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第二章
33.救命と厄介
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『これは気絶しているだけだ。まあこれだけの怪我、人間にしては耐えた方だろう。ちゃんと呼吸もしてるぞ』
微動だにしない男に固まる私の代わりに、フブキが生存確認をしてくれた。
……私の目じゃ呼吸で胸が上下する様子が見えないのだけど、本当にちゃんと息してる?
「それなら良いけど……全然動かないから肝が冷えたわ」
『ああ、時折わずかに浅い呼吸をしているからな。人間じゃ分からないだろう』
「それ死にかけてるじゃない!」
思わずこぼれた私の叫びに、茶髪の男が顔を真っ青にする。場違いにも大きく見開かれた金色の目に綺麗だなと思う。
というかこの人、意外と顔が幼い……?とても体格がいいから気づかなかったけど、もしかして私とそう年が変わらないのかもしれない。
「この方は、っ……、こんなところで倒れるようなお方じゃない!確かに今は怪我で意識を失っておられるが、時期に回復するはず、っぐ」
勢いよく反論しようとした少年はしかし怪我が痛むのだろう、途中何度も言葉を詰まらせていた。
(薄々気づいていたけど、やっぱり貴族関係かー。自分のことを考えたら治癒魔法を使わない方がいいんだろうけど、ここまで関わって見捨てるのはなぁ)
金髪の方が特に酷いってだけで、彼だって十分に重症である。それこそこの村に備えてある下級ポーションじゃ気休めにもならない程度の。
このまま放っておいたら明日まで持たないだろうが、厄介がトラブルを背負ってるような彼らを村人が本気で助けるとは思えない。私も他所の人間だからよく分かるが、彼らは異物に敏感なのだ。
(しかもタイミングが最悪。黒い死に怯えている村人がこの人たちに危害を加えないとも言えないし。エダさんが居ない今、勝手に屋敷に連れて帰ることもできないし)
ミハイルとエダに思いつきの行動じゃないと証明するためにも、もう一度しっかり考える。
だけどしきりに金髪に呼びかける少年の姿があまりにも痛ましくて、私はお説教を覚悟するしかなかった。
よし、彼らにはしばらく薬局に身を隠してもらうとしよう。黒い死のことを説明すれば分かってくれるはずだ。というか分からせる。
そうと決まれば、私は優しい声を意識して少年に声をかけた。
「もしよろしければ、私のところで休んでいきますか?その、あんなことがあったばかりで信用できないかもしれませんが、ここに居ては獣の餌になりますよ」
「えっ、あ……い、いや、この命は貴女に助けて貰ったようなものだ。信じてないわけではないが……あまりにも都合がいい話でその、むしろいいのか?俺たちは、」
「いえ、どんな事情があろうと貴方たちは怪我人です。……そこに転がってる加害者は別ですけど。あ、あとで警備隊に突き出しておきますのでご心配なく」
「……ああ、助かる。貴女は優れた魔導士のようだし、奴らに後れを取ることはないだろう」
変に彼らの事情を聴いて逃げられなくなるのは嫌なので、食い気味で言葉を被らせる。そうすると察してくれたのか、少年はこれ以上深く踏み込むことはなかった。
「貴方の怪我も酷いですし、良ければ彼のことはフブキが運びますよ」
「重ね重ね申し訳ない。恩人にここまで迷惑をかけるなどこの上ない恥じ話だが、本当にありがたい話だ。くそっ、もっと鍛えていれば!」
土下座でもしそうな勢いの少年だが、そんな姿に心を動かさないのがフブキである。
『なっ、俺はコハクしか乗せんぞ!?』
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、彼だってもうロクに動けないはずよ」
『ガルル』
「私を助けるのだと思って!」
『ガル……はあ、コハクは人が良すぎる!まったく、俺の自慢の毛並みが汚れるではないか……』
顔をこれでもかというくらいにしわくちゃにして、フブキは本当に渋々と金髪の男を背中に載せた。
まったく表情が豊かなことである。あとでブラッシングをしてあげよう。
「しかしここまで甘えておいてなんだが、俺たちみたいのをいきなり家に連れて行っていいのか?ご家族や村人の目もあるだろう」
意識のない成人男性を背中に乗せているのに、フブキの歩みに少しもふらつきはない。
その姿に少年は安心したようにため息を一つこぼすと、思い出したかのように首を傾げてそう言った。
「あ、そういえばまだ言ってませんでした。実は私、この小屋で薬師をやってるんですよ。あまり環境は整ってませんが、お二人が休む分には問題ないかと!」
「は、やくし?……やくしって、まさか薬師のことか!?」
「はい!まだ若いですけど、自分のレシピだって何個もあるんですよ!腕には自信があります」
予想通りの反応をする少年に、みんなで考えた外向けの設定を話す。
やはり貴族でも私のような若い薬師は見たことないようで、少年はあさまに挙動不審になる。
彼らとはあんまり深く関わりたくないので、怪我が治ったらさっさと出てって欲しいけど……貴族に私の腕を宣伝してくれないかな。
微動だにしない男に固まる私の代わりに、フブキが生存確認をしてくれた。
……私の目じゃ呼吸で胸が上下する様子が見えないのだけど、本当にちゃんと息してる?
「それなら良いけど……全然動かないから肝が冷えたわ」
『ああ、時折わずかに浅い呼吸をしているからな。人間じゃ分からないだろう』
「それ死にかけてるじゃない!」
思わずこぼれた私の叫びに、茶髪の男が顔を真っ青にする。場違いにも大きく見開かれた金色の目に綺麗だなと思う。
というかこの人、意外と顔が幼い……?とても体格がいいから気づかなかったけど、もしかして私とそう年が変わらないのかもしれない。
「この方は、っ……、こんなところで倒れるようなお方じゃない!確かに今は怪我で意識を失っておられるが、時期に回復するはず、っぐ」
勢いよく反論しようとした少年はしかし怪我が痛むのだろう、途中何度も言葉を詰まらせていた。
(薄々気づいていたけど、やっぱり貴族関係かー。自分のことを考えたら治癒魔法を使わない方がいいんだろうけど、ここまで関わって見捨てるのはなぁ)
金髪の方が特に酷いってだけで、彼だって十分に重症である。それこそこの村に備えてある下級ポーションじゃ気休めにもならない程度の。
このまま放っておいたら明日まで持たないだろうが、厄介がトラブルを背負ってるような彼らを村人が本気で助けるとは思えない。私も他所の人間だからよく分かるが、彼らは異物に敏感なのだ。
(しかもタイミングが最悪。黒い死に怯えている村人がこの人たちに危害を加えないとも言えないし。エダさんが居ない今、勝手に屋敷に連れて帰ることもできないし)
ミハイルとエダに思いつきの行動じゃないと証明するためにも、もう一度しっかり考える。
だけどしきりに金髪に呼びかける少年の姿があまりにも痛ましくて、私はお説教を覚悟するしかなかった。
よし、彼らにはしばらく薬局に身を隠してもらうとしよう。黒い死のことを説明すれば分かってくれるはずだ。というか分からせる。
そうと決まれば、私は優しい声を意識して少年に声をかけた。
「もしよろしければ、私のところで休んでいきますか?その、あんなことがあったばかりで信用できないかもしれませんが、ここに居ては獣の餌になりますよ」
「えっ、あ……い、いや、この命は貴女に助けて貰ったようなものだ。信じてないわけではないが……あまりにも都合がいい話でその、むしろいいのか?俺たちは、」
「いえ、どんな事情があろうと貴方たちは怪我人です。……そこに転がってる加害者は別ですけど。あ、あとで警備隊に突き出しておきますのでご心配なく」
「……ああ、助かる。貴女は優れた魔導士のようだし、奴らに後れを取ることはないだろう」
変に彼らの事情を聴いて逃げられなくなるのは嫌なので、食い気味で言葉を被らせる。そうすると察してくれたのか、少年はこれ以上深く踏み込むことはなかった。
「貴方の怪我も酷いですし、良ければ彼のことはフブキが運びますよ」
「重ね重ね申し訳ない。恩人にここまで迷惑をかけるなどこの上ない恥じ話だが、本当にありがたい話だ。くそっ、もっと鍛えていれば!」
土下座でもしそうな勢いの少年だが、そんな姿に心を動かさないのがフブキである。
『なっ、俺はコハクしか乗せんぞ!?』
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、彼だってもうロクに動けないはずよ」
『ガルル』
「私を助けるのだと思って!」
『ガル……はあ、コハクは人が良すぎる!まったく、俺の自慢の毛並みが汚れるではないか……』
顔をこれでもかというくらいにしわくちゃにして、フブキは本当に渋々と金髪の男を背中に載せた。
まったく表情が豊かなことである。あとでブラッシングをしてあげよう。
「しかしここまで甘えておいてなんだが、俺たちみたいのをいきなり家に連れて行っていいのか?ご家族や村人の目もあるだろう」
意識のない成人男性を背中に乗せているのに、フブキの歩みに少しもふらつきはない。
その姿に少年は安心したようにため息を一つこぼすと、思い出したかのように首を傾げてそう言った。
「あ、そういえばまだ言ってませんでした。実は私、この小屋で薬師をやってるんですよ。あまり環境は整ってませんが、お二人が休む分には問題ないかと!」
「は、やくし?……やくしって、まさか薬師のことか!?」
「はい!まだ若いですけど、自分のレシピだって何個もあるんですよ!腕には自信があります」
予想通りの反応をする少年に、みんなで考えた外向けの設定を話す。
やはり貴族でも私のような若い薬師は見たことないようで、少年はあさまに挙動不審になる。
彼らとはあんまり深く関わりたくないので、怪我が治ったらさっさと出てって欲しいけど……貴族に私の腕を宣伝してくれないかな。
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