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第二章

32.襲撃?

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 人の言葉を操るとはいえ、魔獣であるフブキは重心を低くした臨戦態勢のまま気を張りつめている。

 薬局に籠城した方がいいかなと考えたが、フブキの目が届かないところにわざわざ行くこともないだろう。気配遮断のスキルを持つ敵がいるかもしれないしね。
 背中を壁に付けて、どんな魔法もすぐに使えるように魔力を練り上げる。


「__!」
「……で……ッ!」


 男の怒鳴り声が聞こえる。予想通りというか、やはりもめ事らしい。叫び声が入り乱れていて人数は特定できないが、二人じゃないのは確かだ。


『ふむ……あと四人、音はするのに匂いがないな。暗殺者の類か?どちらにせよただの冒険者同士のもめ事じゃなさそうだが』
「……そこまで聞いたら無視できないわ。暗殺者なんて村に入れられないよ」


 防御魔法ならミハイルに散々鍛えられたし、フブキにも緊張した様子は見られない。追われているらしい男二人は怪我をしているようだし、戦いになれば彼らの存在に気付く村人も現れるだろう。
 仮定暗殺者がこっそり逃げてくれるならともかく、口封じに村人を殺すかもしれない。ふと、大切そうに丸薬を持ち帰った村人の姿が過る。


(……それは、絶対に避けなきゃ)


 足音と声が近くなって来て、森から男が二人飛び出してくる。一人は自分で歩くことも辛いようで、もう一人の男に半ば担がれるように移動していた。それから草むらをかき分けて彼らは木陰から姿を現し__。


「!」


 思わず、息をのんだ。

 二人は、全身血みどろだった。辛うじて髪の色が分かるほどで、身に付けている防具はズタボロでほとんど役目を果たせていない。いや、果たしたからああなったと考えるべきか。
 ヒュッ……と喉を空気が通る音がやけに大きく響いた。


「ッ!誰だ、っく」


 私たちに気付いた茶髪の男が剣を抜いてこちらを見る。声量は控えめだったのだが、それでも怪我に響いたらしく苦し気にうめいた。


(確かに!血の匂いがするとは言っていたけど!思っていたより大分ひどいんですがー!?)


 剣を向けられたことでフブキは今にも攻撃しそうだったが、直感的に今じゃないと感じてなだめる。
 すると、担がれていた金髪の男はやっと気づいたように顔を上げた。


「……ごほっ、ジェラルド、ちがうッ……女の子、ここ、ケイン村じゃ、」
「危ないッ!」
『コハク!防御魔法だ!』


 驚いたような男の言葉が最後まで告げられることはなかった。
 もう一人の男とフブキの声が同時に聞こえ、私はほとんど反射で防御魔法を使う。私を覆うように丸いドームができた次の瞬間、男たちがやってきた方角から氷の矢が飛んできた。


「居たぞ!逃がすな!」
「くそっ、風よ、切り裂けウィンドカッター!」
水よ、薙ぎ払えアクアウィップっ、隊長!魔力切れしそうですッ!」
 

 続いて顔を隠した男が四人森から飛び出し、それぞれ魔法を打ち始めた。私には気づいていないようで、声高に詠唱をしている。日々自称天才魔導士のミハイルに鍛えられ居ている私からすれば「本気か?」と疑う。

 まあ、そのおかげで彼らが使っている魔法はすぐに分かった。魔力を消耗しているからか下級魔法ばかり使っており、命中率もあまりよろしくない。
 あの二人があの怪我で逃げ切れたのはそのおかげだろう。


「フブキ、あの四人を一気に気絶させられる?」
『それは簡単だが……なんだ、生かしておくのか?』
「殺さないよ!?魔法で拘束して町の警備隊に引き渡すつもり」


 警備隊は彼らの処分に苦労するかもしれないけど、そこは仕事だと諦めて貰おう。


『あの二人は』
「助ける」
『ふん、運が良いやつらだ』


 そう鼻をならしたフブキの姿が、フッと掻き消える。私の腰ほどまで大きくなったフブキは、瞬きの間に男たちの背後に移動していた。
 そうしたフブキの姿が、男たちと向き合うように戦っていた二人組の視界に入る。


「伏せて!」


 私は何が起こっているのか理解できてない二人に向かって叫ぶ。本能的に危険を察知したのか、二人は声の主を確認することなく地面に伏す。

 その次の瞬間、純白の巨躯が男たちの頭上を薙ぎ払った。


「ぐぁっ」
「なっ、」


 私の声で集中力が乱れ、魔法を発動できなかった男たちはろくに反応もできずに倒れていく。おそらくフブキの姿を捕らえることもできなかっただろう。


『口ほどにもなかったな。コハク、催眠魔法をかけておけ。二度と目覚めないくらいのな』
「それだと私が罪に問われちゃうからね?」


 とはいえ、顔を見られたくないので気持ち強めに催眠魔法をかけておく。ついでに土魔法の応用で伸びている男たちをツタでぎっちり拘束しておく。


(この顔を隠してる布、絶対に怪しいよね。……よし、燃やしちゃえ!)


「うわ、泡吹いてる……」
『生きてる証拠だ』
「ウン、ソウネ」


 フブキと事後処理をしていると、茶髪の男が安堵と困惑が混ざった曖昧な表情で私を見ていることに気がついた。まだわずかに警戒の色が見えるが、半開きの口が間抜けで可愛いので問題ない。
 そして金髪の方はというと。


「気絶してる!?」

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