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第六章 窓から見えた月は、二人を優しく照らしてくれている

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「ちょっとトイレ行ってくるから待っててくれる?」

「ゆっくりでいいぞ」

 買い物を終え、駅に向かう途中にあるデパートの中に消えていった雪実を待つために入り口付近にあるソファに腰を下ろした。

 夕方でも人の行き交いは多く、富裕層って案外多いんだなと実感してしまう。

 デパートに用がある時が無くいつも前を通り過ぎるだけの存在だった。

 一階が化粧品等の売り場になっているのだろう、前を通ると香水というか女性の香りがいつも漂っている印象を持っている。

 化粧品は女性にとって無くてはならないものだから購買意欲がそそられるのだろうか。逆に男性には敷居が高くなってしまうが、家庭の財布を握っているのが女性だとしたら、ターゲット戦略は間違っていないってことなのかな。

 なんて、無駄なことを考えながら興味本位も重なり勇気ある行動で店内をうろついた。

 

「何処をうろついていたのよぉ!」

 ガラス張りの出入り口の外でじっと待っている雪実を見つける。

 日も沈み、肌寒くなってくる時間帯なのだから店内のソファで待ってればよいものを。

「迷子にでもなってたの? もう心配したんだから!」

「あぁ、ちょっとな。なにも外で待たなくても……」

「まさか店内にいると思わないし、買い忘れだったとしたらどっちに行ったかわかんないし……」

 まぁ確かにトイレに行っただけだから待ち合わせ場所を決めたわけでもなく、離れた場所に戻って俺が居なかったら不安にもなるのか? まさか、子供じゃあるまいし。

 お互いに一日中歩き回って買い物疲れが出たのか、部屋に帰るまで会話は少な目だった。

 そのことに気付いたのは駅を降りて部屋に向かう道中、人通りも少なく自分らの足音が良く聞こえたからだった。

 特に話すこともなく、疲れがあったから会話が控え目になっただけだが、だからといって気を使って何か喋らなきゃって思う気持ちはなかった。

 これが恋人同士だったらやっぱり無言って気まずく感じるのだろうか、何か怒らしたのかなとか余計なことまで検索してしまうのかしら。

 雪実がトイレから戻った時にその場に居なかったことで機嫌が悪くなったのか?

 恋人同士ならそんな俺からしたら理不尽な理由でも謝ったりしなければならないかもしれないし、謝って済むのならそれで済ませるのだが。

 部屋が近づき、月の光が差す道を歩きながら鍵をポケットから取り出そうとした。

 その腕を強く掴んで雪実は離そうとしなかった。

「不安になちゃった……。もう戻って来ないのかなって心配になちゃったよ……」

 少し震えた小さな声で言った。

 部屋が見えてきた安堵で不安から解放されたのだろうか。

「お兄ちゃんが友達と楽しそうに話してるの思い出したら……わらわはあやかしだし、もう要らないのかなって……」

 あぁそうか、雪実は孤独を感じたんだ。兄として俺を慕って独り占めできてたのに自分だけ取り残されたかのように感じたんだな。
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