上 下
75 / 99
第十一章 夜明けのホワイトクリスマス

05

しおりを挟む
「昨夜はごめんなさぁい、またポカしちゃった」

「詩織ぃ、お酒は程々にしなきゃっていつも言ってるのに」

「わかってたんだけど、楽しくってつい……」

「ま、まぁお酒でハメ外すのは誰にでもあることだし、取り返しのつかないことがあったわけじゃないし」

 言った瞬間、雪実をチラッと見ると唇を尖らしてこっちを見ていた。

「詩織は怒り上戸の泣き上戸だったでしょ?」

「もう、言わないでぇ」

「それでもどんなに酔っても全部覚えているところは素直に凄いって思うけどね」

 カオリ君を止める詩織さんを見ながら昨夜のことを思いだしてくる。酔って出た言葉が本音か酔った勢いかは置いといて、全部覚えているのは恥ずかしいこともあるのではないか。逆にこっちも酔って言ってることも覚えられているとなると、恥ずかしいこと言ってないか心配になる。雪実とは逆だな、すっかり忘れてるからな。

「詩織はねぇ、寂しがりやなんだよ。そこが男からしたらガードが緩いって勘違いされるの。だからいっつも気を付けろって注意してんだけどな。昨日もお宅じゃなかったらやられてたかもな」

 今のお宅は君って意味か? オタクでも生で乳くらい揉もうとすることだってできるんだぞと威張りたいところだ。

「明君は、そんなことしないもん」

「ハイハイ、で? どうすんのアンア達。なんかイイ感じっぽいけどそんな話になったの?」

「えっとぉ……わかんないんだけど」

 ドキドキである。ただ、酔った勢いだったけど何も気が無いって皆の前で言われるのも辛いんだけど。

 いつになく雪実は黙って真剣な表情を浮かべている。そりゃ自分の寝床が変わるかどうかの問題だからだろう。目標達成と同時に出て行かねばならないのだから。

 コーヒーを口に含んだ後、大きく一度深呼吸をしてカップを置き、一気に語り出す。

「最初はホント感謝の気持ちでお礼がしたかったの。助けてくれた時は頼もしくて帰りの電車では静かだったけど雪実ちゃんと話せて楽しくって、シャイなんだなぁって思って。同じ会社なのに全然会えなくて、気付いたら毎日明君のこと探してて。やっと会えたら雰囲気も変わってて喋って楽しくて、二人で会う約束の日まで毎日楽しみで楽しみで。なんでこんな気持ちなんだろうってわかんなかったら明君が私の声が好きって言ってくれた時、嬉しかった……」

 恥かしそうにコーヒーを飲んで気持ちを落ち着かせている様子。シャイじゃなくて喋ってるつもりだったというのは内緒にしておこう。

「詩織は押しに弱い所があって、好意を持ってくれたら相手の良いとこだけを見てしまう盲目タイプなの。明君だっけ? 貴方が悪い人ではなさそうだけど詩織と付き合いたいって思ってるの?」

「そりゃぁ、できれば」

「ダメよ! そんなんじゃ!」

「ひぇっ!」

 大きな声で言われ全員肩をすくめて驚くも、更に大きな声が部屋に響いた。

「付き合いたいならどんな事をしてでも付き合いたいって強い気持ちじゃなきゃダメなのよ」

「お、俺、詩織さんと付き合いたいです」

「ダメよ!」

「えぇー?」

 三人とも不思議そうな顔でカオル君を見つめた。

「差し出がましいと思うだろうけど、詩織は私の親友なの。中学一年の時からの親友だから幸せになってほしいから、適当な気持ちで付き合ってほしくないの……」

「ありがと。カオル君の気持ち、凄く嬉しいよ。いつも心配してくれて、ありがとう」

「詩織……」

「カオル君の気持ちも大切にするよ。だから私は私を幸せにしてくれる人を選ぶよ」

 手を握り合う二人。カオル君の目が少し潤んでいるように見える。百合か? 百合じゃねーか、百合もいいな。いやいや、ってか俺、否定されたけど本人目の前にして付き合いたいって告白したようなものなんだけど、スルーなのか? 余計に恥ずかしいんだけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

元禿の下級妃、花の園と言われる後宮で花の手入れを行います

猫石
キャラ文芸
イレイシェン国の後宮『四節の苑』に、一人の下級妃が入内した。 名はメイ コウシュン。 現在『主上様』が持てる妃の席は満席にもかかわらず、彼女の入内がかなったのは、彼女の噂を聞きつけた主上様が彼女に興味を持ち、初めて自分から後宮入りを願ったというのがその理由だった。 色とりどり、形も様々な大輪の花たちが、その美を競う女の園に現われた下級妃は、後宮にある大きな池の浮島の、金鳳花の花に囲まれた小さな小さな四阿のような庵を与えられ、四季の女たちはそれを厳しく見張ると言う日が始まった。 そんな中、庵の中の少女は鍵のかかった箪笥を撫でてながら遠い目をして呟いた。 「あ~ぁ、とんだ貧乏くじ、ひいちゃったなぁ……」 ⚠️注意書き⚠️ ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。あらすじは滅茶苦茶冒頭部分だけです。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆中華風の後宮の様相を呈していますが、様々な世界・様式の後宮&花街(遊郭)設定もりもりです。史実、資料と違う! など突込みは不要です。 ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ☆ゆるっふわっ設定です。 ☆小説家になろう様にも投稿しています

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

処理中です...