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第十章 二人だけのイブの始まりに

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 グローブマンだったかバットだったか今は思い出せないが、彼もまた闇堕ちした。

 街の平和を陰で守りながらもダークナイトに。

 俺もそんな小説がいつか書いてみたいと思ったが今は現実目の前を最優先する。

 俺如き、いやいや俺だからこそ闇堕ちしてもなんら不思議も違和感もない。

 だってヲタクだぜ? カッコつけてもカッコつかない。それは俺だから。ヨッシーの様に外見に恵まれたヲタクも居るというのに。

 ただヨッシーはヨッシーで女性の好みも恋愛の悩みもあるだろう……今はヨッシーのことはいいんだ、目の前を見ろ、現実を感じろ。

 俺の部屋に詩織さんが居る。

 俺のベッドで詩織さんが寝ている。

 しかも酔って寝ている。これは間違いが起こっても酔っているから正確な判断が後日あやふやになるってことだ。

 ただ、目が覚めたらの話であって、その可能性は薄い程の摂取したアルコールと今この時間。良い子は夢の中ってやつだ。

 子供の頃、アニメを見てていつも思っていた事がある。

 どうしてこういう状況になった時にさっさと手を出さないのかと、心の中でいつも叫んでいた。

 心理描写で葛藤があったのだろうが、観てる方からするとそんなのはそっちで勝手に処理してくれ! 俺はサービスカットが見たいんだ! と常々叫んでいた。心の中で。部屋で叫んでいたら親に追い出されるからだ。

 そのアニメで観ていた状況が今目の前に現実で現れたということは、もどかしかったあの心境を今この手で思い通りにできるのだ。

 思えばこの間の雪実と飲んだ日もそうだった。躊躇が邪魔をして行動が遅れたのがいけなかった。

 あの日、雪実がまだ寝ていなかった時に行動を起こしていたら酔っていたとしても同意の下で既成事実を行っていたはずだ。

 ただ雪実はあやかしだから俺の中での葛藤が邪魔をして時間を余計に消費してしまって、行動を決意した時には時すでに遅しだったのだが。

 それはやはり過程に問題があったのであって、俺は最終的に雪実の生乳を揉むことを決意した。熱く決意をしたのだ。

 そう、俺は気付いたのだ。あの時、胸のみ胸くらい胸だけはと胸に全神経を集中して自分を正当化した。

 ただ胸というキーワードが弱く俺の背中を押すのに時間を浪費した。

 だからこれからは女性の胸は状況によって生乳と呼ぶことにする。

 もちろん服の上からだと胸かもしれないし乳と呼んでもおかしくはないかもしれないが、乳では牛を想像してしまう可能性もあるのでやはり生が付かないと効力は半減以下だ。

 それにこの先、俺の人生で生乳を揉める機会がそう何度もあるとは思ってもいないし期待もしていない。

 それは先日の雪実の時にも思ったのに、一週間もしないでそのチャンスがやって来るのだから人生って面白いじゃないか。

 しかもその相手が憧れの詩織さんだということ。俺の大好きな推し声優さんの生乳を揉むチャンスは非現実的だから殿堂入りするとして、一般人で同僚の詩織さんだと可能性はまだある方だったということだ。

 こんな言い方をすると詩織さんだったらいけるかもと誤解を生みそうだがそんなことは全く無い。本人が起きてたらメンゴメンゴと謝りたいくらいだ。

 ただ、起きてたら生乳とか言ってられない状況なのでこの発想が支離滅裂である。

 そう言えば俺が詩織さんに憧れて好きになったのは声がきっかけだったのだが、その声の主が大好きな声優さんだというのだから面白い。

 あの声優さんを推してなかったら、そもそも好きになってなかったら詩織さんのことも好きになってなかったってことか?  だとするならば俺のアニオタが詩織さんを導いてくれたと言っても過言ではない。あの魔法少女を観なければあの声優さんには出会ってないかもしれないし、あんなに感情移入できるキャラを演じた作品でないと最終的に推しの声優さんにはのらなかったかもしれないのだ。

 俺のアニオタとは関係の無いところで詩織さんはあやかしに騙されていた。しかし俺のアニオタのお陰であやかしを成敗する出会いをしているのだから、つまり二人は見えない糸で結ばれていて今の状況は運命だということだ。

 詩織さんはアニオタの俺に導かれて……俺は詩織さんの生乳に導かれていくのだよ。
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