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第四章 犯人を捕らえろ!

40.桜二くんの考え

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 話が脱線しかけたところで、桜二くんは手を叩いて注意を集めた。


「さて、葵さんの情報は読み終わったね?」


 颯馬くんはまだ納得いってない顔で、しぶしぶうなずいた。それを見て桜二くんが話を続けた。


「葵さんは未婚で、金銭的に困っているということでもない。目的は分からないけど、付喪神の話から考えると鍵を知った偶然みたいだね」


 その話に大きく頷く。


「これからはオレの考えだけど、他に誰も知らなかったことを確信していた葵さんは、無理して鍵を盗み出すことを考えなかったんだ。万が一失敗したら職を失うからね」
「そこでのんびりチャンスを伺っていたら寄木細工が消えたんだな」
「葵さんはきっと千代さんが無くくなった後に持ち出そうって考えたはず。でも予想外なことが二つ起きた」
「鍵の捜査に力が入っていることと、俺が必死に寄木細工を探していることだな」
「うん。そのおかげで、葵さんが動けるのはオレたちが学校に行っている間だけ。自分の仕事もあるはずだから、満足に探せなかったにちがいない。そうじゃないと、さっきみたいな迂闊な行動はしなかったはずだ」


 私はうなずいた。葵さんは今かなり焦っているはず。
 だって、今の様子じゃ別邸が開いたら多くの人が押し寄せるはずだ。葵さんが侵入して何かするのは厳しいだろう。


「今更諦めきれなかったんだろうな。それにしても、どうして葵さんは俺と一緒に探さなかったんだ。そうすればどうどうと探せるし、俺の頼みっていえば仕事を減らしてもらえたかもしれないのに」
「葵さんは小心者なんだと思う。一条は雇い主の息子だし、あんなに寄木細工を大事にしてるのをみたら……手に入らない可能性を捨てきれなかったんじゃない?」


 これは私たちじゃ分からない問題なので、話は一旦ここで終わった。
 桜二くんはパソコンをしまって、声のボリュームを落とす。


「ここからが本題だ。さっきオレがさんざん煽っといたから、葵さん今頃鍵を見つけようと躍起になっていると思う」
「鍵が開いたら独り占め出来なくなるからね」
「それだけじゃない。新しく鍵を取り換えられたら、今度は夫人が管理することになる」
「あー、夫人は管理が厳しいって言ってもんね」


 颯馬くんが深く頷いた。身内ですら難しいと思うんだから、確かに盗みに入る隙はなさそうだ。
 つまり葵さんにとって、今が最後のチャンスってことか。


「それでだ。オレにいい考えがある」


 桜二くんはそう言うと、アキくんの前に寄木細工を置いた。


「アキ、これにそっくりな物を作れって言われたらどれくらいかかる?」
「再現度はどれくらい?仕掛けも完璧に再現するってなると、一週間は掛かるよ」


 アキくんは寄木細工を手に取って、くるくる回したり仕掛けをいじる。


「見た目だけ似せればいいよ。なんなら中身は作らなくてもいい」
「うーん、じゃあ1時間くらいかな」
「30分か。材料は揃えるから今すぐ作業に入ってくれ」
「勝手に半分にしないでくれる!?」
「どうせ余裕みて言ってるでしょ」


 アキくんが抗議の声を上げるが、桜二くんは当然のように無視した。本気で寄木細工の偽物を作るつもりだろうか。


「桜二、代わりを用意してどうするんだ?中身がなかったらすぐにバレるぞ」
「一瞬本物だと思わせて注意を惹き付けられれば十分だよ」
「まあ、その程度なら」


 納得できるラインを見つけたアキくんは、持ってきていたボストンバッグを漁り始めた。新聞紙を広げて、その上に絵具や筆、それからやすりなどをおいていく。


「まさか、適当に入れた角材の端っこが役に立つとはねぇ。あ、持ってきたものだけでこと足りそう」
「何を想定して角材を入れたんだ……?」


 颯馬くんは不可解そうに新聞紙の上に置かれた角材をみた。角材は寄木細工より一回り程大きかったが、アキくんの手にかかれば問題はないだろう。


「よし。アキが作業している間に、オレたちは千代さんの蔵に行こう」
「は、蔵?」


 颯馬くんは困りながらも、早足で部屋を出ていった桜二くんの後を追いかけた。
 アキくんを1人にしていいのかと迷ったが、ここにいても私にできることは無い。それなら、素直に桜二くんたちを追いかけた方がいいだろう。


「アキくん、行ってくるね」


 すでに作業に入って集中モードになってるアキくんに私の声は届いていないだろうが、それでも声をかけておく。
 そして颯馬くんたちを見失わないうちに、私も部屋を出た。
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