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第三章 物と付喪神
31.特技の実践
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遠巻きに私たちを見る付喪神を視界の端に入れつつ、私は目の前の扉を見上げた。
大広間の右側、椿の間がある方は洋風な造りになっている。椿の間も洋風な部屋で、木製の大きな観音開きな扉が私たちの侵入を拒んでいる。
金色のドアハンドルには椿の花が彫られていて、その下には同じく椿の花を象った赤い鍵穴があった。
「あんなに持ち上げていたからどんな鍵かと思えば、典型的な中世のウォード錠じゃん」
さっそく鍵穴を覗き込んだアキくんがつまらなさそうに言う。
「ここはもとは客室だからな。今は物置になっているから、貴重品はほとんどないんだ」
「そうはいっても、普通のウォード錠よりめんどくさいよ、それ」
「……そうなのか?」
自分の家の鍵事情に詳しい桜二くんに、颯馬くんは怪訝そうに返す。それに気づかず、桜二くんはなんてないことのようにじっと鍵穴を見つめいている。
「ウォード錠ってすごく古い鍵だから、今じゃ装飾くらいにしかならないんだよ。昔、オレも開けられないかなーって試したことがあるんだよ」
「試したのか、ピッキングを。人の家で」
「まあ、失敗したけどね。残念」
「桜二、幼馴染みに家をピッキングされた俺に何か言うことはないか?」
かわいそう。
でも桜二くんは全く悪びれた風もなく笑った。
「いいじゃん、結局失敗してるんだから」
「何もよくないが?お前はもう少しこういう行為に罪悪感を――」
ガチャ。
鍵穴から響いた音が、颯馬くんの言葉をさえぎった。
小さい頃からさんざんアキくんの鍵開けに付き合ってきた私には聞きなれた開錠の音だが、颯馬くんたちは何が起きたかわかってないようだ。
「開いたよ」
「えっ、は……?」
「一分も経ってないんだけど……?」
恐る恐るといったように、桜二くんが扉を押した。ギィという音立てて、扉がすんなり開く。
「本当に開いてる……」
特注品の古式ウォード錠が敗北した瞬間である。
「くそ、手元見てればよかった。さすが技術顧問だね」
「それはアンタが勝手に任命したんだよ書記兼経営顧問くん」
「今回ばかりは助かったが……その、お前は泥棒に向いてるんだな……?」
「颯馬くん、それは褒めてないよ」
いまだに混乱しているのか、普通の人ならまず喜ばない事を疑問形で口にした。そんなことには目もくれず、アキくんは堂々と部屋の中に入っていった。
「おお、壁紙が赤い。物置のわりに綺麗に片付いてるね」
椿を意識しているのか、部屋は全体的に赤を意識している。華やかな雰囲気が印象に残る部屋だ。
定期的に掃除されているのか、今すぐ寝泊りできるほどに清潔感がある。
「はあ……右奥のタンス、三番目の鍵付きだったな」
戸惑いながらもひとまず探し物に集中することにした颯馬くんは、金色の鳥が言っていたタンスを探し始めた。
「あ、あれじゃないかな」
「他に鍵ついてるタンスはないし、たぶんそうだと思う」
私たちの視線が再びアキくんに集まる。
すぐにその意味を理解したアキくんは、得意げな笑みを浮かべた。
「うん、任せてよ」
鍵穴を覗き込みながら、アキくんは手元の針金の形を変えていく。
その時間はわずか数秒。顔を上げたアキくんはなんのためらいもなく針金を鍵穴に入れる。そして上下左右に四度度動かしたと思えば、ちょうど五度目にカチャと子気味いい音がした。
「開けるよ」
今度は誰も驚かなかった。
息をのんで見守る中、当たり前のようにタンスは開かれた。中に入っていたのはキレイな着物だ。
紺色だと思っていた生地は、近寄りがたいほどの高貴さをもたらす濃紺。暗い印象にならないのは、淡い金糸や藤色などの淡い色で大小さまざまな椿の刺繍が施されているからだろう。
「あっ!この着物、千代さんのだよね?桜二くんが見せてくれた写真で着ていたのと似ている気がする」
大広間の右側、椿の間がある方は洋風な造りになっている。椿の間も洋風な部屋で、木製の大きな観音開きな扉が私たちの侵入を拒んでいる。
金色のドアハンドルには椿の花が彫られていて、その下には同じく椿の花を象った赤い鍵穴があった。
「あんなに持ち上げていたからどんな鍵かと思えば、典型的な中世のウォード錠じゃん」
さっそく鍵穴を覗き込んだアキくんがつまらなさそうに言う。
「ここはもとは客室だからな。今は物置になっているから、貴重品はほとんどないんだ」
「そうはいっても、普通のウォード錠よりめんどくさいよ、それ」
「……そうなのか?」
自分の家の鍵事情に詳しい桜二くんに、颯馬くんは怪訝そうに返す。それに気づかず、桜二くんはなんてないことのようにじっと鍵穴を見つめいている。
「ウォード錠ってすごく古い鍵だから、今じゃ装飾くらいにしかならないんだよ。昔、オレも開けられないかなーって試したことがあるんだよ」
「試したのか、ピッキングを。人の家で」
「まあ、失敗したけどね。残念」
「桜二、幼馴染みに家をピッキングされた俺に何か言うことはないか?」
かわいそう。
でも桜二くんは全く悪びれた風もなく笑った。
「いいじゃん、結局失敗してるんだから」
「何もよくないが?お前はもう少しこういう行為に罪悪感を――」
ガチャ。
鍵穴から響いた音が、颯馬くんの言葉をさえぎった。
小さい頃からさんざんアキくんの鍵開けに付き合ってきた私には聞きなれた開錠の音だが、颯馬くんたちは何が起きたかわかってないようだ。
「開いたよ」
「えっ、は……?」
「一分も経ってないんだけど……?」
恐る恐るといったように、桜二くんが扉を押した。ギィという音立てて、扉がすんなり開く。
「本当に開いてる……」
特注品の古式ウォード錠が敗北した瞬間である。
「くそ、手元見てればよかった。さすが技術顧問だね」
「それはアンタが勝手に任命したんだよ書記兼経営顧問くん」
「今回ばかりは助かったが……その、お前は泥棒に向いてるんだな……?」
「颯馬くん、それは褒めてないよ」
いまだに混乱しているのか、普通の人ならまず喜ばない事を疑問形で口にした。そんなことには目もくれず、アキくんは堂々と部屋の中に入っていった。
「おお、壁紙が赤い。物置のわりに綺麗に片付いてるね」
椿を意識しているのか、部屋は全体的に赤を意識している。華やかな雰囲気が印象に残る部屋だ。
定期的に掃除されているのか、今すぐ寝泊りできるほどに清潔感がある。
「はあ……右奥のタンス、三番目の鍵付きだったな」
戸惑いながらもひとまず探し物に集中することにした颯馬くんは、金色の鳥が言っていたタンスを探し始めた。
「あ、あれじゃないかな」
「他に鍵ついてるタンスはないし、たぶんそうだと思う」
私たちの視線が再びアキくんに集まる。
すぐにその意味を理解したアキくんは、得意げな笑みを浮かべた。
「うん、任せてよ」
鍵穴を覗き込みながら、アキくんは手元の針金の形を変えていく。
その時間はわずか数秒。顔を上げたアキくんはなんのためらいもなく針金を鍵穴に入れる。そして上下左右に四度度動かしたと思えば、ちょうど五度目にカチャと子気味いい音がした。
「開けるよ」
今度は誰も驚かなかった。
息をのんで見守る中、当たり前のようにタンスは開かれた。中に入っていたのはキレイな着物だ。
紺色だと思っていた生地は、近寄りがたいほどの高貴さをもたらす濃紺。暗い印象にならないのは、淡い金糸や藤色などの淡い色で大小さまざまな椿の刺繍が施されているからだろう。
「あっ!この着物、千代さんのだよね?桜二くんが見せてくれた写真で着ていたのと似ている気がする」
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