短編集【BLACK】

タピオカ

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金色の鳥 -狂愛-

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 夜の風が涼しい、多分今日は絶好の自殺日和。
 街は今日も輝いていて素敵な景色。

 今、高い高い建物の頂上である屋上にいる。
 この景色に反して私の人生は嫌な事ばかり、逃げたい、だから落ちようと思う。
 落下してる時は鳥のように自由な気持ちを頭に浮かべる。そしてその気持ちのまま、ほんの少し幸せな死という終わりを迎えたい。

 20年、それは私が生きた年数。長かったような短かったような、そんな人生。
 楽しい頃もあった、でも今は毎日が苦しいことでしかない。



 色々なことを思い出していたけど、終わりを迎える準備もしっかりとできた。
 あとはここから飛び降りるだけ。

 やり残していることは沢山あるのかもしれない。でも、もう気力が無い。
 お母さんもお父さんもお兄ちゃんも妹も、もう誰もいない。

「今は私は1人ぼっち、でも今から鳥になってみんなに会いに行くよ…!」


 よし!これで落ちて鳥のように飛ぶ………

「あれ?体が宙に浮いてない…」

 浮くどころか、逆に後ろから何かにがっちり抱き締められてる…?

「…はあ、やっと見つけた!間に合ってよかったよ」

 …この体勢じゃ誰かは確認できないけど、この声は…

「私を連れ戻しに来たの?再び傷つける為に」
「傷つけるだなんて酷いな~。暴力なんてほとんど振るってないのに」

 この男のせいで私は傷ついた。私に対しての肉体的暴力はそうでもないけど…

「家族を殺したじゃない。そしてその後は私をあなたの家に軟禁した。傷つかない人間なんていないと思うけど」
「傷ついたの?ごめんね、でもキミの家族が僕達の結婚に反対をしたからだよ。まあ寂しいのならこれからは僕がキミの家族の分の愛情も注ぐからさ」

 反対された時は私も悔しかった、でも何を言っているのだろう。私の家族を殺した人間が家族の分の愛情も注ぐなんて、無茶苦茶だ。

「…これからなんて無いわ。確かに家族を殺される前はあなたのことを愛していたけど、今は違うからあなたの元へは帰らない!ここで自由な鳥になるの」

 あなたの所へ帰ったらただの籠の中の鳥。今から自由になる翼を手に入れるつもりなのに、それじゃ生き地獄よ。

「なら、これから再び僕のことを愛せばいいよ!時間はまだまだある、ここで自由の鳥になる必要はない!僕だけの為に輝くカナリアになればいいんだ、今は夜闇のカラスみたいだけどまた元に戻そう」

 軟禁され始めた時、この人は私の髪の色を見ながら籠の中のカナリアみたいだねと言った。
 脱出したらすぐに自殺しようと思ってたけど、何となく嫌で黒髪に染めてやったのに。

「…私はあなたのカナリアじゃない。鳥籠の中の存在でもない」
「そんなことないよ、僕だけのカナリアだよ。戻ったら永遠に沢山愛情を注いであげる!さて、今から帰ろう」 

 話しているうちに抱き抱えられ屋上の端から移動し、遠ざかりつつある。いよいよ連れ戻されるのか。
 この人がここに現れた時から半分諦めてはいたけど悔しいな。

「…ここから落ちて飛ぶ鳥にはなれないのね」
「そんな存在になんてならなくていいよ、誰も喜ばない。カナリアなら僕が毎日喜ぶ存在になれるしさ」


 籠の中のカナリア…落ちることは無いけど、自由に飛ぶことは出来ない。
 幸せなのはどっち………?
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