上 下
9 / 60
序章

09.鑑定

しおりを挟む
 私の足にすり寄るフブキをじっと見てみる。
しっぽをちぎれんばかり振るその姿は犬そのもので、とてもあの巨大な狼と同じ生き物だとは思えない。ずっと動物を飼いたかった私からすると、フブキの存在は降って沸いた幸運だった。

 真っ白でふわっふわな毛並みを堪能していると、ミハイルが何かを呟く声が聞こえた。


「うん、魔力の消費も特に問題なしっと。いやあ、治癒魔法ってとんでもないね!体力も完璧に回復しているのに、魔力がたったこれしか消費されてないなんて」
「あ、もしかして今鑑定スキルを使いました?」
「そうだよー。スキル効果は基本的に他人には影響しないから、コハクちゃんからは見えないだろうけど」


 ミハイルの言う通り、私には虚空を見つめているようにしか見えなかった。


「鑑定スキルか……。あったら便利だろうな」
「コハクちゃんも鑑定スキルを持ってるよ」
「えっ!?」
「隠してたわけじゃないよ。治癒魔法がどれくらい魔力を消費するか分からなかったから、スキルのことは後回しにするつもりだったんだ。癒しの魔法と使い魔契約はコハクちゃんの身を守るためにも最優先事項だったからね」


 どうやら鑑定のような所有者の意志で発動するスキルは、使うたびに魔力を消費するようだ。特に新しいものや複雑な物を鑑定するには魔力がたくさん必要で、ミハイルは私の魔力が無くなってしまう事を避けたかったらしい。


(まあ、怪我と比べたら明らかに優先順位落ちるよね。フブキと意思疎通できなくて困ることはあっても、鑑定できなくて困ることはないし)


 でも今教えてくれたということは、私の魔力に余裕があるという事かな。


「魔力がなくなると何か良くないことがあるんですか?」
「魔力は体力と同じでね。枯渇すると倒れたり、最悪死んでしまうこともあるんだ」
「死っ!?」
「ははは、コハクちゃんの魔力量ならそう心配することは無いよ。スキルも魔法も熟練度が大事だから、余裕ができたらぼくとたくさん練習しようねー」


 要するに無理のないレベ上げしろという事だろう。
 コクコクと頭を何度も縦に振る私を見たミハイルは、呆れながらも鑑定の使い方を説明してくれた。


「鑑定するにはね、必ず対象を視界に入れないといけないんだ。スキルも詠唱は特に必要ないんだけど、慣れないうちはスキル名を唱えてみるといいよ」


 さっそく使ってみる?という問いに、私はヘドバンかくやの首振りを披露した。


「最初は自分の鑑定をしてみようか。他人を視るのと違って簡単にできるし、コハクちゃんも自分のステータス気になるよね?目に魔力を込めるだけで視えるけど……最初は手でも見つめながらやってみて」


 癒しの魔法を使ったときに何かが体内で廻っているのを感じたが、今は何も感じ取ることができない。大人しく右手を視ながらスキル名を唱える。


「〈鑑定〉」


 すると、目の前にあの詐欺テロップと同じデザインのウィンドウが現れた。

【聖川心白
17歳/Lv.10
職業:聖女
HP:100/100
MP:1354/1500
スキル:〈全属性適性Lv.5〉〈鑑定Lv.5〉〈生産Lv.5〉
使い魔:フブキ(フェンリル)】



「職業のところに聖女ってある!?」
「だからずっとそう言ってるじゃないか!」


 ウィンドウのデザインも相まって、本当にゲームのようだ。
 ここに書いてあるのが私の能力、いわゆるステータスだと思う。職業聖女というのに少し違和感を感じるが、これは自分の役割や立場をそのまま表しているのだろう。
 その下のHPが体力、MPが魔力を現しているはずだ。MPが少し減っているのは癒しの魔法と鑑定を使ったからかな。あとで検証しておこう。


「ミハイルさん、この世界で平均的なステータスってどれくらいですか?」
「宮廷魔導士でも魔力が500あれば安泰だね。一般人なら50もあればどの職でも重用されるんじゃない?」
「差が凄いですね。体力は?」
「体力は誰でも簡単に鍛えられるから、平均数値はかなり高いよ。十歳の子供でも100はあるよ。ヨークブランの近衛騎士長なんて魔力が50しかなかったのに、体力は3000もあったからね」

 近衛騎士長は関係ないとして、つまり私の体力は十歳の子供程度ってこと……?
 確かに聖女は後方支援職で魔力勝負みたいなイメージがあるけど。もしかしなくても私、貧弱すぎるのでは。今度筋トレしよ。

 嫌な現実から目を背けて、私は次に進んだ。
 スキルの欄には私が持っているスキルが並んでいて、すべてレベル5になっている。年齢の隣にあるのは今の私のレベルだと思うが、これもレベル10とあった。
こういうのって最初はレベル1からスタートじゃないのかな。


「レベルって、最初からこんなに高いものなんですか?」
「ああ、それは職業補正だね。特に聖女みたいな高位職だといろんな恩恵を受けるよ」
「へえ~」


 ゲームでもあったな、そういうの。装備品やジョブとかでステータスの基礎数値が増えたりするんだよね。夢があるなあ。
 それから使い魔は文字通りだよね。フブキの名前があるし。


(とりあえずこんなところかな)


 まるでゲームのような内容に、気持ちがだいぶ前を向いてきた。うん、今は落ち込んでる場合じゃないよね!

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

国王ごときが聖女に逆らうとは何様だ?

naturalsoft
恋愛
バーン王国は代々聖女の張る結界に守られて繁栄していた。しかし、当代の国王は聖女に支払う多額の報酬を減らせないかと、画策したことで国を滅亡へと招いてしまうのだった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ゆるふわ設定です。 連載の息抜きに書いたので、余り深く考えずにお読み下さい。

処理中です...