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はじめましてこんにちは、魔王ですか?

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 興味がない、と言えば嘘になるかもしれない。自分が現世に戻る為だけという名目で倒すつもりだが、魔王が復活の目的。それ以上に魔王自体が一体何者でどうやってこの世に君臨することになったのかが気になった。何千年もこの氷の中に封印されていたなら、人間に対しての憎悪は計り知れないものだろうということはわかる。では何故、魔王はここに封印されなければならなかったのか。最初の転移者が現世に戻る為か? そもそも最初の転移者が魔王を倒せば現世に戻るということは知らなかったとしたら? やはり封印される落ち度が魔王にあったと考えるのが当然だろう。

「人間は人間だけの立場でしか物事を考えていない。権威を手に入れたものほど己の欲望のままにこの星を汚染していく。平等という言葉を己より上位の者に対してだけ使い、下位の者には不平等を与える。なによりこの星で一番偉い者が人間と勝手に決めつけるなどと」

「だからと言って、人間を排除するという考えは極端ではないか! 今こうしている間でも、人は一生懸命生きているんだ!」

「フッ、貴様のような考えを持った者が淘汰されていった人類の愚かさを呪うがよい……。そろそろ時間のようだ。お客より遅れて到着したことによる怒りの捌け口が、当事者の貴様に向けられそうだがね」

 魔王が喋り終えると、炎が届かない暗闇の方から足音が聞こえてきた。

「誰かくるで!」

 足音は二人分だった。一人は誰もがマーベリック・クラッチロウであると確信していたが、もう一人の足音はカイトであろうと希望的観測でセリカは叫んだ。

「カイト様!」

 少し走り寄ったセリカはその者達の姿が見え始めたところで足を止めざる負えなかった。

 暗闇から現れたその二人のうち一人は黒い魔導士のような服装だった。その手前を歩く者の目は怒りを抑えきれない眼光でこちらを睨みつけていた。

 カイトを見たことない俺でもその二人のどちらもカイトではないことがわかったのは、鋭い眼光の者が肩に担いでいる氷の十字架に張り付けられた者を見たからだった。

「……」

 思わず息を呑む。その十字架に張り付けられた者がカイトだとしたら、それは女性の間違いだったのではないかという程の美しさがあったからだった。

 裸の上半身から髪の毛の先端まで霜で覆われている。その裸を見て男と決めつけるのにも些かの時間が脳に必要と思える程の美しさだった。それは美を女性の専売特許とすることに異を唱えるような美しさがあった。

「スペンサー様、誠に申し訳ございません。人質を取って帰ってきたらこんな虫けらの侵入を許してしまう程の時間を要してしまったことを」

 魔王からの返事はなかった。そもそも返事を求めている程の間を開けず、こちらにたいして敵意むき出しの言葉を並べてきた。

「どうやってここに来たか知らねえが、目的はこいつなんだろ?」

「あぁ。お前がマーベリック・クラッチロウだな」

「良くご存じで。すると貴様がバンパーを倒した者か?」

「あのデブがバンパーって名前なら倒したのは俺だ。俺の名は……」

「その言い草が気に入らねぇなあ! これから死んで行く者の名前をいちいち覚えておくほど俺はぬるくないんだよぉぉぉ!!」

 叫び声と同時にこちらに走り出してきたクラッチロウは、担いでいたカイトをミゼル達の方に向かって放り投げた。

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