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第三章 嘘の幸せと真実の絶望と
53 神話のカケラ
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木曜日、昨日の雨も上がりアスファルトからの熱気が夏を感じさせる。
涼しい風が吹いて気持ち良かったので朝から隣駅近くの公園までランニングをしてきた。
人がまばらな街の風景は早起きのご褒美のように周りの空間を独占させてくれる。
並木の影を走れば心地よさが丁度良い。常連らしきランナーも走りやすいコースを熟知しているようだ。
事務所に戻ってからいつものように所長との訓練で、普段のキレが戻ってきたと言ってくれたのが嬉しかったが新しい技はまだ教えてくれなかった。
曜子からあれば丁度良かったが、相変わらず連絡はなかったのだが昨日豚平《ぶたひら》さんから預かったペンダントを返しにいく口実が今日はあるからだろうか、朝から調子が良い。
俺でもまだ壮大すぎて半信半疑な部分があるくらいだが、説明して曜子はなんて思うのだろうか。
自分の御先祖様が代々受け継いできた物が月の欠片だったなんてロマンチックという言葉で片付けるかな、と思うと口元が自然と緩んでしまう。
器が大きいのか深く物事を考えない性格なのか。既にそんな印象を俺の中に植え付けていること自体に驚きなのだが。
初めて出会ってから一週間会わなかったことが無かったことに昨夜気付き、久々に会える事がこんなに心が弾むような気持になるとは思ってもいなかった。
返すペンダントが無ければまだ今日も会いに行けなかったわけだが。家庭教師を変える話になったらそれはそれで仕方ないのか、まずは会って話して曜子の心境を知るのが先決だ。
俺の余計な考えすぎなだけかも知れないし。男性はこんな時に余計な考えで勝手に悩むタイプで女性はあっけらかんとしているパターンが多いと雑誌か何かで見たことがある。
「機嫌が良さそうね」
紅茶を淹れてくれた梓さんに見透かされたようだった。俺が今日ペンダントを返しに曜子と会うことをしっているからだろう。
「私も昨日、久しぶりに彼氏と会ったのよ」
「え?所長の話は冗談って言ってたのに、本当は彼氏いたのですか?」
所長は冗談と言ったが彼氏がいるのは冗談ではなかったのかな。自分から彼氏の事をいう梓さんが意外だが、久しぶりに会う嬉しさの余りからなのだったら今の俺は気持ちがわかるような気がする。
「梓ちゃんの顔みたらわかるだろ?十分タンパク質を摂取したような肌ツヤ」
所長のセリフに朝も夜も相変わらずなく一日中の変わらないようだ。
「本当にいると思う?」
「いると思いますよ」
自分の機嫌が良いと人の幸せも素直に受け入れやすくなる単純さはまだ俺が未熟な子供ってことだろうか。
性格は相性だからわからないが顔も良しいナイスなボディだから身長が低いのが気にならないなら、梓さんを独占できるのは一男性として羨ましく誇らしいことだと思う。
「熱っ!」
後ろで所長が飲みかけの紅茶で下をヤケドするかのような声がしたのは恐らく、先程のセクハラ発言を見越してのことだろう。
わざわざ所長のだけを沸騰させている姿を想像するだけでシュールだなと思いながら俺はカップを口に近づけ勢いよく紅茶を含んだ。
「あっ!つっ!」
「私と彼氏の夜の営みを想像したでしょ?」
そうさせるような話題に振ってきたのは梓さん本人の気がしたが、所長のセクハラ発言が無ければ夜の想像はしてなったかも。所長のおかげで俺まで熱湯紅茶を頂く羽目になった。
「今夜飲みにでもいくか?」
「考えておきます」
巻き沿いにしたのを少し悪気を感じたのか飲みに誘ってくれた所は、なんだか可愛らしい部分だと思って笑ってしまった。
涼しい風が吹いて気持ち良かったので朝から隣駅近くの公園までランニングをしてきた。
人がまばらな街の風景は早起きのご褒美のように周りの空間を独占させてくれる。
並木の影を走れば心地よさが丁度良い。常連らしきランナーも走りやすいコースを熟知しているようだ。
事務所に戻ってからいつものように所長との訓練で、普段のキレが戻ってきたと言ってくれたのが嬉しかったが新しい技はまだ教えてくれなかった。
曜子からあれば丁度良かったが、相変わらず連絡はなかったのだが昨日豚平《ぶたひら》さんから預かったペンダントを返しにいく口実が今日はあるからだろうか、朝から調子が良い。
俺でもまだ壮大すぎて半信半疑な部分があるくらいだが、説明して曜子はなんて思うのだろうか。
自分の御先祖様が代々受け継いできた物が月の欠片だったなんてロマンチックという言葉で片付けるかな、と思うと口元が自然と緩んでしまう。
器が大きいのか深く物事を考えない性格なのか。既にそんな印象を俺の中に植え付けていること自体に驚きなのだが。
初めて出会ってから一週間会わなかったことが無かったことに昨夜気付き、久々に会える事がこんなに心が弾むような気持になるとは思ってもいなかった。
返すペンダントが無ければまだ今日も会いに行けなかったわけだが。家庭教師を変える話になったらそれはそれで仕方ないのか、まずは会って話して曜子の心境を知るのが先決だ。
俺の余計な考えすぎなだけかも知れないし。男性はこんな時に余計な考えで勝手に悩むタイプで女性はあっけらかんとしているパターンが多いと雑誌か何かで見たことがある。
「機嫌が良さそうね」
紅茶を淹れてくれた梓さんに見透かされたようだった。俺が今日ペンダントを返しに曜子と会うことをしっているからだろう。
「私も昨日、久しぶりに彼氏と会ったのよ」
「え?所長の話は冗談って言ってたのに、本当は彼氏いたのですか?」
所長は冗談と言ったが彼氏がいるのは冗談ではなかったのかな。自分から彼氏の事をいう梓さんが意外だが、久しぶりに会う嬉しさの余りからなのだったら今の俺は気持ちがわかるような気がする。
「梓ちゃんの顔みたらわかるだろ?十分タンパク質を摂取したような肌ツヤ」
所長のセリフに朝も夜も相変わらずなく一日中の変わらないようだ。
「本当にいると思う?」
「いると思いますよ」
自分の機嫌が良いと人の幸せも素直に受け入れやすくなる単純さはまだ俺が未熟な子供ってことだろうか。
性格は相性だからわからないが顔も良しいナイスなボディだから身長が低いのが気にならないなら、梓さんを独占できるのは一男性として羨ましく誇らしいことだと思う。
「熱っ!」
後ろで所長が飲みかけの紅茶で下をヤケドするかのような声がしたのは恐らく、先程のセクハラ発言を見越してのことだろう。
わざわざ所長のだけを沸騰させている姿を想像するだけでシュールだなと思いながら俺はカップを口に近づけ勢いよく紅茶を含んだ。
「あっ!つっ!」
「私と彼氏の夜の営みを想像したでしょ?」
そうさせるような話題に振ってきたのは梓さん本人の気がしたが、所長のセクハラ発言が無ければ夜の想像はしてなったかも。所長のおかげで俺まで熱湯紅茶を頂く羽目になった。
「今夜飲みにでもいくか?」
「考えておきます」
巻き沿いにしたのを少し悪気を感じたのか飲みに誘ってくれた所は、なんだか可愛らしい部分だと思って笑ってしまった。
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