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第一章 初めての依頼
15.颯馬くんの悩み
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「ちょっ、一条くん!?」
「一条!?」
顔をあげた颯馬くんは、真剣な目をしていた。
「骨董品のことで、七瀬に頼みたいことがあるんだ」
「……内容を、聞いてもいいですか?」
その真髄な態度に、私は話を聞いてみたいと思った。放っておけなかったと言ってもいいのかもしれない。
「変な話だと、思う。だけど、信頼できて頼れるやつは七瀬だけなんだ」
今まで自信にあふれていた颯馬くんが少し言いよどんだ。
「半年前、ひいばあちゃんが亡くなったんだ」
「それは……」
「ああ、気を使わなくてもいい。うちではもう遺品整理も片が付き始めたくらいだ」
明るい声だったが、颯馬くんの目に影が落ちた。
まだ気持ちに整理がついていないのは明らかだったけど、気遣いを無駄にしたくない。
「ちなみに、ユキが取り返したツボも遺品だったんだよ。千代さん……ソウのひいおばあちゃんね、骨董品とかたくさん持ってたんだ。一条は古い華族だったからさ、千代さんのコレクションには価値ある物が結構多いみたい」
「ずっと蔵で眠らせるのはもったいないって、一部寄贈することになったんだ。……まさかあんな事件が起こるとは思わなかったが」
そう聞いて、思わず興味を惹かれてしまった。なんだって骨董品の話である。私のおばあちゃんも同じいろいろ集めていたけど、きっと規模が違うのだろう。
「まあ、それは七瀬が解決してくれたからいいんだ。俺たちを悩ませているのは、ひいばあちゃんが一番大切にしていた寄木細工が無くなったことなんだ」
「寄贈された、ってわけじゃないんだよね?」
「あぁ、寄贈品リストにはなかった。使用人たちもひいばあちゃんが亡くなってから見てないっていうし……」
当たり前のように使用人がいるって、やっぱり住む世界が違うんだな。
でも、それだけなら盗まれた可能性も考えられるけど……。
「ひいばあちゃんは、ひいじいちゃんに初めてもらったプレゼントだからって大事にしてたが、寄木細工自体は別に貴重なものじゃないんだ。うちの者ならみんな知ってる事だし、盗むにしたって、他の物を置いて寄木細工だけを盗るとは思えない」
「でも、それだけ大事にされてたんならお家の人が探してるんじゃない?」
颯馬くんは沈痛な表情で首を振った。
「最初は父さんたちも真剣に探してたさ。でもいつまでも見つからないから、ひいばあちゃんが自分で処分したんじゃないかって話になったんだ。父さんたちは忙しいってそうそうに諦めたし、今じゃ俺以外誰も探してないよ」
「大切にしてたんなら、ありえない話じゃないと思うけど」
アキくんの言葉に、私もうなずく。だけど颯馬くんは、それはありえないと否定した。
「寄木細工を俺にくれるって、ひいばあちゃんはいつも言ってたんだ。倒れた後も、それだけはずっと変わってないんだ」
「だから、そんなギリギリで気が変わったとは思えないんだよ。それもソウになんの話も言ってないとか、絶対にありえない。……ありえないのに、ソウの両親はそういうこともあるだろって、本気にしてくれないんだ」
嫌なことを思い出したと、白鳥くんはため息をついた。
……でも、その言葉でどこか他人事だった話が急に現実味を帯びてしまった。だって、本当のことを信じてもらえない無力感はよくわかるもの。
「情けない話だが、実は俺もあきらめかけてたんだ。寄木細工がどういうところに保管されてるか見当もつかないし、しらみつぶしに探しても一向に効果はない」
「無駄に敷地が広いのも問題だけど、今は遺品整理で毎日のように物があっちこっちに動かされてるんだ。毎回ゼロからリスタートって感じ」
「あと半年経って一周忌になったら、人の出入りが増えてくる。このままだと、いつか本当に盗まれるかもしれないって思ってたんだ」
だけど、颯馬くんはぜんぜんあきらめているようには見えなかった。
ふと、人の心の底まで見通すような目が私に向けられる。
「でも、俺は七瀬と出会った。運命だと思ったんだ」
迷子のような表情は消えて、颯馬くんには獲物を前にした獅子のような気迫があった。
息が止まるかと思った。本当に、本心からそう思ってるって分かったから。
「無理はさせないと約束する。だから、どうか頼まれてほしい。もう一度お前の力を――俺に貸してくれ!」
「一条!?」
顔をあげた颯馬くんは、真剣な目をしていた。
「骨董品のことで、七瀬に頼みたいことがあるんだ」
「……内容を、聞いてもいいですか?」
その真髄な態度に、私は話を聞いてみたいと思った。放っておけなかったと言ってもいいのかもしれない。
「変な話だと、思う。だけど、信頼できて頼れるやつは七瀬だけなんだ」
今まで自信にあふれていた颯馬くんが少し言いよどんだ。
「半年前、ひいばあちゃんが亡くなったんだ」
「それは……」
「ああ、気を使わなくてもいい。うちではもう遺品整理も片が付き始めたくらいだ」
明るい声だったが、颯馬くんの目に影が落ちた。
まだ気持ちに整理がついていないのは明らかだったけど、気遣いを無駄にしたくない。
「ちなみに、ユキが取り返したツボも遺品だったんだよ。千代さん……ソウのひいおばあちゃんね、骨董品とかたくさん持ってたんだ。一条は古い華族だったからさ、千代さんのコレクションには価値ある物が結構多いみたい」
「ずっと蔵で眠らせるのはもったいないって、一部寄贈することになったんだ。……まさかあんな事件が起こるとは思わなかったが」
そう聞いて、思わず興味を惹かれてしまった。なんだって骨董品の話である。私のおばあちゃんも同じいろいろ集めていたけど、きっと規模が違うのだろう。
「まあ、それは七瀬が解決してくれたからいいんだ。俺たちを悩ませているのは、ひいばあちゃんが一番大切にしていた寄木細工が無くなったことなんだ」
「寄贈された、ってわけじゃないんだよね?」
「あぁ、寄贈品リストにはなかった。使用人たちもひいばあちゃんが亡くなってから見てないっていうし……」
当たり前のように使用人がいるって、やっぱり住む世界が違うんだな。
でも、それだけなら盗まれた可能性も考えられるけど……。
「ひいばあちゃんは、ひいじいちゃんに初めてもらったプレゼントだからって大事にしてたが、寄木細工自体は別に貴重なものじゃないんだ。うちの者ならみんな知ってる事だし、盗むにしたって、他の物を置いて寄木細工だけを盗るとは思えない」
「でも、それだけ大事にされてたんならお家の人が探してるんじゃない?」
颯馬くんは沈痛な表情で首を振った。
「最初は父さんたちも真剣に探してたさ。でもいつまでも見つからないから、ひいばあちゃんが自分で処分したんじゃないかって話になったんだ。父さんたちは忙しいってそうそうに諦めたし、今じゃ俺以外誰も探してないよ」
「大切にしてたんなら、ありえない話じゃないと思うけど」
アキくんの言葉に、私もうなずく。だけど颯馬くんは、それはありえないと否定した。
「寄木細工を俺にくれるって、ひいばあちゃんはいつも言ってたんだ。倒れた後も、それだけはずっと変わってないんだ」
「だから、そんなギリギリで気が変わったとは思えないんだよ。それもソウになんの話も言ってないとか、絶対にありえない。……ありえないのに、ソウの両親はそういうこともあるだろって、本気にしてくれないんだ」
嫌なことを思い出したと、白鳥くんはため息をついた。
……でも、その言葉でどこか他人事だった話が急に現実味を帯びてしまった。だって、本当のことを信じてもらえない無力感はよくわかるもの。
「情けない話だが、実は俺もあきらめかけてたんだ。寄木細工がどういうところに保管されてるか見当もつかないし、しらみつぶしに探しても一向に効果はない」
「無駄に敷地が広いのも問題だけど、今は遺品整理で毎日のように物があっちこっちに動かされてるんだ。毎回ゼロからリスタートって感じ」
「あと半年経って一周忌になったら、人の出入りが増えてくる。このままだと、いつか本当に盗まれるかもしれないって思ってたんだ」
だけど、颯馬くんはぜんぜんあきらめているようには見えなかった。
ふと、人の心の底まで見通すような目が私に向けられる。
「でも、俺は七瀬と出会った。運命だと思ったんだ」
迷子のような表情は消えて、颯馬くんには獲物を前にした獅子のような気迫があった。
息が止まるかと思った。本当に、本心からそう思ってるって分かったから。
「無理はさせないと約束する。だから、どうか頼まれてほしい。もう一度お前の力を――俺に貸してくれ!」
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