上 下
6 / 52
プロローグ

06.まさかの再会

しおりを挟む
 鑑定士が反省している様子はなかった。
 ここで逃がしてしまえば、きっとまたどこかで嘘をついて骨董品をだまし取るかもしれない。


(今からでも警備員に話した方がいいかな!?あっ、でも今日は採寸で着替えるからスマホ家に置いてきたんだった!)


 しかし焦る私とはうって変わって、颯馬くんに慌てた様子はない。涼しげな顔のまま、そそくさと横を通ろうとした鑑定士の腕をガシッと掴んだ。
 瞬間、男からかみ殺した悲鳴が聞こえる。
 


「その子に謝れ」


 冷たく、怒りを押し殺したような声だった。


(……私のために、怒ってくれた?)


 予想外の展開に、私はただぽかんと立ち尽くすことしかできなかった。鑑定士も同じだったようで、何を言われたか理解できないという目で颯馬くんを見た。
 颯馬くんはそんな鑑定士の反応を気にも止めず、もう一度静かに同じ言葉を繰り返した。


「その子に謝れと言ったんだ。女の子を突き飛ばしておいてそれはないだろ」
「ちょっとぶつかっただけですよ。大騒ぎしただけでッ、痛!?」


 鑑定士の言葉が最後まで続くことはなかった。颯馬くんが手に力を込めたからだ。この距離でも骨がきしむ音が聞こえる。


「わ、悪かった!突き飛ばして悪かったって!もういいだろ、急いでいるんだ」


 鑑定士が痛みに負けて、半ば悲鳴のように謝罪した。しかし当然、それで開放されることは無い。


「それはできない。貴方がやったことは立派な犯罪だ。警察が来るまで、ここに居てもらうぞ」
「はあ!?ふざけるな!……くそ、どんな馬鹿力だよっ!離せ!」


 鑑定士は必死に腕を振りほどこうとしているが、颯馬くんはびくりともしない。それどころかどんどん力がこもっているようで、さっきのあれでもまだ本気じゃなかったと理解してしまう。……何というか、凄い力だ。


「話は録音したから、逃げても無駄だよ」


 呆気に取られていると、入り口の方が騒がしいことに気が付いた。ついでに聞き覚えのある声が耳に届く。嫌な予感がした。


「おじさん、もう観念したら?そのゴリラは掴んだら離さないよ」
「おい桜二、誰がゴリラだ!」

(うわっ、やっぱりさっきの金髪の子だ)


 友達にも王子って呼ばれてるんだ、……って、あれ?もしかして、二人とも英蘭学園の生徒!?
 頭が一気に冷えて、恐ろしい事実に小さく震えた。もう会わないと思ったからどうどうと力を使ったのに、まさかの同級生だったなんて。


「それに、逃げたらもっと罪が重くなるんじゃない?ねえ、警備員さん」


 一人青くなる私をよそに、事件はトントン拍子に進んでいく。オウジサマがにこやかに入り口の方を見ると、ちょうど警備員さんが四人ほど入ってきた。
 彼らは何も言わずに抵抗をやめた男を引き受けると、小さく解釈を残してそのままどこかに連れていった。それを見届けると、オウジサマが親し気に颯馬くんに近づく。


「いいモノ見せてもらったよ。運が良かったね」
「見てないで早く助けてくれ……」
「仕方ないでしょ。証拠はあるに越したことないんだから」


 その気の置けないやり取りに、二人が友達なのは間違いないだろう。つまりオウジサマが気付いてしまったら、高確率で私が英蘭に通うことがバレてしまうということだ。


(よし、逃げよう)


 二人が会話しているのをいいことに、私はそっと入り口に近づいていく。


「ああ、それは本当に助かった。今面倒事を持ち帰るわけにはいかないからな」
「それなら、もう一人の功労者にもお礼を言わないと」


 まずい、私に意識が向いてる!とっさに頭を下げれば、目を丸くしている小人と目が合う。
 最後まで見届けられなくてごめんね!でも今度は私のピンチだから許して!


「ごめんなさい!私、急いでて!」
「え、せめてお礼をさせてくれって、もう居ない……」
「あれ、彼女……」


 何か言われる前に、私は彼らに背を向けて走り出す。目のことがバレたら、また小学校のときみたい浮いちゃう。

 幸い眼鏡をかけている姿は見られていないし、向こうは私が英蘭に通うことも知らない。絶対に目立たないようにしなきゃ!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

へいこう日誌

神山小夜
児童書・童話
超ド田舎にある姫乃森中学校。 たった三人の同級生、夏希と千秋、冬美は、中学三年生の春を迎えた。 始業式の日、担任から告げられたのは、まさかの閉校!? ドタバタ三人組の、最後の一年間が始まる。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

スペクターズ・ガーデンにようこそ

一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。 そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。 しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。 なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。 改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。

怪談掃除のハナコさん

灰色サレナ
児童書・童話
小学校最後の夏休み……皆が遊びに勉強に全力を注ぐ中。 警察官の両親を持つしっかり者の男の子、小学6年生のユウキはいつでも一緒の幼馴染であるカコを巻き込んで二人は夏休みの自由研究のため、学校の不思議を調べ始める。 学校でも有名なコンビである二人はいつもと変わらずはしゃぎながら自由研究を楽しむ……しかし、すすり泣くプール、踊る人体模型、赤い警備員……長い学校の歴史の裏で形を変える不思議は……何にも関係ないはずの座敷童の家鳴夜音、二次動画配信者として名を馳せる八尺様を巻き込んで、本物の不思議を体験することになった。 学校の担任や校長先生をはじめとする地域の大人が作り上げた創作不思議、今の世に発祥した新しい怪異、それを解明する間にユウキとカコは学校の最後のにして最初の不思議『怪談掃除のハナコさん』へと至る。 学校の不思議を舞台に紡がれるホラーコメディ! この夏の自由研究(読書感想文)にどうですか?

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

イディーラ学園の秘密部

碧猫 
児童書・童話
イディーラ学園には知られていない部活がある。 イディーラ学園はイディンの中で最も生徒数の多い学園。 その学園にはある噂があった。 「学園のどこかに誰も知らない場所があるんだよ。そこへ行った子は帰ってこないの」 学園にある秘密の場所。そこで行われている不思議な活動。

処理中です...