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第二章
39.様子確認
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村は穏やかな様子だった。
私の言いつけをしっかり守っているようで、家から出ている人はいない。正直村の建物はどれも通気性が良すぎて隔離する意味が薄いけど、薬を配ったところとか覚えやすいからね。
今は薬局にあの二人がいるわけだし、我ながらいい判断だったと思う。
村人に私が来たことを知らせる前に、私たちはこっそり薬局に向かった。クロヴィスたちにこの村の状況を教えて出歩かないようにするためだが、黒い死を治せる私に興味を持ってほしいという下心もあったりする。
ここで彼らの目に留まって王都で薬師として動き、ヨークブランに復讐するチャンスを伺う。急ぎの計画だが、ミハイルは何も言わなかったから大きなデメリットはないはずだ。
意を決して、クロヴィスたちを泊めている休憩室の扉を開ける。
「おや、君が私たちを助けてくれた薬師かな?」
「わ」
「うわ血みどろじゃん!こりゃ派手にやられたねぇ」
まさか起きているとは思わず、部屋に入るのと同時にかけられた甘い声に驚く。
顔を上げれば、ベッドの上で上体を起したクロヴィスがにこやかにこちらを見ていた。体全体は汚れたままだったが、その顔色はいい。ちらりとその隣を見れば、同じような状態のジェラルドがいた。
二人とも一晩で起き上がれる傷じゃなかったはずだが、これも魔法の力のおかげだろう。特にクロヴィスは直に治癒魔法をかけたからか、ジェラルドより元気そうだ。
「もう目覚めたんですね。私はここで薬師をしているコハク・ヒジリカワです」
名前を先に言うことに抵抗があるが、これもクロヴィスたちに違和感を抱かせないためだ。
ミハイルは顔がばれているから、透明化したまま。フブキも聖女の使い魔でのフェンリルと気づかれてないので、わざわざ藪蛇しない。
「ああ、ジェラルドから聞いたよ。君がいなければ私たちは死んでいた。寝泊りするところも貸してくれて、本当になんてお礼を言ったらいいか」
何というか、とても爽やかな人だ。ヨークブランのクソ王子を見たせいで余計にそう感じているだけかもしれないけど。
「改めて助けてくれてありがとう。私はクロヴィス……貴族だけど、しがない男爵だから気軽にクロヴィスって呼んでくれ」
「王族ですって正直に言えないって分かってるけど、こうも笑顔でサラッと噓疲れるとムカつくよねー」
『同族嫌悪か?』
「ぼくは噓はつきません!こんな腹黒軟派と一緒にするんじゃないよ」
予想通り身分を偽ったクロヴィスに、見えないのをいいことにミハイルは冷たい視線を向けた。どうやらこの世界でも中指を立てる文化があるらしい。
しかし私は鑑定でクロヴィスの苗字や身分を知っているが、名乗られていない以上勝手に呼べない。もしかして、私に王子を呼びせてにさせるつもりか?
「俺はジェラルド。護衛だ」
こちらもっと簡潔だ。やはり呼び捨てにしろってことか?
「怪我人を助けるのが薬師の仕事ですので。ところで、診察の前にクロヴィス様たちは、」
「恩人に様で呼ばせるわけにはいかないな。あと敬語もやめてくれ。私たちの仲じゃないか」
昨日知り合ったばかりだよ!
のどまで出かかった言葉を飲み込む。不敬罪が怖いのでまことに遠慮したいが、あんまり食い下がっては怪しまれてしまう。
私は少し考え込んで、そこまで言うなら仕方がないですねえというスタンスでうなずいた。こうなったら呼びタメを公開させるレベルで馴れ馴れしくしてやる。
「それで、どうしたの?」
「ああ、その恰好では治るものも治らなくなるから、身を清めた方がいいって言おうとしたの」
昨日は二人ともそれどころじゃなかったし、治癒魔法にばい菌は関係ないから治療優先したけど。そんな泥と血でパリパリな状態じゃあ気持ち悪いだろう。しかしその提案に、二人とも困ったような顔をした。
……まさか、自分じゃお風呂入れないっていう貴族あるあるを出してくるんじゃないでしょうね。
「そうしたいのは山々だけど、正直まだそこまで体力が回復してないんだ。この小屋……薬局にはお風呂がないみたいだし、川まで行って帰るのは厳しいかな」
『まあ、あんな事があった後じゃ気軽に外いけないか』
とても切実な悩みだった。それに彼らは敵襲から逃げてきたんだから、たとえお風呂に入っても着替えがない。
二人とも、特にジェラルドはかなり体格に恵まれているから、ミハイルのお上品な服じゃ入らないだろう。とはいえ、清潔面から考えても綺麗にさせてあげたい。
「魔法を使えばいいんだよ。ほら、最初にコハクちゃんが森で目覚めたときも服は綺麗だったよね?」
そういえばそうだった。
あの時はそれどころじゃなくて流してしまったけど、ミハイルはエダに吹き飛ばされたときもそういう魔法を使っていたような。
「加減間違えると服が爆散しちゃうけど、ちゃんとイメージさえできていれば大丈夫だから」
服が爆散するの?そんなギャグ漫画みたいなことが??
思わずミハイルを見上げるが、彼はいたって真剣な顔をしていた。
(いや待って。それってつまり、失敗したら王子様を全裸にしちゃうってことだよね?不敬どころか死罪では。恩人かと思ったら痴女だったとか最悪すぎない?)
しかしミハイルが姿を隠さねばならない以上、何とかできるのは私だけ。全裸のイケメンを見たくないが、この黒い死が存在しているところでそんな病気の温床を放置したくない。
……まあ、全裸になったらでシーツで包むか。
見た目より健康を取った私は、さも簡単なことですよいう顔を作る。大丈夫だ魔法はイメージ。超汚れ落ち君が私の見方だ。
「そういうことなら、魔法できれいにするよ?薬を作るには繊細なコントロールが必要だから、こういう魔法も得意なの」
嘘である。私は少し渋られるのかと思ったが、クロヴィスは以外にもすんなりとうなずいた。やっぱり気持ち悪かったらしい。
それに対して、薬湯を飲んだジェラルドは少し顔を曇らせた。でも主がうなずいた以上、断れないらしい。真面目で結構だが、あの薬湯は薬草の組み合わせの問題で私の魔法コントロールと関係ないから。
「洗浄魔法は水の中位魔法だよ。呪文は洗浄」
ミハイルの澄んだハイトーンボイスに耳を傾けながら、洗濯機やら漂白のイメージを固めていく。
そしてボディーソープなどのCMも混ぜつつ、私は魔力を練り上げた。
「洗浄」
私の言いつけをしっかり守っているようで、家から出ている人はいない。正直村の建物はどれも通気性が良すぎて隔離する意味が薄いけど、薬を配ったところとか覚えやすいからね。
今は薬局にあの二人がいるわけだし、我ながらいい判断だったと思う。
村人に私が来たことを知らせる前に、私たちはこっそり薬局に向かった。クロヴィスたちにこの村の状況を教えて出歩かないようにするためだが、黒い死を治せる私に興味を持ってほしいという下心もあったりする。
ここで彼らの目に留まって王都で薬師として動き、ヨークブランに復讐するチャンスを伺う。急ぎの計画だが、ミハイルは何も言わなかったから大きなデメリットはないはずだ。
意を決して、クロヴィスたちを泊めている休憩室の扉を開ける。
「おや、君が私たちを助けてくれた薬師かな?」
「わ」
「うわ血みどろじゃん!こりゃ派手にやられたねぇ」
まさか起きているとは思わず、部屋に入るのと同時にかけられた甘い声に驚く。
顔を上げれば、ベッドの上で上体を起したクロヴィスがにこやかにこちらを見ていた。体全体は汚れたままだったが、その顔色はいい。ちらりとその隣を見れば、同じような状態のジェラルドがいた。
二人とも一晩で起き上がれる傷じゃなかったはずだが、これも魔法の力のおかげだろう。特にクロヴィスは直に治癒魔法をかけたからか、ジェラルドより元気そうだ。
「もう目覚めたんですね。私はここで薬師をしているコハク・ヒジリカワです」
名前を先に言うことに抵抗があるが、これもクロヴィスたちに違和感を抱かせないためだ。
ミハイルは顔がばれているから、透明化したまま。フブキも聖女の使い魔でのフェンリルと気づかれてないので、わざわざ藪蛇しない。
「ああ、ジェラルドから聞いたよ。君がいなければ私たちは死んでいた。寝泊りするところも貸してくれて、本当になんてお礼を言ったらいいか」
何というか、とても爽やかな人だ。ヨークブランのクソ王子を見たせいで余計にそう感じているだけかもしれないけど。
「改めて助けてくれてありがとう。私はクロヴィス……貴族だけど、しがない男爵だから気軽にクロヴィスって呼んでくれ」
「王族ですって正直に言えないって分かってるけど、こうも笑顔でサラッと噓疲れるとムカつくよねー」
『同族嫌悪か?』
「ぼくは噓はつきません!こんな腹黒軟派と一緒にするんじゃないよ」
予想通り身分を偽ったクロヴィスに、見えないのをいいことにミハイルは冷たい視線を向けた。どうやらこの世界でも中指を立てる文化があるらしい。
しかし私は鑑定でクロヴィスの苗字や身分を知っているが、名乗られていない以上勝手に呼べない。もしかして、私に王子を呼びせてにさせるつもりか?
「俺はジェラルド。護衛だ」
こちらもっと簡潔だ。やはり呼び捨てにしろってことか?
「怪我人を助けるのが薬師の仕事ですので。ところで、診察の前にクロヴィス様たちは、」
「恩人に様で呼ばせるわけにはいかないな。あと敬語もやめてくれ。私たちの仲じゃないか」
昨日知り合ったばかりだよ!
のどまで出かかった言葉を飲み込む。不敬罪が怖いのでまことに遠慮したいが、あんまり食い下がっては怪しまれてしまう。
私は少し考え込んで、そこまで言うなら仕方がないですねえというスタンスでうなずいた。こうなったら呼びタメを公開させるレベルで馴れ馴れしくしてやる。
「それで、どうしたの?」
「ああ、その恰好では治るものも治らなくなるから、身を清めた方がいいって言おうとしたの」
昨日は二人ともそれどころじゃなかったし、治癒魔法にばい菌は関係ないから治療優先したけど。そんな泥と血でパリパリな状態じゃあ気持ち悪いだろう。しかしその提案に、二人とも困ったような顔をした。
……まさか、自分じゃお風呂入れないっていう貴族あるあるを出してくるんじゃないでしょうね。
「そうしたいのは山々だけど、正直まだそこまで体力が回復してないんだ。この小屋……薬局にはお風呂がないみたいだし、川まで行って帰るのは厳しいかな」
『まあ、あんな事があった後じゃ気軽に外いけないか』
とても切実な悩みだった。それに彼らは敵襲から逃げてきたんだから、たとえお風呂に入っても着替えがない。
二人とも、特にジェラルドはかなり体格に恵まれているから、ミハイルのお上品な服じゃ入らないだろう。とはいえ、清潔面から考えても綺麗にさせてあげたい。
「魔法を使えばいいんだよ。ほら、最初にコハクちゃんが森で目覚めたときも服は綺麗だったよね?」
そういえばそうだった。
あの時はそれどころじゃなくて流してしまったけど、ミハイルはエダに吹き飛ばされたときもそういう魔法を使っていたような。
「加減間違えると服が爆散しちゃうけど、ちゃんとイメージさえできていれば大丈夫だから」
服が爆散するの?そんなギャグ漫画みたいなことが??
思わずミハイルを見上げるが、彼はいたって真剣な顔をしていた。
(いや待って。それってつまり、失敗したら王子様を全裸にしちゃうってことだよね?不敬どころか死罪では。恩人かと思ったら痴女だったとか最悪すぎない?)
しかしミハイルが姿を隠さねばならない以上、何とかできるのは私だけ。全裸のイケメンを見たくないが、この黒い死が存在しているところでそんな病気の温床を放置したくない。
……まあ、全裸になったらでシーツで包むか。
見た目より健康を取った私は、さも簡単なことですよいう顔を作る。大丈夫だ魔法はイメージ。超汚れ落ち君が私の見方だ。
「そういうことなら、魔法できれいにするよ?薬を作るには繊細なコントロールが必要だから、こういう魔法も得意なの」
嘘である。私は少し渋られるのかと思ったが、クロヴィスは以外にもすんなりとうなずいた。やっぱり気持ち悪かったらしい。
それに対して、薬湯を飲んだジェラルドは少し顔を曇らせた。でも主がうなずいた以上、断れないらしい。真面目で結構だが、あの薬湯は薬草の組み合わせの問題で私の魔法コントロールと関係ないから。
「洗浄魔法は水の中位魔法だよ。呪文は洗浄」
ミハイルの澄んだハイトーンボイスに耳を傾けながら、洗濯機やら漂白のイメージを固めていく。
そしてボディーソープなどのCMも混ぜつつ、私は魔力を練り上げた。
「洗浄」
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