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第十二章 今から自分を変えます、貴女の為に……

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 手紙を持ってベッドに寝転がり、天井を見上げ見開いた俺は呟いた。

「読めねぇ」

 これはいつの時代の字なのだろうか。江戸か? 無駄に達筆すぎて全く読めないじゃねぇか。

「冒頭のお兄ちゃんへと最後のさようならが雰囲気でなんとか読めるけど……」

 文中に大事なことを書かれていたら見落とすんだけどなぁ。大丈夫かよ。

 本当はこうしてほしいのに敢えてこんな感じで書きましたって意味合いとかだと、気持ちを汲んだりするのが大事になってくるけど読めなくて読んでないんじゃ勘違いされそうで嫌だな。

 そもそも昨日の俺と話して決めたって言ってたけど、どのタイミングの会話なのか思い出せなかった。

「なんかすれ違いなのかなぁ」

 手紙が読めないもどかしさを感じながら目を瞑っていた。

 昨日も風呂の中で俺の息子がロマンティコ状態に気を取られて雪実の話に耳を傾けていなかった。

 この手紙と一緒で大事なことを言ってるのに俺が聞いてなかったり素っ気ない返事をしてたら……。

「それじゃねぇか」

 アイツ、大事な話を風呂の中でしてたんじゃないのか? なんでそのタイミングでするんだよぉって、文句言っても仕方ないんだが。

 本当はちゃんとするつもりだったのに、ノンアルコールシャンパン飲んでしまったから風呂に入って来てしまったとか? どんだけ酒に弱いんだよって話だな。

「あーーー」

 もどかしい自分に嫌気がさしながら、風呂場で泣きつかれたのもあっていつの間にか寝てしまっていた。

    ※

 朝、いつも通りの時間にスマホのアラームが鳴る。一度切ってスヌーズで再び鳴り出す。切っても再び鳴る安心感が逆に目覚めの邪魔をする。現在の時間を確かめずにボタンを押して切るものだから何度目かもわからなくなって起きたい時間をオーバーする日も度々あったが、寝坊という程の遅れがなかったのは幸いだ。

 いつもより少なめの三度目で布団から出てトイレに向かった。二度目のアラームが鳴った時に起きる必要がないことを思い出していた。

 今日は一日中布団の中で過ごしても誰にも文句を言われない、誰にも迷惑を掛けないということ。それは明日も明後日も、自分が困るまで布団から出ないで生活しても許されるのだ。

 これが親の元で住んでいたらニートになってしまうのだろうか。それは甘えだと世間は言うのだろう。

 早めに転職先を探せばなんとでもなるのだろうけど、いざ自分がなると気持ちが重くそれを言い訳に二の足を踏みながらも明日にはなんとかなるだろうと、何の保証もない自信が逆に邪魔をする。

 起きなくてもよい、だからこそ敢えて起きてコーヒーの準備をする。それは今までの会社に愛着が無くただ生活の為に働いてきただけだから、また探せばなんとでもなるといいう気持ちが強かった。

 これが家庭を持ってる人ならばそう楽天的に思う猶予は無いのだろうけど、生憎独り者なので……。

 コーヒーの出来上がりが近づくにつれ、昨日の現実を思い出してくる。

 詩織さんと雪実との関係が途絶えた現実が二重にも三重にもなってのしかかってくる。

 仕事は転職でなんとかなるが、詩織さんは本人は一人しかいない。雪実だって……。

 雪実を思う度に、状況が違ってたら俺の気持ちも変わっていたのだろうかというズルい考えの自分に嫌気がさす。

 その気持ちとは関係ないのだが落ち込みを理由に仕事探しも億劫になる。これがニートへの一歩だとするなら実家に帰るのも視野に入れなければならないのか。

 いや、実家に帰って甘える方がニートになる確率が上がりそうなのでそれだけは回避したいところである。

 コタツに潜り、焼けたパンとコーヒーを運んで昨日から置いてあった郵便物に目を通した。

「閉館……だと……?」

 朝から四重の辛い現実が重くのしかかってきた。
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