上 下
6 / 75
第一章 夢から覚めたら

06 ニート脱出

しおりを挟む
「んじゃあ採用です」

「へ?」

 言葉の意味と喜びを理解するのに、俺は幾らかの時間が必要だった。

 廃れた商店街の裏道に建つ、これまた廃れた雑居ビル。

 駐車場になってる一階部分の端にある入り口用の階段を上って二階の部屋で俺はこの会社の採用試験を受けていた。

 

 自ら望んでここに来て、望んだ返事を貰ったのに間の抜けた言葉を発したのは、俺に2年というニートの生活の引け目があるからかもしれない。

 そう思ったが、それにしてもここに来て5分位で採用と言われたら例えニートでなくても驚きの返事をしてしまうのではないか。

 ただ、普通の就活生や転職組なら驚いても間の抜けた言葉は発してないかもしれない。

 2年間のニート生活で社会から遠ざかっていた甘さゆえに無意識に出たのだろう。

「とりあえず採用だからリラックスしてよ。コーヒーか紅茶どっちがいい?」

 

 どちらも好きでどちらでも良かったのだが、選択を求められたら決断をするのが俺のマイルール。なので俺は紅茶を選択した。

「紅茶切れてるからコーヒーでいい?」

 聞いといて無いって?なんだか損した気分になるのは俺の心が貧しい証拠なのか?まぁさておき俺はコーヒーならブラックを頼んだ。頼んだコーヒーはブラックでも就職する会社はブラックでないでおくれよと、今は神頼みするしかないのだが。

「OK。梓《あずさ》ちゃーん、コーヒー2つお願いね」

「わかりました」

 紅茶が無いのなら最初から選択肢に入れなければよいのに。この人なりの気遣いなのか、冗談なのか。ニコニコしながら聞いてくれたおかげで、初対面という緊張感はかなり和らいだ。この所長、悪い人ではない印象を受けた。

 受付をしてくれたあの女性の名はおそらくあずさというのだろう。梓ちゃんと言われて表情一つ変えずに給湯室に向かったのは、普段から言われ慣れてるのだろう。それだけ信頼関係が築かれているということか。俺がここに来た時に受け付けてくれたがその時から無表情なのは気のせいなのかもしれない。

 しかしこの女性、小柄なのに胸ははち切れそうで、お尻はスタンディングオベーションをしたいくらい絶妙だ。黒縁のメガネに幼げな顔だが、タイトなスーツを着ているだけで社会人に見える。

 そういえば先日、ここの求人広告を手渡してくれたのも梓さんだった気がする。何故昨日のことなのに来た瞬間に気付かなかったかと言うと、昨日の梓さんはツインテールでメイドの服を着ていたからだ。だからあの時は、ビラ配りのバイトの女の子としか思っていなかった。

 その割にはなんて無表情なバイトなのだろうとも思っていたからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...