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俺がお前でお前は俺か?
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「お前、誰だよ」
「俺は俺だよ。ってかお前こそ誰だよ」
「俺も俺だよ」
『だよなぁ』
最後は二人が声を揃えて呟いた。
俺は腕を組んで悩む癖があるのだろう、なにか良い案が出るわけでもなく落ち着くわけでもないのだが。
鏡の向こうの俺も同じように腕を組んで悩んでいるのが滑稽に見える。
鏡に映っているのだから、ある意味正しい光景ではあるのだが、一番の違いは俺が素っ裸であることだろう。
「お前が本物だという証拠はあるのか?」
「まてまて、鏡の中にいるお前が俺に本物かっておかしいだろ。お前こそ本物か?」
言われて納得するしかなかったのは、自分の姿をした容姿に言われたのが原因だろうか。
「ってか、そこ何処? なんで裸なの?」
「いや、俺にも全く分からないし。ヨーコを抱きしめたらお互い裸の不思議な夢みて、気が付いたら……」
「その夢は俺も見たぞ。宙に浮いて裸で抱き合っている夢だろ?」
「え?」
ヨーコの部屋にいる俺の姿をした奴の言葉に偽りはないように思った。それはもし俺の偽物であっても夢の話、それもちょっと前に見た夢のことなど本人以外わかるはずもないからだ。
『つまりお前は俺か?』
時々、打ち合わせもなくセリフが一致するところに、お互いが同一人物である可能性が高いことを証明しているようだった。
「ここ最近の大きな出来事三個を同時に言ってみよう。考える余地なし。せーの!」
「え? え? えーと……」
『ニートを卒業。からし屋マタジに就職。ヨーコが白血病』
二人の俺たちの言葉はまるで台本があるように息もぴったりだった。
それは、眉唾であっても目の前の自分は自分本人である証明であり、強制的にでも信じるしかないということだと。
「おそらく、同じものを見たというあの不思議な夢から分岐点ができてパラレルワールドに転生したんじゃないかと思う。豚平さんの言うことが正しければ、三千年前から存在していると言われるこのペンダントと鏡に謎が隠されているのかもしれない」
言われて納得したが、落ち着いて今の状況を分析、解説できるのは現実世界にいる余裕が生むものなのだろう。
今の俺は落ち着いてそんなことを考える余裕はなかった。流石俺。いや現実世界にいる俺。ってことは俺がパラレルワールドにいる俺ってことなのか?
そんなことを考えている間も少しずつ鏡に映る現実世界は狭まっていく。
時間がない。俺は直感で思った。閉ざされる鏡が現実世界と今の世界を繋いでいる最後の頼みであると。
死後の世界に連れていかれる瞬間ってこうなのだろうか?
死神か天使が迎えにくるかはわからないが、現世に別れを告げて黄泉の国に連れていかれるという。
そう思うと、なにか言い残すことはないかと思ったのは、同時に現実世界に戻る可能性は低いということを受け入れたことだろう。
運良く? 現実世界に「俺」がいるということは、これからもかわりない生活を送っていくことだろう。
「すまん、マタジの皆によろしく伝えといてくれ!」
「あぁ!」
「あと、ヨーコのことを頼む」
「あぁ、わかってる」
最後にヨーコに声を掛けて顔を見たかったが、その役目はもう現実世界にいる「俺」に託すことにした。それは自分自身に区切りをつけなければならないということだったのかもしれない。
「俺は俺だよ。ってかお前こそ誰だよ」
「俺も俺だよ」
『だよなぁ』
最後は二人が声を揃えて呟いた。
俺は腕を組んで悩む癖があるのだろう、なにか良い案が出るわけでもなく落ち着くわけでもないのだが。
鏡の向こうの俺も同じように腕を組んで悩んでいるのが滑稽に見える。
鏡に映っているのだから、ある意味正しい光景ではあるのだが、一番の違いは俺が素っ裸であることだろう。
「お前が本物だという証拠はあるのか?」
「まてまて、鏡の中にいるお前が俺に本物かっておかしいだろ。お前こそ本物か?」
言われて納得するしかなかったのは、自分の姿をした容姿に言われたのが原因だろうか。
「ってか、そこ何処? なんで裸なの?」
「いや、俺にも全く分からないし。ヨーコを抱きしめたらお互い裸の不思議な夢みて、気が付いたら……」
「その夢は俺も見たぞ。宙に浮いて裸で抱き合っている夢だろ?」
「え?」
ヨーコの部屋にいる俺の姿をした奴の言葉に偽りはないように思った。それはもし俺の偽物であっても夢の話、それもちょっと前に見た夢のことなど本人以外わかるはずもないからだ。
『つまりお前は俺か?』
時々、打ち合わせもなくセリフが一致するところに、お互いが同一人物である可能性が高いことを証明しているようだった。
「ここ最近の大きな出来事三個を同時に言ってみよう。考える余地なし。せーの!」
「え? え? えーと……」
『ニートを卒業。からし屋マタジに就職。ヨーコが白血病』
二人の俺たちの言葉はまるで台本があるように息もぴったりだった。
それは、眉唾であっても目の前の自分は自分本人である証明であり、強制的にでも信じるしかないということだと。
「おそらく、同じものを見たというあの不思議な夢から分岐点ができてパラレルワールドに転生したんじゃないかと思う。豚平さんの言うことが正しければ、三千年前から存在していると言われるこのペンダントと鏡に謎が隠されているのかもしれない」
言われて納得したが、落ち着いて今の状況を分析、解説できるのは現実世界にいる余裕が生むものなのだろう。
今の俺は落ち着いてそんなことを考える余裕はなかった。流石俺。いや現実世界にいる俺。ってことは俺がパラレルワールドにいる俺ってことなのか?
そんなことを考えている間も少しずつ鏡に映る現実世界は狭まっていく。
時間がない。俺は直感で思った。閉ざされる鏡が現実世界と今の世界を繋いでいる最後の頼みであると。
死後の世界に連れていかれる瞬間ってこうなのだろうか?
死神か天使が迎えにくるかはわからないが、現世に別れを告げて黄泉の国に連れていかれるという。
そう思うと、なにか言い残すことはないかと思ったのは、同時に現実世界に戻る可能性は低いということを受け入れたことだろう。
運良く? 現実世界に「俺」がいるということは、これからもかわりない生活を送っていくことだろう。
「すまん、マタジの皆によろしく伝えといてくれ!」
「あぁ!」
「あと、ヨーコのことを頼む」
「あぁ、わかってる」
最後にヨーコに声を掛けて顔を見たかったが、その役目はもう現実世界にいる「俺」に託すことにした。それは自分自身に区切りをつけなければならないということだったのかもしれない。
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