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~第一部~ 戯言
02
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「すまないなアンタたち。アンタたちに恨みはないんだが、ちょっとばかし急いでいるんでね。この異世界で俺の目的を突き止めなきゃいけないんでな」
目にも止まらぬ早業で、とまではいかないが、剣道でも有段者でなければかわすことは困難であろうという素早さで目の前の男共を切り裂いた。その数、十人近くはいたであろう。だが、それを一瞬で仕留めた俺の名は、月野ウタル。
と言っても特殊な武器である為、人体に直接の損傷は与えることはなかった。別名、ブラックソード。これは現世時代、からし屋マタジの本部が開発した、人間を切りつけることによって心の闇を具現化する武器であった。闇を取り出された人間は、闇の大きさによって異なるが、しばらく気を失うのであった。
「目が覚めても今日の負けを恥じることはない。相手が悪かったと思えばいいさ。生きながらえた命を大切にするんだな……」
決まった。かのように思えたが、出てきた闇はハエ程の大きさだった。闇はその人の凶悪さに大きさは比例するのであった。当然、ハエ程度の闇では気を失う程の影響はない。
「ちっさ! めちゃ小さいじゃん。このっ! このっ! このっ!」
気を失わず立っている男共の奥からはだけたガウンを直しながら女性が俺の方に歩いてきた。当然、俺は大きく開いた胸元に視線を奪われた。女性は満面の笑みを浮かべながら、俺に指図する、無言で。
トボトボと俺は指図された貼り付け台に向かって歩き出す。
「最後になにか言いたいことはないか?」
「パンツを穿かせてください」
「パンツ!? オーホッホッホッホッホ! 戯言を!」
素っ裸のままで、貼り付け台に背中を合わせながら呟く俺。
「なんでこうなったっけ?」
02 裸で始まる
「キャーーー!!」
裸で倒れこんでいる女性の叫び声で俺がこの部屋にお呼びでないということがわかる。
「ロイエルーン様!」
俺を突き飛ばしたと思われる女性が、ガウンを持って倒れている女性にかけ、肌の露出を減らした。
その間も俺はでんぐり返しの状態で逆さまの目線でその様子を見ていたが、何から考えれば良いのかを考えていた。全く、夢でもこのような唐突な状況は起こりにくい。
「貴様、何者だ! どこから入ってきたのだ!」
ロイエルーンと呼ばれていた女性はガウンだけを羽織って起き上がりながら俺の方に指を指しながら言い放つ。
子供の頃、日曜日の夕方にうたた寝をしてしまい、7時過ぎに目覚めた時に慌てて学校の準備をしてたら親に笑われ、実はまだ日曜日の19時過ぎだったことがある。慌てるというのは周りの状況判断が一時的に乏しくなるのだろう。
少し大人になった今でも慌てて滑稽な行動をすることもしばしばあるのだが、この状況で何を慌てて何からすればよいのか、瞬時に判断できるはずもなかった。
しかし、その諦めというかこの場からとりあえず逃げるという選択が低かったのは、目の前にいるのが女性で二人、しかも裸だったからという理由はかなり大きいだろう。
これがガチムチの男性が二人だったら考える前にとにかく逃げる選択をしていたに違いない。
とりあえず逆さまの状態から身体を戻そうとした時、上から鎧の兜らしき物が降ってきて目の前がぼやけてしまった。
恐らく頭上ではヒヨコがピヨピヨと回りながら数匹飛んでいたのだろうか。
目の前に転がっている鉄仮面のような兜を見て、十九世紀の騎士団のような印象を教科書で見たような記憶が頭の中を勝手に駆け巡っていた。その頭を擦りながら周りを見渡すと、映画や絵画で見たようなヨーロッパの景色だった。
そして、降ってきた頭上の方を見ると、やっとと言うべきか俺は人並みに慌ててだし、それまで自分が何をしていたかを思い出した。
目にも止まらぬ早業で、とまではいかないが、剣道でも有段者でなければかわすことは困難であろうという素早さで目の前の男共を切り裂いた。その数、十人近くはいたであろう。だが、それを一瞬で仕留めた俺の名は、月野ウタル。
と言っても特殊な武器である為、人体に直接の損傷は与えることはなかった。別名、ブラックソード。これは現世時代、からし屋マタジの本部が開発した、人間を切りつけることによって心の闇を具現化する武器であった。闇を取り出された人間は、闇の大きさによって異なるが、しばらく気を失うのであった。
「目が覚めても今日の負けを恥じることはない。相手が悪かったと思えばいいさ。生きながらえた命を大切にするんだな……」
決まった。かのように思えたが、出てきた闇はハエ程の大きさだった。闇はその人の凶悪さに大きさは比例するのであった。当然、ハエ程度の闇では気を失う程の影響はない。
「ちっさ! めちゃ小さいじゃん。このっ! このっ! このっ!」
気を失わず立っている男共の奥からはだけたガウンを直しながら女性が俺の方に歩いてきた。当然、俺は大きく開いた胸元に視線を奪われた。女性は満面の笑みを浮かべながら、俺に指図する、無言で。
トボトボと俺は指図された貼り付け台に向かって歩き出す。
「最後になにか言いたいことはないか?」
「パンツを穿かせてください」
「パンツ!? オーホッホッホッホッホ! 戯言を!」
素っ裸のままで、貼り付け台に背中を合わせながら呟く俺。
「なんでこうなったっけ?」
02 裸で始まる
「キャーーー!!」
裸で倒れこんでいる女性の叫び声で俺がこの部屋にお呼びでないということがわかる。
「ロイエルーン様!」
俺を突き飛ばしたと思われる女性が、ガウンを持って倒れている女性にかけ、肌の露出を減らした。
その間も俺はでんぐり返しの状態で逆さまの目線でその様子を見ていたが、何から考えれば良いのかを考えていた。全く、夢でもこのような唐突な状況は起こりにくい。
「貴様、何者だ! どこから入ってきたのだ!」
ロイエルーンと呼ばれていた女性はガウンだけを羽織って起き上がりながら俺の方に指を指しながら言い放つ。
子供の頃、日曜日の夕方にうたた寝をしてしまい、7時過ぎに目覚めた時に慌てて学校の準備をしてたら親に笑われ、実はまだ日曜日の19時過ぎだったことがある。慌てるというのは周りの状況判断が一時的に乏しくなるのだろう。
少し大人になった今でも慌てて滑稽な行動をすることもしばしばあるのだが、この状況で何を慌てて何からすればよいのか、瞬時に判断できるはずもなかった。
しかし、その諦めというかこの場からとりあえず逃げるという選択が低かったのは、目の前にいるのが女性で二人、しかも裸だったからという理由はかなり大きいだろう。
これがガチムチの男性が二人だったら考える前にとにかく逃げる選択をしていたに違いない。
とりあえず逆さまの状態から身体を戻そうとした時、上から鎧の兜らしき物が降ってきて目の前がぼやけてしまった。
恐らく頭上ではヒヨコがピヨピヨと回りながら数匹飛んでいたのだろうか。
目の前に転がっている鉄仮面のような兜を見て、十九世紀の騎士団のような印象を教科書で見たような記憶が頭の中を勝手に駆け巡っていた。その頭を擦りながら周りを見渡すと、映画や絵画で見たようなヨーロッパの景色だった。
そして、降ってきた頭上の方を見ると、やっとと言うべきか俺は人並みに慌ててだし、それまで自分が何をしていたかを思い出した。
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