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第二章 此が有れば彼が有り、此が無ければ彼が無い

38 イケメンに優しい世の中

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 テスト期間に入っても仕事業務は変わらず、からしの配達と“W”退治に俺は精を出していた。午前中授業で昼から帰宅してても業務を早く終わらすわけにもいかないので家庭教師の時間は夜しかなかったが、時間を延長して遅くまでテスト対策を二人で行っていた。十二時過ぎた時の翌日の自主トレは眠いものがあったが続いても一週間位だし、曜子も俺が帰った後もまだ勉強して頑張っていたのを聞いて励みに頑張って続けることができた。

 テスト最終日の夕方に事務所に来てもらう約束をしていたので、配達業務を終えた俺はそのまま事務所近くの駅で待ち合わせをした。

「おつかれさま」

「ホント疲れたよー。今日からやっと早く寝れるわ」

「テスト終わってからゆっくりできるのは頑張った証だよな」

「今回はホント頑張ったからね。ウタル先生のおかげかも」

「今日は素直だな。いつもこれくらい素直にしておけばいいのに」

「だって今日は事務所に呼ばれるしテスト頑張って終えたお礼に甘いものご褒美してくれる約束でしょ?約束は今からするんだけどね」

 まぁあれだけ頑張ったし一息ついた日くらい甘いもので一時の幸せを感じても罰《バチ》は当たるまい。

 暫く他愛もないことを喋りながら歩いて事務所前に着いた。

「素敵なオフィスビルね」

 お世辞にも素敵とか綺麗とか言えない雑居ビルに驚きも躊躇《ためら》いもないのは、怪しい仕事に怪しい事務所だが二階の窓には“からし屋マタジ”の看板ステッカーが貼ってあるからだろうか。

 事務所が二階にあるのが外からもわかると階段を上がって行くので、俺は後ろからついて行った。見るつもりはなく無意識で上を見た時に曜子の太ももに目が行ってしまったので直ぐに足元に向き直して階段を上がった。

 二人が事務所入り口前に立つと

「今、私のパンツ見たでしょ!」

「パ、パンツは見えてないよ!」

 顔の前で手のひらを左右に振って全力で否定した。嘘ではない、ただ太ももは見てしまったが事故で故意ではないし太ももを見たかどうかは聞かれてないので答えるつもりもない。聞かれる可能性もあるので俺は急いで事務所の扉を開けた。

「ただいまもどりました」

「おーお疲れさん。曜子ちゃん久しぶりだね、よく来てくれました」

 所長が出迎えてくれる。太ももの話題が消えたと安堵に包まれたのは言うまでもない。

「アイツももうすぐ着く頃だろうからソファに座って待っててよ」

 時計を見ながら言う所長に従って曜子はソファに座って待つことにした。俺はそれまで今日の業務の事務処理をしておこうと思い自分の机に向かった。

「曜子ちゃん、スポーツ何かしてたの?」

「中学の途中まで水泳を少し」

「そーなんだ。ウタルがね、曜子ちゃんスタイルいいんですよーっていっつも言ってるんだよー」

「ちょ、言った事ないですよ」

 突然所長は何を言い出すかと思えば。さっきの太ももの指摘が消えたと思ったがそれ以上の獣《けだもの》を見る曜子と梓さんの眼差しが痛かった。
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