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先遣隊でーす

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 先程までの緩んだ空気とは違い、慌ただしくなる。季節外れの吹雪とは言え、輸送という一見簡単なようだが特殊任務中であるのは間違いない事実。緩んだ気持ちから任務へのギアを入れるのに若干のロスが生じる。それが怠慢であり後に慢心を悔やむものなのである。

 一向にピンとが合わず肉眼で確認をしようとした瞬間であった。何百メートルだろうか、確実に何者かが向ってくるのがわかる。何者か、その時点で獣の類ではなく人であることは理解していた。理解せざる負えないと言った方が正解だろうか。目視できる距離にいた者が人と認識できる姿だったというだけで、迫りくる速度は人のそれを超越していた。

 目視した瞬間、人の姿をしたなにかが、人がおよそ出せれる速度でない速さで近づいてくる。脳がそう理解するにはあまりにも時間が掛かり過ぎた。非現実的な出来事を理解するのに要する時間は、一瞬では不可能に近い。それでも軍隊所属の勘も働きとっさに危険という信号が脳裏をよぎる。

 現実的な現象ならばその対応でギリギリどうにかなったかもしれない。しかし、その超越した速度で近づいてる者には初期の発見段階で臨界体制を取っていたとしても回避、もしくは抵抗できていたかは知る由もない。

「ぬるい!」

 男が肉眼で見ようと望遠鏡から視界を外した瞬間、その者が対峙した。

「アイスブレイド」

 その者が現れて、白い吐息が止まって見えた。吹雪は止んだはずだった。目の前の相方が凍り付くのを目の当たりにして、白い吐息の理解をした。

 見張り役の任務として何一つ守れなかったところだったが、自分も凍り付かされる覚悟をした瞬間、危険信号弾を放つ。後ろに待機しているカイト達仲間への最後の願いと後悔の念を込めて。

 ※

「信号弾が上がったぞ。全員臨界体制に入れ!」

 副隊長らしき者がテントから出て一向に支持を出す。当然、戦闘態勢に入るか回避すべきかは相手の数と双方の距離による。

 見張り役が真面目に仕事をしていれば、敵を早くに察知できる。しかし、敵がこちらの思惑以上の戦略があった場合は予定通りに事は進まない。

「大群に気を取られて射程圏内までの進入を許したか? それとも突撃か? どちらにせよ……そういえばいつの間にか吹雪が止んでいる……?」

 見張りがいたテントに向かおうとした途端、それは高く舞い上がり同時にこちらに向かってくる風に気付いた。

 正確には風ではなく何か物体であると同時に懸念したが、風のように素早かった為次の判断に一瞬の迷いがあった。

 副隊長としての鍛錬と勘が身を守ったか、辛うじて剣で攻撃を防ぐことができる。しかし、不意な攻撃でうろたえ態勢が二度目の攻撃を防ぐ事無理と判断する。

 見張り役のテントとの距離は百メートル程あった。風のように迫って来た何かが副隊長の懐に入って攻撃するまでの感覚は、ほんの十メートル程手前からの攻撃されたようだった。

 しかし、目視で確認できたのが十メートル手前だとしたら、攻撃に対応するのも若干の遅れが生じるのも仕方がない。

 だが、あれは確実にテントの方からやってきた。一体、どういうことか理解不能のまま、二度目の剣が喉元に襲いかかる。

「死ぬ!?」

 その諦めの感覚さえも間に合わない程の速度に副隊長は気を失い、地面に倒れ落ちた。

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