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第二章
閑話4.夢野乙姫の策略
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王宮の中での噂を聞き流しながら、わたしは気ままな生活を楽しんでいた。
最初こそわたしに聖女としての役目を求めていた人がたくさん押しかけてきたけど……嫌だと言えば攻略対象たちがみんな追い返してくれたおかげで、今じゃそういった煩わしい騒音に悩むこともない。
(まったく、モブがどんだけ死のうが知らないわよ!わたしは攻略で忙しいってのに)
頭によぎるのは、未だに治癒魔法が全く使えないこと。ゲームに出ていた呪文は片っ端から唱えてみたけど、少しも発動した様子はなかった。火魔法や水魔法といった一般的な魔法は発動していたから、わたしのゲーム知識は間違っていないはず。
最近知らない展開もちょっと増えてきたし、少しだけ不安になる。……まあ、これはゲームに描写されていなかった部分ということだろうけど。
(黒い死?とかいうやつが流行ってるけど、これがわたしの覚醒に関係するのかしら?上級ポーションでもなかなか効かないって聞くし、聖女としてのデビューにうってつけじゃない?)
国民がたいそう困っているって聞くし、いよいよ困った!という時にわたしが聖女らしく救済。しかも王宮にいるわたしたちが病気になることもないから、まさに完璧なタイミング。
「オトヒメ、こんなところにいたのか」
「エド!図書室に来るなんて珍しいね」
「ああ、お前が頑張っているって聞いてな」
適当にめくっていた本を閉じてエドワードの腕に抱きつく。
勉強なんて一ミリも興味ないけど、これもエドワードの恋愛イベントを起こすためだ。異世界に馴染めないヒロインが勉強しているところを見て、エドワードがその勤勉な姿に心を打たれる……という内容だった。
「最近、オトヒメを疑う人が増えてきたからな。優しいお前が気に病んでないか心配だったんだ」
ゲームとはわずかに違うセリフに舌打ちしそうになりながらも、わたしは悲しそうな顔を作った。
「ありがとう、エド。でも、これはひめが自分で解決しなきゃいけない問題だから、心配しないで」
「そんな顔をしないでくれ。あの侍女に長い間虐げられたんだろ?俺だって、本当はもっとお前を休ませてやりたいんだ」
その言葉に忘れていた心白ちゃんのことを思い出してしまって気分が悪くなる。
そもそもうまくいかないのはあの女がわたしに着いてきたからだ。こんな事なら、日本に居た頃みたいにもっと利用してから殺せばよかった。
お父さんは医者だったから心白ちゃんも医学に詳しかったし、黒い死の治し方も知っているのかもしれない。もし間違っていたとしても魔女だとでも言って断罪すれば、わたしは今より簡単に聖女として愛されていただろうし。
(でも、殺しちゃったものは仕方ないか。どうせわたしはヒロインなんだから、結果は変わらないでしょ)
少しだけ気分が悪くなったそのとき、使用人が近づいてきた。エドワードが許可を出せば、レオナルドがエドワードの執務室で待っていると伝えられた。
エドワードは少しイラつきを隠せない表情で追い返せと命令したが、使用人は顔色を悪くして「大事なお話があるそうです」とより深く頭を下げた。
「エド、大事な話なら行かなきゃだめよ」
「オトヒメと一緒にいるのに、わざわざ野郎の顔を見に行くのか?俺は嫌だね」
「もう、ひめも一緒にいくから!」
そういえば、エドワードは折れてくれた。逆ハーレムルートを目指している私にとって、これは嬉しいイベントだ。
しかし執務室に入ると、レオナルドがわたしの顔を見て気まずそうな表情を浮かべた。だがそれは一瞬のことで、レオナルドは一礼してすぐに報告を始めた。
「殿下、黒い死の拡大速度が予想より早いみたいだ。民衆はもちろん、もはや貴族の間にも不安が広がっているらしい。今は中級ポーションも品薄になっているせいか、オトヒメ様の力を望む声は大きくなっていく一方だぞ」
またその話か、と思わず眉を潜めそうになるのを堪える。わたしは早くも着いてきたことを後悔した。
「中級がなくても上級ポーションがある。それでも足りないなら在庫を増やせ。それに貴族はまだ誰も感染してないんだろ?なら問題ないじゃないか」
「それが……ロンディーネ伯爵夫人が黒い死で倒られた。伯爵は聖女様の助力を要請しているらしいが……」
「そんなの知るか!領地を運営している伯爵が元気なら問題ないだろ」
「なっ」
レオナルドの顔色が変わったのを見て、あわてて口を挟む。
正直エドワードと同じ意見だが、レオナルドの好感度が下がるのは回避したい。
「あの、何か治癒魔法についての知識を持っている人はいないの?」
「いるにはいたが……」
「いた?」
そう聞き返せば、二人そろって気まずそうな顔をした。
「前、お前に失礼な態度を取った魔導士を覚えてるか?このヨークブランで、聖女についての知識があるのはあいつだけなんだ」
「え、あの人そんなにすごかったの!?じゃあその人に聞けばひめもすぐに治癒魔法が使えるようになるよ!」
「それが……あの男、逃げたんだ。罰を与えられるのが嫌だったらしくてな」
(はあ!?なんでそんな使える人間を逃がしちゃうの?しかもそいつだけって……わたし、誰にも頼れないじゃん!)
確かにあの時はうざかったけど、顔は好みだったから謝れば許してあげるつもりだったのに!
そんなにすごいって知ってたら、もう少し優しくしてやればよかった。でも今更逃げたやつのことを考えても仕方ない。
(こうなったら力が使える前まで時間を稼がなきゃ。ゲームの知識が通じたんだから、現代の知識も使えるでしょ!)
今の自分は聖女だ。私が行ったことなら、みんな信じて実行してくれるはず。
わたしはふと頭をよぎった考えをエドワードたちに話した。
「あのね、ひめはまだ治癒魔法を遣えないけど……黒い死だけなら何とかできるかも」
最初こそわたしに聖女としての役目を求めていた人がたくさん押しかけてきたけど……嫌だと言えば攻略対象たちがみんな追い返してくれたおかげで、今じゃそういった煩わしい騒音に悩むこともない。
(まったく、モブがどんだけ死のうが知らないわよ!わたしは攻略で忙しいってのに)
頭によぎるのは、未だに治癒魔法が全く使えないこと。ゲームに出ていた呪文は片っ端から唱えてみたけど、少しも発動した様子はなかった。火魔法や水魔法といった一般的な魔法は発動していたから、わたしのゲーム知識は間違っていないはず。
最近知らない展開もちょっと増えてきたし、少しだけ不安になる。……まあ、これはゲームに描写されていなかった部分ということだろうけど。
(黒い死?とかいうやつが流行ってるけど、これがわたしの覚醒に関係するのかしら?上級ポーションでもなかなか効かないって聞くし、聖女としてのデビューにうってつけじゃない?)
国民がたいそう困っているって聞くし、いよいよ困った!という時にわたしが聖女らしく救済。しかも王宮にいるわたしたちが病気になることもないから、まさに完璧なタイミング。
「オトヒメ、こんなところにいたのか」
「エド!図書室に来るなんて珍しいね」
「ああ、お前が頑張っているって聞いてな」
適当にめくっていた本を閉じてエドワードの腕に抱きつく。
勉強なんて一ミリも興味ないけど、これもエドワードの恋愛イベントを起こすためだ。異世界に馴染めないヒロインが勉強しているところを見て、エドワードがその勤勉な姿に心を打たれる……という内容だった。
「最近、オトヒメを疑う人が増えてきたからな。優しいお前が気に病んでないか心配だったんだ」
ゲームとはわずかに違うセリフに舌打ちしそうになりながらも、わたしは悲しそうな顔を作った。
「ありがとう、エド。でも、これはひめが自分で解決しなきゃいけない問題だから、心配しないで」
「そんな顔をしないでくれ。あの侍女に長い間虐げられたんだろ?俺だって、本当はもっとお前を休ませてやりたいんだ」
その言葉に忘れていた心白ちゃんのことを思い出してしまって気分が悪くなる。
そもそもうまくいかないのはあの女がわたしに着いてきたからだ。こんな事なら、日本に居た頃みたいにもっと利用してから殺せばよかった。
お父さんは医者だったから心白ちゃんも医学に詳しかったし、黒い死の治し方も知っているのかもしれない。もし間違っていたとしても魔女だとでも言って断罪すれば、わたしは今より簡単に聖女として愛されていただろうし。
(でも、殺しちゃったものは仕方ないか。どうせわたしはヒロインなんだから、結果は変わらないでしょ)
少しだけ気分が悪くなったそのとき、使用人が近づいてきた。エドワードが許可を出せば、レオナルドがエドワードの執務室で待っていると伝えられた。
エドワードは少しイラつきを隠せない表情で追い返せと命令したが、使用人は顔色を悪くして「大事なお話があるそうです」とより深く頭を下げた。
「エド、大事な話なら行かなきゃだめよ」
「オトヒメと一緒にいるのに、わざわざ野郎の顔を見に行くのか?俺は嫌だね」
「もう、ひめも一緒にいくから!」
そういえば、エドワードは折れてくれた。逆ハーレムルートを目指している私にとって、これは嬉しいイベントだ。
しかし執務室に入ると、レオナルドがわたしの顔を見て気まずそうな表情を浮かべた。だがそれは一瞬のことで、レオナルドは一礼してすぐに報告を始めた。
「殿下、黒い死の拡大速度が予想より早いみたいだ。民衆はもちろん、もはや貴族の間にも不安が広がっているらしい。今は中級ポーションも品薄になっているせいか、オトヒメ様の力を望む声は大きくなっていく一方だぞ」
またその話か、と思わず眉を潜めそうになるのを堪える。わたしは早くも着いてきたことを後悔した。
「中級がなくても上級ポーションがある。それでも足りないなら在庫を増やせ。それに貴族はまだ誰も感染してないんだろ?なら問題ないじゃないか」
「それが……ロンディーネ伯爵夫人が黒い死で倒られた。伯爵は聖女様の助力を要請しているらしいが……」
「そんなの知るか!領地を運営している伯爵が元気なら問題ないだろ」
「なっ」
レオナルドの顔色が変わったのを見て、あわてて口を挟む。
正直エドワードと同じ意見だが、レオナルドの好感度が下がるのは回避したい。
「あの、何か治癒魔法についての知識を持っている人はいないの?」
「いるにはいたが……」
「いた?」
そう聞き返せば、二人そろって気まずそうな顔をした。
「前、お前に失礼な態度を取った魔導士を覚えてるか?このヨークブランで、聖女についての知識があるのはあいつだけなんだ」
「え、あの人そんなにすごかったの!?じゃあその人に聞けばひめもすぐに治癒魔法が使えるようになるよ!」
「それが……あの男、逃げたんだ。罰を与えられるのが嫌だったらしくてな」
(はあ!?なんでそんな使える人間を逃がしちゃうの?しかもそいつだけって……わたし、誰にも頼れないじゃん!)
確かにあの時はうざかったけど、顔は好みだったから謝れば許してあげるつもりだったのに!
そんなにすごいって知ってたら、もう少し優しくしてやればよかった。でも今更逃げたやつのことを考えても仕方ない。
(こうなったら力が使える前まで時間を稼がなきゃ。ゲームの知識が通じたんだから、現代の知識も使えるでしょ!)
今の自分は聖女だ。私が行ったことなら、みんな信じて実行してくれるはず。
わたしはふと頭をよぎった考えをエドワードたちに話した。
「あのね、ひめはまだ治癒魔法を遣えないけど……黒い死だけなら何とかできるかも」
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