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第一章
19.ケイン村
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結果から言うと、私たちはこれ以上ないほどに熱烈な歓迎を受けた。
村中を走り回る門番は行く先々で仲間を増やし、その仲間がさらに仲間を呼び寄せるのを繰り返し、最終的には全村人が関所の前にいるんじゃないかと思う。
そして私は村の風景を楽しめる間もなく、やたらとテンションが高い村人の群れに飲まれて気づけば広場に立っていたのだ。
意外な展開に、フブキは耳を伏せて私の側に座った。
「おい!エダ先生が来たぞ!」
「本物か?弱い俺が見せた幻覚じゃないよな?」
「安心しろ、あんな魔女のような薬師なんてそういねエよ」
「それもそうね!っていうことは先生元気になったの?」
「マジか、あんな辛そうだったのに。オレのお袋も診てくれないかな」
「久しぶりにやってきたエダ先生を働かせるなんて悪いわ」
「でもよォ、最近きなクセェ話も聞くし、先生に話を聞きてもらいてェよ」
「ちょっと、それより先にすることがあるでしょう?」
「今日は宴だーーーー!」
「バッカ、そんな貯蓄ねえよ」
『元気なやつらだな』
村人は私たちを中心に好き放題話し合っている。
あいにく私は何人もの話を聞き分けられないのが、エダがとても好かれているということは分かった。とりあえずよそ者は出てけと冷たい目を向けられることはなさそうで、ほっと胸を撫でおろす。
「ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが……アンタたち、少し落ち着きな」
このままじゃあまともに会話できないと考えたエダは、ぱんと手を叩いて注目を集めた。
その効果は絶大で、村人はみんな口をつぐんで大人しくエダの言葉を待っている。
「まずはお前たちに謝らなきゃならないことがある。今までアタシの都合で往診を中止にして申し訳なかった。ここら辺に薬師はいないから、不便だっただろう」
「そ、そんな!先生の方が大変だったのに、私たちのためにポーションを残してくださっていたではありませんか!」
「ああ!オレの息子もポーションのおかげで助かったんだぜ!」
この世界のポーションは単純なステータス回復だけではなく、風邪薬や傷薬のような役割も果たしているらしい。
どんな不調もポーションで解決してしまうから、この世界でポーションを作る薬師という職業は医者と薬剤師を合わせたようなものだ。
「お前たちが元気そうで良かったよ。さて、この通りアタシは元気になったから、往診を再開するつもりだ。今日は様子見と……助手のお披露目だ。今回の件で、アタシも年齢には抗えないと気付かされたからね」
そういうエダに肩を押され、私は一歩前に出てしまう。視線が一気に私の方に集まるのを感じる。
でもそれらに刺々しさはなく、どちらかというと戸惑っているようだった。私は舐められないように、できるだけ声を落ち着かせて答えた。
「初めまして、私の名前は心白です。エダさんのもとで助手をしています」
「彼女が?まあ、確かに薬師は幼いころから師を探しているとは聞くが……」
「助手と言っても、病を癒すことに関してはこの娘の方が優れているぞ。若いからと怪しむ気持ちも分かるが、なにしろアタシの足を治したのも彼女だ。腕はアタシが保証しよう」
誰かが息をのむ音がした。
そして村人はお互いの顔を見合わせて、ぼそぼそと何やら話し合っている。もっと反発されると考えていた私は、あまりもの穏やかさに拍子抜けした気分だ。
(普通、もう少し不審がるものじゃない?それとも、こんな女子高生にも頼りたいほど薬師が少ないのかな?)
私が考えている間にも村人たちの意見がまとまったようで、立派なひげをたくわえた老人が前に出てきた。
この場で一番の年長者っぽいし、村長とかだろうか。
「もちろん先生がお認めになられた方であれば、我々としてもお祝いしたい気持ちでいっぱいじゃが……彼女が先生ですらお手上げだった病を治したというのは本当でしょうか?」
「まあ、確かにいきなり信じろというのは難しい話だな。実際に見てもらうのが一番手っ取り早いが」
ちらりと、エダが私に視線を送る。
それが合図だと気付いた私は、あらかじめ打ち合わせたセリフを言う。
「折角皆さんが集まっていることですし、よろしければ今ここでお見せしましょうか?」
「今ここで!なんの準備も必要ないのかね?」
「はい。あ、もちろん皆さんが構わなければですけど」
「彼女はそう言っておるが、お前たちはどうだ?」
老人の問いかけに村人は様々な反応をしてくれたが、嫌そうな態度を示す人は見当たらなかった。
エダに対する信頼なのか、それともこの村の人がいい人すぎるのか。どちらにせよ、悪い人に騙されそうな人たちだ。
「申し遅れました。儂はケイン村の村長をしているロイドです。反対している奴らは少ないので、コハク様のお好きのようにして構いません」
「分かりました。……あの、敬語も様もいりませんよ」
「我々はコハク様を試すような真似をしているというのに、なんとお優しいことか。いえ、だからこそ敬意を忘れてはならんのです!」
不慣れなせいか、ロイドの敬語は所々抜けていたりしている。それにおじいちゃんに敬語、それも様付けで呼ばれるのはかなり居心地悪いので、素直に伝えてみた。
のだが、ロイドは逆に目を潤ませた。しかも後ろの村人たちも大きくうなずいているではないか。
『これはいくら言っても聞かないだろうな。ほら、今のうちに鑑定して治すぞ』
「そうだね、タイミングとしてはいいかもしれない!」
後で普通に接して貰えるように話そう。
そう決めた私は、フブキに促されるまま鑑定を発動させた。
村中を走り回る門番は行く先々で仲間を増やし、その仲間がさらに仲間を呼び寄せるのを繰り返し、最終的には全村人が関所の前にいるんじゃないかと思う。
そして私は村の風景を楽しめる間もなく、やたらとテンションが高い村人の群れに飲まれて気づけば広場に立っていたのだ。
意外な展開に、フブキは耳を伏せて私の側に座った。
「おい!エダ先生が来たぞ!」
「本物か?弱い俺が見せた幻覚じゃないよな?」
「安心しろ、あんな魔女のような薬師なんてそういねエよ」
「それもそうね!っていうことは先生元気になったの?」
「マジか、あんな辛そうだったのに。オレのお袋も診てくれないかな」
「久しぶりにやってきたエダ先生を働かせるなんて悪いわ」
「でもよォ、最近きなクセェ話も聞くし、先生に話を聞きてもらいてェよ」
「ちょっと、それより先にすることがあるでしょう?」
「今日は宴だーーーー!」
「バッカ、そんな貯蓄ねえよ」
『元気なやつらだな』
村人は私たちを中心に好き放題話し合っている。
あいにく私は何人もの話を聞き分けられないのが、エダがとても好かれているということは分かった。とりあえずよそ者は出てけと冷たい目を向けられることはなさそうで、ほっと胸を撫でおろす。
「ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが……アンタたち、少し落ち着きな」
このままじゃあまともに会話できないと考えたエダは、ぱんと手を叩いて注目を集めた。
その効果は絶大で、村人はみんな口をつぐんで大人しくエダの言葉を待っている。
「まずはお前たちに謝らなきゃならないことがある。今までアタシの都合で往診を中止にして申し訳なかった。ここら辺に薬師はいないから、不便だっただろう」
「そ、そんな!先生の方が大変だったのに、私たちのためにポーションを残してくださっていたではありませんか!」
「ああ!オレの息子もポーションのおかげで助かったんだぜ!」
この世界のポーションは単純なステータス回復だけではなく、風邪薬や傷薬のような役割も果たしているらしい。
どんな不調もポーションで解決してしまうから、この世界でポーションを作る薬師という職業は医者と薬剤師を合わせたようなものだ。
「お前たちが元気そうで良かったよ。さて、この通りアタシは元気になったから、往診を再開するつもりだ。今日は様子見と……助手のお披露目だ。今回の件で、アタシも年齢には抗えないと気付かされたからね」
そういうエダに肩を押され、私は一歩前に出てしまう。視線が一気に私の方に集まるのを感じる。
でもそれらに刺々しさはなく、どちらかというと戸惑っているようだった。私は舐められないように、できるだけ声を落ち着かせて答えた。
「初めまして、私の名前は心白です。エダさんのもとで助手をしています」
「彼女が?まあ、確かに薬師は幼いころから師を探しているとは聞くが……」
「助手と言っても、病を癒すことに関してはこの娘の方が優れているぞ。若いからと怪しむ気持ちも分かるが、なにしろアタシの足を治したのも彼女だ。腕はアタシが保証しよう」
誰かが息をのむ音がした。
そして村人はお互いの顔を見合わせて、ぼそぼそと何やら話し合っている。もっと反発されると考えていた私は、あまりもの穏やかさに拍子抜けした気分だ。
(普通、もう少し不審がるものじゃない?それとも、こんな女子高生にも頼りたいほど薬師が少ないのかな?)
私が考えている間にも村人たちの意見がまとまったようで、立派なひげをたくわえた老人が前に出てきた。
この場で一番の年長者っぽいし、村長とかだろうか。
「もちろん先生がお認めになられた方であれば、我々としてもお祝いしたい気持ちでいっぱいじゃが……彼女が先生ですらお手上げだった病を治したというのは本当でしょうか?」
「まあ、確かにいきなり信じろというのは難しい話だな。実際に見てもらうのが一番手っ取り早いが」
ちらりと、エダが私に視線を送る。
それが合図だと気付いた私は、あらかじめ打ち合わせたセリフを言う。
「折角皆さんが集まっていることですし、よろしければ今ここでお見せしましょうか?」
「今ここで!なんの準備も必要ないのかね?」
「はい。あ、もちろん皆さんが構わなければですけど」
「彼女はそう言っておるが、お前たちはどうだ?」
老人の問いかけに村人は様々な反応をしてくれたが、嫌そうな態度を示す人は見当たらなかった。
エダに対する信頼なのか、それともこの村の人がいい人すぎるのか。どちらにせよ、悪い人に騙されそうな人たちだ。
「申し遅れました。儂はケイン村の村長をしているロイドです。反対している奴らは少ないので、コハク様のお好きのようにして構いません」
「分かりました。……あの、敬語も様もいりませんよ」
「我々はコハク様を試すような真似をしているというのに、なんとお優しいことか。いえ、だからこそ敬意を忘れてはならんのです!」
不慣れなせいか、ロイドの敬語は所々抜けていたりしている。それにおじいちゃんに敬語、それも様付けで呼ばれるのはかなり居心地悪いので、素直に伝えてみた。
のだが、ロイドは逆に目を潤ませた。しかも後ろの村人たちも大きくうなずいているではないか。
『これはいくら言っても聞かないだろうな。ほら、今のうちに鑑定して治すぞ』
「そうだね、タイミングとしてはいいかもしれない!」
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