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第五章 おもい
49.戦いの結末
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颯馬くんが身をひねるのと、葵さんが水の弾幕から飛び出したの同時だった。
水で視界が遮られていた葵さんの狙いは大雑把で、颯馬くんは小さな動きで避ける。逆に全力で突進していた葵さんは、標的をはずしたことで大きくバランスを崩した。
颯馬くんはその隙を見逃さず、振り返りざまに葵さんの手首を叩いてナイフは落とす。そしてそのまま葵さんの腕をつかむと、警察のように手際よく後ろにまとめて抑える。
「ソウ!大丈夫か!?」
すぐに寄木細工を回収した桜二くんが颯馬くんのそばまで来て、葵さんの前にあったナイフを蹴り飛ばした。
葵さんはまだ抵抗しているようだが、ろくに身動きが取れていないようだ。
『ありがとう、きれいな目の子。本当にありがとう。仲間たちを守ってくれてありがとう』
「ううん、力になれてよかったよ」
金色の鳥にお礼を言って、私は眼鏡をかけた。これでお別れだと考えると寂しかったが、付喪神と笑ってさよならするのは初めてだと思い出す。そう考えると悪くないような気がして、知らず知らず口角が上がる。
(うう、久しぶりに目をいっぱい使ったから頭が痛いかも……)
でもそれより、颯馬くんたちが心配だった。
私は急いで正門に回ると、そこには警備員に引き渡されようとしている葵さんの姿があった。
アキくんもその近くで立っていたので、きっと警備員に連絡してくれたのだろう。ナイスタイミングである。
「雪乃!やっぱりさっきの声は気のせいじゃなかったんだな!」
「いくら何でも早すぎると思ったら、ユキが消防システムを起動してくれたんだね」
学校ですれ違ったような軽い調子で声をかけてきた二人は、案の定全身びしょ濡れだった。
だけど二人ともそれすら様になっていて、むしろ夕日を反射させてキラキラ輝いている。なんだかすごくまぶしく感じられて、私は目を細めて二人を見つめた。
「その制服、月曜までに乾く?」
ブレザーを脱いで雑巾しぼりをしている颯馬くんたちにアキくんが尋ねる。
二人は絞っても絞っても水が出てくるブレザーをじっと見つめると、同時に笑い出した。
「無理だな」
「無理だね」
(そんな絞り方したら、たとえ乾いたとしてもヨレヨレになってるよ……)
でもまあ、二人なら制服の一着二着ダメになっても問題なさそう。
ぼんやりと達成感に浸りながらその光景を見つめていると、三人と目が合ってしまった。
みんなはわずかに目を丸くすると、びっくりするくらい優しい笑顔を浮かべた。颯馬くんは太陽のように華やかで、桜二くんは月のように穏やかに。
ひとまず私も笑顔を返せば、二人はさらに笑みを深くした。そしてそれを遮るように、アキくんが私の前に立つ。
「人の幼馴染みに色目を使わないでくれる」
そう言いながら、乱暴にタオルを投げつけた。
「色目なんて使ってないぞ!?」
「お前が一番それを言うな!この天然ゴリラ!」
「そうだそうだ、仕事放り出してイチャつきやがって」
私はさっと三人から目をそらした。桜二くん、あの時聞いてたのか!
髪を拭きながら野次を飛ばす桜二くんに、アキくんは可燃ごみを見るような視線を送った。
「ぼく、白鳥が喧嘩売ってきたの忘れないからね」
「敵に塩送ってやったのに!?」
「余計なお世話!その塩はいつか馬に蹴られたお前の傷口に塗り込んでやるから」
早くこの話題から離れてほしい。
そう思いながら、私は太陽が沈んでいくのを眺めた。なんであれ、これで全部終わったんだ。
(私の目、ちゃんと役に立てたかな)
たった数日で、この力に対する考え方がずいぶんと変わった気がする。
この間まで、もう二度と使いたくないって思っていた。誰にも一生理解されることなく、一人で抱えていくものだとふさぎ込んでいた。
(でも颯馬くんたちのおかげで、これは異常じゃなくて私の特性だって思えるようになった)
今でもまだ誰構わずに言いふらすつもりはないけど、こんな風に誰かを助けられるのなら、付喪神が見えるのも悪くない。
それによく考えたら、物と話せるってすごいことじゃない?
そうホクホクしながら屋敷に入ったけど、私たちが無理をしたのは残念ながら事実で。
ピッキングやらハッキングはバレなかったけど、私たちは警備員や颯馬くんの両親に盛大に怒られたのだった。
水で視界が遮られていた葵さんの狙いは大雑把で、颯馬くんは小さな動きで避ける。逆に全力で突進していた葵さんは、標的をはずしたことで大きくバランスを崩した。
颯馬くんはその隙を見逃さず、振り返りざまに葵さんの手首を叩いてナイフは落とす。そしてそのまま葵さんの腕をつかむと、警察のように手際よく後ろにまとめて抑える。
「ソウ!大丈夫か!?」
すぐに寄木細工を回収した桜二くんが颯馬くんのそばまで来て、葵さんの前にあったナイフを蹴り飛ばした。
葵さんはまだ抵抗しているようだが、ろくに身動きが取れていないようだ。
『ありがとう、きれいな目の子。本当にありがとう。仲間たちを守ってくれてありがとう』
「ううん、力になれてよかったよ」
金色の鳥にお礼を言って、私は眼鏡をかけた。これでお別れだと考えると寂しかったが、付喪神と笑ってさよならするのは初めてだと思い出す。そう考えると悪くないような気がして、知らず知らず口角が上がる。
(うう、久しぶりに目をいっぱい使ったから頭が痛いかも……)
でもそれより、颯馬くんたちが心配だった。
私は急いで正門に回ると、そこには警備員に引き渡されようとしている葵さんの姿があった。
アキくんもその近くで立っていたので、きっと警備員に連絡してくれたのだろう。ナイスタイミングである。
「雪乃!やっぱりさっきの声は気のせいじゃなかったんだな!」
「いくら何でも早すぎると思ったら、ユキが消防システムを起動してくれたんだね」
学校ですれ違ったような軽い調子で声をかけてきた二人は、案の定全身びしょ濡れだった。
だけど二人ともそれすら様になっていて、むしろ夕日を反射させてキラキラ輝いている。なんだかすごくまぶしく感じられて、私は目を細めて二人を見つめた。
「その制服、月曜までに乾く?」
ブレザーを脱いで雑巾しぼりをしている颯馬くんたちにアキくんが尋ねる。
二人は絞っても絞っても水が出てくるブレザーをじっと見つめると、同時に笑い出した。
「無理だな」
「無理だね」
(そんな絞り方したら、たとえ乾いたとしてもヨレヨレになってるよ……)
でもまあ、二人なら制服の一着二着ダメになっても問題なさそう。
ぼんやりと達成感に浸りながらその光景を見つめていると、三人と目が合ってしまった。
みんなはわずかに目を丸くすると、びっくりするくらい優しい笑顔を浮かべた。颯馬くんは太陽のように華やかで、桜二くんは月のように穏やかに。
ひとまず私も笑顔を返せば、二人はさらに笑みを深くした。そしてそれを遮るように、アキくんが私の前に立つ。
「人の幼馴染みに色目を使わないでくれる」
そう言いながら、乱暴にタオルを投げつけた。
「色目なんて使ってないぞ!?」
「お前が一番それを言うな!この天然ゴリラ!」
「そうだそうだ、仕事放り出してイチャつきやがって」
私はさっと三人から目をそらした。桜二くん、あの時聞いてたのか!
髪を拭きながら野次を飛ばす桜二くんに、アキくんは可燃ごみを見るような視線を送った。
「ぼく、白鳥が喧嘩売ってきたの忘れないからね」
「敵に塩送ってやったのに!?」
「余計なお世話!その塩はいつか馬に蹴られたお前の傷口に塗り込んでやるから」
早くこの話題から離れてほしい。
そう思いながら、私は太陽が沈んでいくのを眺めた。なんであれ、これで全部終わったんだ。
(私の目、ちゃんと役に立てたかな)
たった数日で、この力に対する考え方がずいぶんと変わった気がする。
この間まで、もう二度と使いたくないって思っていた。誰にも一生理解されることなく、一人で抱えていくものだとふさぎ込んでいた。
(でも颯馬くんたちのおかげで、これは異常じゃなくて私の特性だって思えるようになった)
今でもまだ誰構わずに言いふらすつもりはないけど、こんな風に誰かを助けられるのなら、付喪神が見えるのも悪くない。
それによく考えたら、物と話せるってすごいことじゃない?
そうホクホクしながら屋敷に入ったけど、私たちが無理をしたのは残念ながら事実で。
ピッキングやらハッキングはバレなかったけど、私たちは警備員や颯馬くんの両親に盛大に怒られたのだった。
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