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第十三章 ひとりぼっちの温泉旅行

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「雪実ーーー!」

「おや? お知り合いで?」

 急いで駆け寄ろうとするも、周りのあやかしに塞き止められる。ぐったりとしていた雪実は微かに目を開くのがわかる。どうやら意識を失っていたようだ。

「どけ!」

「なんだぁ貴様! 人間の癖にやろうってか!」

 雪実を乗せた神輿まで辿り着く事が出来ずもがく。雪実の無慚な姿を見て頭に血が上り我を忘れていたが正気に戻り、両掌から矢を出し掴んで来ているあやかしに突き刺した。

 両脇のあやかしが浄化され、再び雪実に近寄る。

「こいつ、沖田の者か?」

「なんだなんだ!」

「ギャー!」

 浄化される仲間を見た他のあやかし共が騒ぎ出す。続けて弓矢を取り出して襲って来るあやかしに放った。

「一旦散れ! 神輿を守るのだ!」

 玄関口にいたあやかしは散らばりだし、旅館の中に入っていく者もいた。女将にはすまないと思いながら神輿を担いで逃げようとするあやかしを追って外に出た。

 邪魔をしてくるあやかしを浄化するも数が多く、雪実を乗せた神輿に中々辿り着けなかった。

 なんとか神輿を運ぶあやかしを浄化して足止めは出来たが、襲い来るあやかしに手間取って雪実自身を助けに行けずにいると、旅館の方から叫ぶ声が聞こえてきた。

 振り向くと後方にいたあやかしが次々に浄化されていく。明らかに放たれた矢の速度と連続する間隔の短さが俺とは違っていた。

「朝から何事じゃ!」

「じ、じいちゃん?」

 旅館から矢を放ちあやかしを浄化させながら出てきたのは紛れもない俺のじいちゃんだった。

「じいちゃん、なんでここに?」

「無料招待券、使わねばなるまいに。ワーハッハッハッ!」

「いや、笑ってる場合じゃないんだじいちゃん。あの神輿の中にいる雪実を助けたいんだ!」

「アタタタタタ、腰が……」

 持病の腰痛が出たのか腰を押さえて痛そうな顔をする。朝早く身体がまだ温もっていないからだろう。

「大丈夫か? ともかくそこから援護してよ!」

 迫りくるあやかし全てを浄化してやっとの思いで雪実に近寄った。

「どうやら役者が揃ったようですね」

 少し離れた場所から経緯をみていたキツネ目のあやかしは不敵な笑みを浮かべていた。

 残るあやかしはもうキツネ目だけだというのに、それが気になりながらも取り合えず雪実救出を最優先しようとした時、けたましい雄叫びと共に圧倒される邪悪な妖気を纏ったあやかしが目の前に現れた。

 勢い余った牛舎の風圧によって俺は後方に吹き飛ばされた。

 牛のようなあやかしが引く巨大な牛車から降りるあやかし。キツネ目のあやかしが言ってたコイツが……。

「酒呑童子……!」

「グルフフフフ、九尾! 準備は出来たのか!」

「申し訳ございません、沖田の者と思われる奴が現れて少々手間取っております」

「なにぃ! ところで俺の嫁候補はどこだ!」

「はい。そちらの神輿の中で御座います」

 傾いた神輿に近寄り片手で屋根を破壊する。簾も同時に吹き飛び、猿轡で声は出ないが怯えた表情を訴える雪実が現れた。

「グルフフフ、いいじゃねぇか! 上玉だ! でかしたぞ九尾、早速子造りをするぞ!」

 酒呑童子は手に持つひょうたんから酒を溢しながらも勢いよく飲んだ後に右手を上から振りかざし、爪で雪実を縛っている縄と一緒に着物の帯も切り裂いた。

 着物が肌蹴てもう少しで乳房の先端まで見えそうになるも急いで自由になった両手で隠す雪実。

「この野郎!」

 怒りに任せて俺は酒呑童子に矢を放った。冷静な判断が欠けた為、矢は酒呑童子の肩を貫通する。

「あぁぁ? お前が沖田の者か? けっ!」

「な! 矢は貫通した筈だぞ……」

「こんなもんか! グルフフフ、相手にならんわ。九尾! お前が片付けろ。俺はこの女の味見が先だ!」

 酒呑童子は嫌がる雪実を無理やり抱き寄せた。

「いやーーー! 助けてお兄ちゃん!」

 やっと猿轡を外した雪実は泣き叫ぶ。

「雪実!」

 駆け寄ろうとした瞬間の隙に九尾は剣を振りかざしながら襲い掛かってくる。雪実達に気を取られていた為九尾の攻撃に対する反応が遅れた。

「殺られる!」

 絶望的な場面で後ろから一筋の光が九尾を貫通する。

「じ、じいちゃん!」
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