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序章

04.追放2

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 それからは速かった。
 手は改めてきつく縛られ、ボロボロの馬車に押し込まれた。車では考えられないほどの揺れと座り心地の悪さに何度も吐きかけたが、困るのは私なので必死に我慢する。

 そんな状態で体力が続くはずもなく、私は何度か寝落ちてしまった。すぐに頭を打ち付けて起きてしまうのだが、結局日が落ちても馬車が止まることはなかった。


 だが、景色は確実に変わっている。
 建物はどんどん減っていき、代わりに木が増えていく。目が覚める度に揺れが酷くなっているので、私が追放される"帰らずの森"は人の手も入らないほどの場所らしい。


(私は、何もしてないのに)


 やっぱりあの”あなたが聖女に選ばれました!”とかいうテロップは詐欺だったに違いない。
 思い返せば夢野はなぜか色々知っていたようだし、きっと聖女は彼女なのだろう。夢野が聖女なんて大変気に食わないが、それは私が決められることじゃない。


 だが、この国の人の対応はなんだ。
 勝手に呼んでおいてろくに調べもせず、名乗り上げた夢野のことを全面的に信じすぎではないか。戦争中かなんだか知らないが、盛大に負けてしまえばいい。夢野を崇拝する国が長らく存在するのを考えただけでゾッとする。

 そもそも魔法も使えない女の手を拘束して身一つで森に放り出すなんて、死ねって言っているようなものじゃない。


(でもすぐに殺されるよりはマシ、だよね)

 まずは石でも見つけてロープを切る。それから人が居そうな場所を目指して、生き延びよう。大丈夫。私は死んだりしない。

 そして。
 あんな目に遭っておきながら、まだ根拠のない自信を抱えていた私の目を無理やり覚まさせる出来事が起きた。


「降りろ!」


 急に馬車が止まり、鎧をまとった男が無遠慮に扉を開ける。男は無遠慮に私を外に引きずり出すと、無言で剣を喉元に突きつけた。


「っ」
「ハッ、聖女様を苦しめてきたって言うからどんな悪女かと思えば、案外普通の女じゃないか。いや、」


 ただでさえ夜で見通しが悪いのに、高く伸びた木が密生しているせいで何も見えない。それなのに私の喉元にある剣はたいまつの明かりを反射して、嫌に目につく。
 辛うじて男の顔が見える。兵士というには身なりがいい金髪の男は、虫を見るような目で私を見下ろしていた。彼の後ろでは兵士が何人かいたが、助けてはくれなさそうだ。


「普通だからこそ、欲に目がくらんだのか?」


 生まれて初めて向けられた殺気に、震えが止まらない。直感的にこの男は私を殺すつもりなのだと理解する。やはり兵士たちに動きはない。
 つまり、これは突発的な行動ではないという事だ。

 相変わらず両手は縛られたまま。喉元に突きつけられた剣は、少しでも動けば貫通しそうだ。抵抗しようにも、タイミングを見計らわなければその前に息の根が泊るだろう。今更ながら護身術の授業をちゃんと受けていればよかったと後悔する。


「レオナルド様、さっさと済ませてしまいましょう。さもなくば、我々の身も危ないです」
「そうだな、遅くなっては聖女様を心配させてしまう」
「ええ、朗報を持って帰って聖女様の愁いを晴らしましょう!」


 遠くで待機していた兵士が一人、男にそう耳打ちした。
 兵士の目にも男と同じような軽蔑があり、きっと他の兵士たちも似たようなことを考えているのだろう。


(聖女の愁いを晴らす……?)


 追い出される前のやり取りと照らし合わせて、私はやっとこれも夢野の仕業だと気付いた。あの女はどうやら、追放だけでは満足できなかったらしい。

 すうっと頭が冷える。
 ……追放だけではなく、まさか私を殺そうとするとは思わなかった。嫌がらせされていたとはいえ、私たちは、曲がりなりにも同級生だったのに。
 

「聖女様はお優しいから貴様は追放で済んだのだ!しかし、まだお前の復讐を恐れて震えている!お可哀そうに……だから、殿下と同じく俺らも貴様を許せない!」


 切羽詰まった絶望感が、怒りから殺意に変わる。


(復讐されるようなことをしている自覚はあるんだ)


 復讐が恐ろしいなら、ここまでしなければよかったじゃない。
 ただ私のことを放っておいてくれれば、私は夢野が何しようと邪魔しないのに。


「恥知らずの罪人め!聖女様に償うために死ね!」


 そう叫んだ金髪の男は、高らかに剣を振り上げる。

 死にたくない。
 このままでは、私は本当に夢野の望み通りの踏み台だ。冗談じゃない。そんなのは絶対に嫌だ。復讐してやる。今までの分も全部!


(こんなところで死んでやるものか!)


 そう強く思った瞬間、地鳴りのような何かの鳴き声が辺りに響いた。

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