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第一章
21.丸薬作戦
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「……それを食べれば、この痕が消えるのね?」
ずっと黙っていた女性は丸薬を見つめながら、確かめるように私に尋ねた。
その覚悟を決めたような声色に、私は彼女が丸薬を飲むつもりだとすぐに気付いた。
「はい、約束します」
「お、おい!?ハンナ、お前正気か!?」
「お前がその痕を気にしてるのは知ってるけどよ。嫁入り前の娘でもあるまいし、そんな怪しいもんを食べるほどか!?」
「そうだそうだ!いくらエダ先生のお墨付きとはいえ、少し考えなおせよ!なあ、お前たちからもなんか言ってくれ!」
再び騒ぎ出した男たちは、助けを求めるように村の女性たちに話を振った。さっき彼女たちも反対していたからだろう。
だが、彼らはどうやら自分たちが地雷を踏んでしまったことに気付いていないようだ。
……女性陣は、あんなにも静まり返っているというのに。
「……正直、ハンナちゃんの気持ちは分からなくもないわ。あんたたちはもう嫁入り前の娘じゃないって言うけど、女はいつまでも綺麗でいたいものだよ」
「は、」
「そうそう、あたしもいいと思うよ。それに先生のお墨付きなら、それだけで十分じゃない?」
「し、しかしだなァ」
「あら、何か文句でもあるの?あなたの腰を直したのは誰?お前もこの前魔獣に襲われて先生のポーションにお世話になったよね?」
文句を言おうとした男たちはことごとく騙されていった。
というか、さっきまで我関せずと言った様子のご婦人方も参戦しているところを見るに、これは完全に男たちが怒らせてしまったのだろう。
(まあ、心配から来た言葉としてもあの言い方はないよね……)
しかし、村の女性が味方になったことで、ハンナと呼ばれた女性は勇気を持てたようだった。
恐る恐るといった様子ではなく、はっきりと治したいという気持ちを感じる。
「何も言っていないのに、わたしの悩みを当てたコハクさんを信じるわ。これを食べればいいのよね」
「はい。ちょっと苦いですが、噛み砕かずに水で流し込んでください」
「ずいぶん不思議な食べ方をするのね」
渡された丸薬を不思議そうに眺めながら、ハンナはそれを手のひらの上で転がした。
この丸薬はあくまでも私の魔法の隠れ蓑だから、慣れない人でも飲み込み安いようにかなり小さくしている。
別に飲み込むのに気を取られてくれれば、魔法使われても気づかれないんじゃないかなーとか思ってない。思ってないよ。
「慣れていないうちは上を向くと飲み込みやすいですよ」
「分かったわ。苦いのは苦手だけど、これでこの痕が無くなるならがんばるわ!」
目をぎゅっとつぶったハンナは、言われた通りに丸薬を口に入れる。
村人の視線はみんなハンナに釘付けで、当のハンナも飲み込むのに必死だ。
(よし、今なら誰も見てない!)
ミハイルに鍛えられた魔力コントロールを生かし、素早くハンナの腕に癒しの魔法をかける。同時に鑑定も発動させて治し残しがないことを確認する。
赤いマーカーが消すように小さく癒しの魔法をかけていけば、ハンナが丸薬を飲み込めたころには傷一つない肌になっていた。
ちらりとエダを見れば、彼女は満足そうに笑いかけてくれた。フブキも人目があるから飛びついては来なかったものの、ふわふわのしっぽをちぎれんばかりに振っている。
「ハンナ、あんたの腕!」
「うそ……!ほ、本当に治っている……あの引きつっていた感覚もないわ!」
最初にハンナの変化を指摘したのは、そのすぐ隣で様子を見ていた女性だった。
丸薬を飲み込んだ違和感になんとも言えない表情をしていたハンナも、その言葉に慌てて自分の腕を確認する。
「でこぼこもしてない……まるで昔に戻ったみたいだわ!」
「こりゃすごい!すごいもんを見ちまったな」
「これ、ワシの頭も治して貰えんかのぅ」
「じぃさんはいい加減髪を諦めろ!こんなすごいもんをそんなことに使うな!」
「そんなこととは何だ!ワシの毛をなんだと思ってるんだ!」
涙を流したハンナをきっかけに、村人たちは再び騒ぎ出した。さっきまでの私を疑うようなものではなく、それこそエダを迎えた時のようなお祭り騒ぎだ。
『俺から見ても魔法の光はほとんど無かったぞ。結構大きい怪我だったのに上手くいったな!』
返事出来ない代わりにフブキを撫でてやれば、やっと落ち着いたらしいハンナはこちらに駆け寄ってきた。
「わたしったら、お礼もせずにとんだ失礼を……!コハクさま、わたしの痕を消していただき本当にありがとうございます!」
「さ、さま!?しかもいきなり敬語まで使い出してどうしたんですか!?」
「だってポーションでも治らなかったのに、コハクさまはあんな小さな丸薬で治してしまったんですよ?そんなすごい薬師さまに失礼なことはできませんよ!」
「いえ、私は薬師じゃ」
「いやー、アタシの弟子は将来有望だろう!」
否定しようとした私の言葉をかき消すようにエダが割り込んで来た。
一瞬疑問に思うも、確かにここで変に否定して話をややこしくする必要はないと気付く。この世界に身分証は無いし、ならば薬師だということにしておいた方が便利だろう。
そういうことで黙ってエダたちの盛り上がりを見ていたが、ハンナから大きな爆弾が落とされることになる。
「はい、これでわたしたちは流行病に怯えなくても済みそうです!」
ずっと黙っていた女性は丸薬を見つめながら、確かめるように私に尋ねた。
その覚悟を決めたような声色に、私は彼女が丸薬を飲むつもりだとすぐに気付いた。
「はい、約束します」
「お、おい!?ハンナ、お前正気か!?」
「お前がその痕を気にしてるのは知ってるけどよ。嫁入り前の娘でもあるまいし、そんな怪しいもんを食べるほどか!?」
「そうだそうだ!いくらエダ先生のお墨付きとはいえ、少し考えなおせよ!なあ、お前たちからもなんか言ってくれ!」
再び騒ぎ出した男たちは、助けを求めるように村の女性たちに話を振った。さっき彼女たちも反対していたからだろう。
だが、彼らはどうやら自分たちが地雷を踏んでしまったことに気付いていないようだ。
……女性陣は、あんなにも静まり返っているというのに。
「……正直、ハンナちゃんの気持ちは分からなくもないわ。あんたたちはもう嫁入り前の娘じゃないって言うけど、女はいつまでも綺麗でいたいものだよ」
「は、」
「そうそう、あたしもいいと思うよ。それに先生のお墨付きなら、それだけで十分じゃない?」
「し、しかしだなァ」
「あら、何か文句でもあるの?あなたの腰を直したのは誰?お前もこの前魔獣に襲われて先生のポーションにお世話になったよね?」
文句を言おうとした男たちはことごとく騙されていった。
というか、さっきまで我関せずと言った様子のご婦人方も参戦しているところを見るに、これは完全に男たちが怒らせてしまったのだろう。
(まあ、心配から来た言葉としてもあの言い方はないよね……)
しかし、村の女性が味方になったことで、ハンナと呼ばれた女性は勇気を持てたようだった。
恐る恐るといった様子ではなく、はっきりと治したいという気持ちを感じる。
「何も言っていないのに、わたしの悩みを当てたコハクさんを信じるわ。これを食べればいいのよね」
「はい。ちょっと苦いですが、噛み砕かずに水で流し込んでください」
「ずいぶん不思議な食べ方をするのね」
渡された丸薬を不思議そうに眺めながら、ハンナはそれを手のひらの上で転がした。
この丸薬はあくまでも私の魔法の隠れ蓑だから、慣れない人でも飲み込み安いようにかなり小さくしている。
別に飲み込むのに気を取られてくれれば、魔法使われても気づかれないんじゃないかなーとか思ってない。思ってないよ。
「慣れていないうちは上を向くと飲み込みやすいですよ」
「分かったわ。苦いのは苦手だけど、これでこの痕が無くなるならがんばるわ!」
目をぎゅっとつぶったハンナは、言われた通りに丸薬を口に入れる。
村人の視線はみんなハンナに釘付けで、当のハンナも飲み込むのに必死だ。
(よし、今なら誰も見てない!)
ミハイルに鍛えられた魔力コントロールを生かし、素早くハンナの腕に癒しの魔法をかける。同時に鑑定も発動させて治し残しがないことを確認する。
赤いマーカーが消すように小さく癒しの魔法をかけていけば、ハンナが丸薬を飲み込めたころには傷一つない肌になっていた。
ちらりとエダを見れば、彼女は満足そうに笑いかけてくれた。フブキも人目があるから飛びついては来なかったものの、ふわふわのしっぽをちぎれんばかりに振っている。
「ハンナ、あんたの腕!」
「うそ……!ほ、本当に治っている……あの引きつっていた感覚もないわ!」
最初にハンナの変化を指摘したのは、そのすぐ隣で様子を見ていた女性だった。
丸薬を飲み込んだ違和感になんとも言えない表情をしていたハンナも、その言葉に慌てて自分の腕を確認する。
「でこぼこもしてない……まるで昔に戻ったみたいだわ!」
「こりゃすごい!すごいもんを見ちまったな」
「これ、ワシの頭も治して貰えんかのぅ」
「じぃさんはいい加減髪を諦めろ!こんなすごいもんをそんなことに使うな!」
「そんなこととは何だ!ワシの毛をなんだと思ってるんだ!」
涙を流したハンナをきっかけに、村人たちは再び騒ぎ出した。さっきまでの私を疑うようなものではなく、それこそエダを迎えた時のようなお祭り騒ぎだ。
『俺から見ても魔法の光はほとんど無かったぞ。結構大きい怪我だったのに上手くいったな!』
返事出来ない代わりにフブキを撫でてやれば、やっと落ち着いたらしいハンナはこちらに駆け寄ってきた。
「わたしったら、お礼もせずにとんだ失礼を……!コハクさま、わたしの痕を消していただき本当にありがとうございます!」
「さ、さま!?しかもいきなり敬語まで使い出してどうしたんですか!?」
「だってポーションでも治らなかったのに、コハクさまはあんな小さな丸薬で治してしまったんですよ?そんなすごい薬師さまに失礼なことはできませんよ!」
「いえ、私は薬師じゃ」
「いやー、アタシの弟子は将来有望だろう!」
否定しようとした私の言葉をかき消すようにエダが割り込んで来た。
一瞬疑問に思うも、確かにここで変に否定して話をややこしくする必要はないと気付く。この世界に身分証は無いし、ならば薬師だということにしておいた方が便利だろう。
そういうことで黙ってエダたちの盛り上がりを見ていたが、ハンナから大きな爆弾が落とされることになる。
「はい、これでわたしたちは流行病に怯えなくても済みそうです!」
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