上 下
40 / 99
第六章 窓から見えた月は、二人を優しく照らしてくれている

03

しおりを挟む
 今日一日で雪実は素直になれないと唇を尖らせる癖があることを発見できた。解りやすくてその仕草も、もう可愛くさえ思えるようになった。

「これ」

 小さな紙袋を差し出された雪実の目は大きく見開いた。期待通りのこの顔がみたかったのだ。

「……わらわに……?」

「ああ、今日付き合ってくれたお礼だよ。開けてご覧よ」

 紙袋をゴソゴソして開けると中から小さな箱にリボンがかけてある。

「……これは……」

 リボンをほどき箱の中から取り出しす。

「雪実はひとつも持ってないっていってたから、どうかなって思ってね。それ選ぶのとリボンを無理言ってつけて貰ったから時間かかっちゃって……」

「あの時……この口紅を買ってたの……?」

「うん、ごめんな。直ぐに決めれずどれにしようか迷っちゃって、そのせいで雪実を心配させちゃったな。ハハハ」

 笑って誤魔化そうとしたのは口紅を買う理由が本末転倒な事象ではなく照れ隠しの方が本音だった。

 プレゼント、しかも女の子になんか生まれてこのかたしたことなんてない。選ぶ時に喜んで貰えるのだろうか、迷惑にならないのだろうかとか色々な事を考えてしまった。不慣れな事をするのは神経と時間を要した。

「薄いピンクの口紅……、お兄ちゃんが選んでくれたの?」

「あ、あぁまぁ店員さんに色白な二十歳位の黒髪ロングなんだけどおてんばで口悪くて良く喋るけど直ぐにふてくされるような感じの子に似合うような、とか説明したら数本出て来てそこから選んだんだけどね。ハハハ」

 我ながら早口で喋っているのがわかる。心拍数が上がって喋るってこういうことなのだろうか。つまりこれが普段、と言っても殆ど無いが女性と喋る時の口調なのか。免疫が無い俺が普通だと思っていた喋り方が実は緊張していたってことか、情けない。

 けど、じゃあ今の俺は緊張してるのか?  雪実相手に喋ってるだけなのに?  そうか、いくらあやかしの雪実相手でも初めてのプレゼントって行為が既にイベント的な出来事になって緊張に至っているわけか。もう全て笑って誤魔化そう。

「ごめん、お兄ちゃぁぁぁん」

 笑って誤魔化そうとした俺の胸に飛び込んで来た雪実は大声で泣き叫んだ。

「え?  え?」

 完全に俺の中のテンションと雪実の現状が真逆である。その為どう接して何て言葉をかければ良いのか頭が混乱する。

「わらわ、勝手に拗ねてふて腐れて、お兄ちゃんに待っててって言ったのに待っててくれなかったからって怒って、だけどホントはわらわのプレゼント選んでくれてたなんて……ごめんお兄ちゃん」

「いいんだよ。お兄ちゃんこそ、心配させてごめんな……」

 黒い髪を撫でながら次の言葉を探すも思い当たらず、黙って泣き止み落ち着くまで撫でていた。

「一生大事にするよぉ」

「あやかしの寿命は長いんだから劣化してボロボロになるぞ」

「そういう時は、『うん』だけでいいの」

「あぁそうか。じゃあ彼女の時にはそう言うよ」

「バカお兄ちゃん、デリカシーが無いよ……」

 胸の中で涙声だったのが、段々と雪実らしい口調に戻ってくるような気がした。俺は勿論だが雪実にもこんな切ないシーンは似つかわしくない。センスが無いとかもっと派手なのが良かったけど仕方なく使ってあげるよって言う位のが似合っている。そんなやり取りを期待している俺がいるのは、あながち悪い居心地ではないかなって思ってしまうのが正直な所かもしれない。

 今日一日連れ回してくれた頼もしい雪実がこんなにも小さかったんだなって、腕の中に収めながら思う。

「お兄ちゃんの腕の中はあったかいよ」

「もう、部屋の中が肌寒い時間だからだよ」

「こういう時も『うん』だけでいいのよ、ばかぁ……」

 雪実の冷たくなった頭に頬を寄せて冬が近づいてきていることを実感した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天界アイドル~ギリシャ神話の美少年達が天界でアイドルになったら~

B-pro@神話創作してます
キャラ文芸
全話挿絵付き!ギリシャ神話モチーフのSFファンタジー・青春ブロマンス(BL要素あり)小説です。 現代から約1万3千年前、古代アトランティス大陸は水没した。 古代アトランティス時代に人類を助けていた宇宙の地球外生命体「神」であるヒュアキントスとアドニスは、1万3千年の時を経て宇宙(天界)の惑星シリウスで目を覚ますが、彼らは神格を失っていた。 そんな彼らが神格を取り戻す条件とは、他の美少年達ガニュメデスとナルキッソスとの4人グループで、天界に地球由来のアイドル文化を誕生させることだったーー⁉ 美少年同士の絆や友情、ブロマンス、また男神との同性愛など交えながら、少年達が神として成長してく姿を描いてます。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

私の食卓には、愚痴を聞いてくれる神様がいる。

柚木ゆず
キャラ文芸
 人間関係や仕事のアレコレで悩む、新人OLの月島梨奈。そんな彼女の前に産土神である七坂が現れ、不思議な一時が幕を開けるのでした――。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

アヤカシ町雨月神社

藤宮舞美
キャラ文芸
 大学に通う為に田舎に引越してきた普通の大学生、霧立八雲。  彼はその町で『雨月神社』に参拝する。  しかしその『雨月神社』は八雲が住んでいる浮世(この世)ではなかった。 『雨月神社』は悩みを抱えたアヤカシ、妖怪、神様などが参拝に来る処だった。  そこで八雲は、物腰の柔らかく優しい謎の陰陽師である香果と、香果が大好きな自由な猫又、藤華に出会う。ひょんなことから八雲はアヤカシ町に住むことになり……  雅な陰陽師に誘われ、様々な悩みを解決する。 ほっこりして癒やされる。ちょっぴり不思議で疲れた心に良く効く。さくっと読める風流な日常ミステリ。  最高ランキング1位を頂きました!  ありがとうございます!これからも宜しくお願いします!

あやかし薬膳カフェ「おおかみ」

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
\2024/3/11 3巻(完結巻)出荷しました/ \1巻2巻番外編ストーリー公開中です/ 【アルファポリス文庫さまより刊行】 【第3回キャラ文芸大賞 特別賞受賞】 ―薬膳ドリンクとあやかしの力で、貴方のお悩みを解決します― 生真面目な26歳OLの桜良日鞠。ある日、長年続いた激務によって退職を余儀なくされてしまう。 行き場を失った日鞠が選んだ行き先は、幼少時代を過ごした北の大地・北海道。 昔過ごした街を探す日鞠は、薬膳カフェを営む大神孝太朗と出逢う。 ところがこの男、実は大きな秘密があって――? あやかし×薬膳ドリンク×人助け!? 不可思議な生き物が出入りするカフェで巻き起こる、ミニラブ&ミニ事件ストーリー。

処理中です...