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第八章 天使のアルコール、悪魔の囁き

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「いつ頃からのレシピを覚えているんだ?」

「さぁ、物心付いた時からかしら」

「雪実の物心付いたのがいつなのか皆目見当も付かないのだがな」

「あの旅館は創業当時の味付けを継承していってるから今も昔もそんなに変わらないんじゃないの?」

 およそ百年、つまみ食いの最中に伝統の味付けを盗まれたのだったら悔やんでも悔やみきれないだろうな。今の所悪用されていなく俺の食卓だけが潤っている、バチが当たらなければいいけど。

「これ、食材を豪華にしたら旅館の料理そのままだな」

 発泡酒を飲んで気分がハイになったか調子に乗ったことを口走ってしまう。

「もちのろんよ。それを上手くコスト抑えて美味しく料理してる努力を敬ってほしいですわ」

 雪実もほろ酔いかテンション高めで声の音量も気持ち大きくなっている。

 雪実と初めて会った温泉旅行以来のアルコールは元々弱い身体には良く効いてくる。対した量は飲まなくてもほろ酔い加減から段々と本気酔いに変わってくる。泥酔まで行ってしまうと明日も仕事だというのに業務に支障が出てしまう。

 ただでさえ忙しく、ミスでもしようものなら課長に揚げ足を取られて何を言ってくるやらわかったものではない。

「なんであんなに嫌味を言えるのだろうかねぇ」

「満たされてないからじゃない?  余裕がない生活送ってる腹いせを自分より目下にしてるんじゃないの」

「それが本当だったら許せないなぁ、只のパワハラじゃんか」

「あやかしに取り付かれてたなら退治できるのにね」

 本当にその通りだが、都合良くあやかしが原因だなんて考えにくいし課長の嫌味は入社した時から知ってるからやっぱり本性のような気がする。だとしたら俺がどうこう言った所で本人の性格なんて簡単に直るとは思えない。諦めろってことか。

「なんだか暑くなってきちゃった」

「暖房の温度下げるか。リモコンリモコンっと」

 アルコールで身体が火照ってきたのだろう、外が寒かったので暖房を良く効かせていた部屋が逆に暑く感じる。これで薄着で寝ると風邪を引いたりするので気をつけなければならない。ただこの季節のコタツは悪魔の誘惑をしてくるので要注意しないといけない。

「リモコンそっちじゃないの?」

「えー?  どこかなー?」

 暖房のリモコン、スイッチを入れてしまえば適当な所に置いてしまう。いつも決まった場所に置けばこんな時に探す手間も省けるのだが、酔いが回っていると余計に見つけにくい。

 コタツ布団の下に隠れていないかめくったりして探すも見つからず、四つん這いでダラダラと座っていない面に移動して布団をめくるも見当たらない。

「こっち側かぁ?」

 自分の座っていた反対側まで来てめくるもない。四つん這いでコタツを半周しただけで頭がクラッとして敷布団の柄が揺れる。

「思ったより酔ってんのかな、おぉい、見つけたかぁ?」

 同じように四つん這いで棚の方を探していた雪実の方を向いて言った。

 するとそこには四つん這いでスカートがめくり上がりパンツが丸見えの雪実の姿が。

 どうやら俺の問いに無いという返事が返ってきたみたいだが、俺の五感は耳よりも目に一極集中したようだった。
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