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第三章 物と付喪神

28.聞き取り調査

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 彼らの姿が見えたとたん、たくさんの声が耳に飛び込んでくる。


『やっとその忌々しい目隠しをとってくれた!』
『聞こえる?聞こえる?もう聞こえてるよね?』


 彼らは特に好奇心が強くて弱い子なのだろう。ただ自由に動けることが楽しくて、その命がどれほど得難いかわからない。だからこんなふうに、本体から離れて行動できる。

 今ここいるのは十ほどだが、がこれだけいれば強い付喪神はもっといるだろう。それだけ長い間この家にいるなら、寄木細工をどこかで見ているかもしれない。


「いたか?」


 黙り込んでいる私を心配して、颯馬くんが声をかけてくれた。心なしか少し目が輝いている。


(そうだ、いつもみたいに自己完結しちゃだめだよね。一条くんたちにも分かるようにしなきゃ)


 どう説明すべきか悩んで、私は見たまま話すことにした。


「予想よりいっぱいいるよ。大広間の方から来てる子もいるみたい」


 長い尾を持つ金色の鳥がそうだ。つぶらな瞳でこちらを見上げる姿がかわいい。
 ほかにも絵本に出てくる妖精のような子もいれば、ころころとした小人のような子もいる。


「やっぱりカメラには映らないか」


 スマホを持ったまま、白鳥くんは残念そうにつぶやいた。
 それを横目に、私はひとまず目の前の子たちに声をかけてみる。


「この部屋に住んでいた人のこと、わかる?」
『わかる!わかる!優しくて綺麗な人だった!』
『アタシたちを大切にしてくれていた!』
『でも、ちょっと前に亡くなったのよ』


 きゃらきゃらとまるで子供のように騒がしい声が部屋に広がる。
 ここまで騒がしければこの家の人から苦情が来そうだが、別に止めようとは思わない。この声は私にしか聞こえないからだ。小学生のころはそれがちょっと苦手だったけど、今はとても心強かった。


「その人、千代さんが一番大切にしていた物があったんだけど、見覚えある?」


 金色の鳥に尋ねる。子供のような会話の中で、一番はっきりとした物言いをしていた子だ。


『ええ、寄木細工でしょう?彼女、いつも肌身離さず持っていたから、置物である私もよく見かけたわ』
「!本当!?その寄木細工が見つからないみたいなの。どこかで見かけたりしないかな」


 颯馬くんたちが息をのんだ。
 期待を込めて金色の鳥を見つめるけど、帰ってきたのは申し訳なさそうな言葉だった。


『ごめんなさい、きれいな目をした子。私は鳥の姿をしているけれど、飛べるようになったのは最近よ。大広間の外にはあんまり詳しくないの』
「雪乃、付喪神はなんて?」


 金色の鳥の言葉をそのまま伝えると、颯馬くんは少し悲しそうな顔をした。でもそれは一瞬で、すぐにいつもの朗らかな笑顔に戻り。


「まだ最初だしな!付喪神も、ありがとう」


 私が見ていたところに向かってお礼を言った。金色の鳥はじっとそれを見つめたかと思うと、ふわりと飛び立った。


『椿の間に行って。右奥のタンス、三番目の鍵付きの中に仲間がいる。彼女ほどの古株なら、きっと力になれるはずよ』
「えっ!?あ、ありがとう!」


 金色の鳥はどれだけいうと、今更鳥のように鳴いた。ピイ、ときれいな声が響き、騒いでいた他の付喪神はぴたりと静かになる。そして名残惜しそうに私を見上げるが、金色の鳥の後に続いてぞろぞろと部屋から出て行った。


(持ち主の家族だから、特別な思い入れがあるのかもね)


 どうやら力になってくれそうな古い付喪神の居場所を教えてくれたらしい。私は教えてもらったことをそのまま颯馬くんに伝えた。


「椿の間か。確かにひいばあちゃんがよく使ってた部屋だが……」
「だが?」
「その、鍵がかかっているんだ。部屋の鍵は母さんが持ってて、今日家にいないんだ」


 本日何度目かの申し訳なさそうな表情に対して、アキくんは不敵な笑みを浮かべた。


「鍵のことなら任せて。実はぼく、隠してることがあるんだよね~」
「このタイミングで言うことなの?」
「ふふふ。ぼくってね、ピッキングが得意なんだ」
「「…………は?」」


 数秒の沈黙の後。
 颯馬くんと白鳥くんは、まったく同じタイミングで間抜けた声を出した。

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