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魔法使いルーチェ

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「それで、そのどこの馬の骨かわからん者の言うことを信じろというのか?」

「大丈夫、立派な馬の骨ですねん。それより王妃様はまだですかね?」

「ロイエルーン様はお風呂だと言うておろう」

「流石上級国民は城内にお風呂があるんやな。最高やな」

 帰宅の報告に来た俺達は、ロイエルーンの風呂待ちだった。ミゼルは風呂に入ると言って自分の部屋に行ってしまった。一緒に入ろうと誘われたのだが、やんわり断っておいた。

「ルーチェの家には風呂はないのか?」

「あるわけないやろ! 自分も上級国民かいな? 一般市民は川か湖で行水が当たり前やで」

 そうだったのか。だから水工場の風呂場に保護者も入って来たのは、風呂が贅沢品だからなのだな。

「夏場とかはええけど、冬場になったら地獄でなぁ。その分汗はかかないけどやっぱり綺麗にしたいやろ」

 確かに。ルーチェの言葉に頷きながら、現世は恵まれていた環境だったんだなと。自宅に風呂がない時代でも銭湯に行けば良かっただろうし。

 

「帰って来たか。遅かったな」

 ガウンを着て髪をタオルで拭きながら出てきたロイエルーンの後ろに、少女漫画に出て来そうなイケメン王子が立っていた。

「めっちゃ男前やな」

「その者は?」

 ロイエルーンの方を向いて勢いよく挨拶をし出した。

「紹介遅れましてすんまへん。私、名はルーチェって言うしがない魔法使いです。よろしく頼んます」

 挨拶してる合間にジュリアーノがいきさつをロイエルーンに説明していた。

「その噂が本物だという証拠はあるのか?」

「ありません。私も巷の噂で聞いた程度ですけど、頻繁に聞く様になったので確かな情報だと思います」

「隣国がこの国を支配下に置こうとしているなどと、おこがましい!」

 タオルが千切れるほど噛んで悔しさをあらわにする。

「それで臨戦態勢に入るんなら、私を雇ってもらいてくて、衣食住付いてたら後は出来高払いでかまいません。今の時代魔法使いは仕事なくて食べていくのもままならない状況でして、それで噂を報告がてら就職活動もしてみようかなぁとか。ハハハ」

 嘘ならもう少しマシな言い方があると思うのだが、このルーチェ嘘が付けない性分なのか、俺は話が本当だと思った。

「俺は隣国とかこの国の情勢はわからないが、今日実際に敵と遭遇して下手したら殺されていたかもしれなかった。あれが隣国の者ならあながち噂も本当かもしれんぞ」

「貴様が言うことが本当だという証拠は?」

「ミゼルがいる」

 後ろの少女漫画王子につっかかってこられた。確かにそいつからしたら俺も信用ならないグルに思えるのだろう。ってか誰?

「シーヴァイル、六時に緊急会議をする。皆を集めよ」

「はっ」

 シーヴァイルと呼ばれた男は俺に冷たい目線を送りながら部屋を出ていった。

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