」

 ミゼルが言ってる事に間違いはない。ただ倒れる原因を作ったのが誰かってのを、この身体の臭い奴は聞きたいのだろう。

「この方はな、ドンジーロ・ホセイ様が率いる海賊船十三艦隊の内の十二艦隊所属の十四番隊として今日から入隊される、コンニャック様だぞ!」

「よくわかんねーよ……」

   説明口調で説明するが全てに興味がないと、これ程までに頭に入らないものなのかと自分でも感心してしまうほどだ。

「ちょっとアンタ!  今、海賊とか言ったわね!」

「あぁそうとも!  俺達は海賊ドンジーロ・ホセイ様が率いる……」

「何回も言わなくてもいいから!  海賊なんて、海の底に皆沈んでしまえばいいのよ!」

 いつになくミゼルが興奮しているのがわかる。それは太ももからも伝わってきた。

 ムチムチの太もも、ミゼルはもしかしたら餅肌の持ち主なのかもしれない。持ち主は餅肌。ムフ。

 その太ももが肩車をしている俺の頭を強烈に締め付けている。これはミゼルがかなり興奮していると捉えて間違いない。

 いいぞ、何処の海賊かなんか知らんが、もっと言い争って俺の頭を圧迫する手助けをしろ。それが海賊としてできる最大の行いだ。

「てめぇも何ニヤニヤしてんだ!」

 ミゼルの太ももをさすりながらどうやらニヤけていたようだ。そりゃニヤけるだろうよ。

 渋滞が解除され、横を通り抜ける馬車の中から何事かとこっちを見てる人も多い。

 誰が見てもひと悶着あった、揉めてる状況だとわかるがその中で、肩車した男がニヤニヤしているのだ。異様な光景に見られただろうか。気を引き締め直して。

「隊長! コンニャック様積み終わりました。急いでください!」

「てめえら命拾いしたな。今度会った時、地獄に送ってやるぜ」

「殺られキャラがよく言うセリフだな」

「お前等ぁ」

「私は隣国のミゼルーン姫よ。そしてこの馬役のお兄ちゃんは月野ウタル。あんたらなんか本気だしたら即死なんだからね! 風呂入って身体洗って待ってなさいよ」

 本当は首を洗ってが正しいのだが、本当にこいつ等体臭が酷く近づけないので、倒す時に息を止めなきゃいけないからミゼルの言ってることはある意味正しい。

「そして、あっちで棒立ちしてるのが魔王軍一の手下、即キレのクラッチさんよ」

 酷い紹介である。手下じゃなくて幹部とか言ってやれよ。

「馬野ウタルとキレッチ! 覚えたぞ!」

 全く覚えていない状態で男は馬車に乗って去っていった。

 クラッチの蹴りで飛ばされた男はまだ気絶をしている。こいつも後で仲間が来るのだろうか?

「後で軍の者に言って収監させとく」

 いまいちクラッチロウがこの国の偉い人に君臨しているイメージがわかないのだが。

しおりを挟む

処理中です...