こどくな患者達

赤衣 桃

文字の大きさ
上 下
32 / 39

アンドロイドにも魂②

しおりを挟む
「今の方法を犯人も知っているんだったら、一人は確実に殺せたのでは」
「乱戦になるのを恐れたんだと思う。ニイみたいに不安になってくれれば良いが。逃げ場がないと覚悟を決められたら返り討ちに遭う可能性もある」
 このトリックがばれるとハチも知っている例の件にも考えついてしまうかもしれないとナナが説明を続けた。
 わたしの頭の中には例の件と書かれた記憶がないのでまた忘れてしまったらしい。
 隣の部屋にいたサンも葬式に参加することに賛成してくれた。
 夢世界に向かうため、二階にあるエレベーターに二人ずつ乗ろうと話し合っている時に。
「ロクがわたしの手を繋いでくれていたのはハチの安全を守るためですね。ありがとうございます」
 ようやく気づいたのかと言いたそうな顔のロクに頭を下げた。
 外部犯は存在をしないので犯人はこの中にいる、という不安な気持ちを見抜かれたようで。
「心配するな。犯人も狭いエレベーターの中で戦闘になれば自分も殺されること考えるはずだ」
 ゴウの牽制に誰も目立った反応をしなかった。
 エレベーターはニイとサン、ゴウとナナ、手繋ぎ状態を配慮してロクとわたしの二人ずつで乗る。
 幸いにも八階の夢世界に到着するまでは、なにも起きなかった。



「すでに気づいているとは思うが、葬式は館にいるアンドロイド全員を集めるための建前だ」
 夢世界の数えきれないほどのナノマシンに明るくしてもらい、わたしたちは円形になるように立つ。
 わたしの左にはロク、右にはナナがいる。
「イチの首を斧で切り落とせるような神経のナナが葬式をしようなんて誰も思ってないわよ」
 ナナの向かいに立つニイが苦々しそうに言いつつ赤い舌を伸ばした。
「だけどナナがわたしたちのためにイチの首を切り落としたのは理解できているから、安心しなさい」
「気遣ってもらって助かるが今回の件はどうやってもバッドエンドが確定していてね。たった一人しか生き残れないんだ」
「あんな曖昧な情報を真に受けているの」
「メッセージの裏取りができたというべきかな」
 ナナの真剣な表情を見てか、ニイの顔が強張る。
「メッセージが本当なのかどうかはおいといてさ。肝心な犯人は分かっているのか、それが一番」
「すでに分かっているよ。だから、こうして騙してまで集まってもらったんだ」
「さっそく誰が犯人なのか教えて」
 サンが口を開いたまま動かない。ニイ以外の全員の視線が自分に向いていたことに気づいたらしい。
「なんだよ、ゴウまで。揉めるのは嫌だったんじゃないのか」
 自分の左隣にいるゴウにサンが声を震わせながら近づこうと。
「動くな。最初に言っただろう、葬式がナナの推理が終わるまでは絶対に互いに近づかないとな」
 身の潔白を証明したいなら、なおさらだとゴウがサンを睨みつける。
「犯人と決めつけるんだから証拠があるんだよな」
 両手を上げたサンが、わたしたちの顔を確認していきナナに話しかけていた。
「サンが犯人だという証拠はなかったよ」
 ナナの言葉に面食らっているようでニイが彼女とサンの顔を交互に見た。
「証拠はないのにサンが犯人って、酷くない」
 ニイの台詞を聞いてかサンが笑みを浮かべる。
「ナナがわたしを犯人扱いしているのを聞いてハチはどう思った。正直な感想を教えてくれないか」
 皆の中で一番公平な判断をすると思われたのか、わたしと向かい合わせの位置にいるサンがこちらと目を合わせてきた。
「サン自体が犯人と疑われていれば不憫ですけど、わたしの前のサンなので仕方ないかと」
 ハチが例の件を忘れている可能性がある、不安がなくなったからかナナが胸を撫で下ろすように息を吐き出す。
 ニイもわたしの言葉を理解してないらしくこちらを心配そうな表情で見ている。
「わたしが説明をしても良いんですか、ナナの推理ショーみたいなものなのでは」
「別に構わないよ。犯人を名指しできる権利はハチにしかないしさ」
 名指しの権利をどこで獲得したのかは知らないが扉のトリックとかはナナが話してくれるんだろう。
「前提が間違っていて。ニイの隣のアンドロイドはサンの見た目ですが、本物のサンではありません」
 アンドロイドだからこそできるようなトリック、ではあるが思いついたとしても自ら命を捨てるような行為に違いはない。
 成功したから良かったものの。頭の螺子がいくつか外れてないとまともな神経では到底できない。
「ハルヨシさん、博士はわたしたちを心臓から製作したと言っていたことがあります」
 博士はアンドロイドを作れなかったので、改めて考えてみると犯人に心臓をナイフで狙わせたことと同様にヒントを与えてくれていたのかもしれない。
「わたしたちにも自我があり、それがどの部分から発生をしているのか考えたりしました」
 人間は自分の魂と呼ぶものを脳味噌や心臓にあると信じている風潮があったはずですよね。
 おそらくは一番人間に憧れるニイに確認をした。
「そもそも魂があるのかどうかは分からないけど、ハチの言う通り人間はそんな風に」
 ニイが間違ってダンゴムシを食べたような驚いた顔になっている。
「アンドロイドの魂とでも言っておきましょうか、それはわたしたちの自我みたいなもので」
 わたしたちの心臓の役割までしてくれています。
「もしも、心臓にそれぞれの人格が宿っているのであれば他の誰かのものと交換をした場合」
 トリックがばれないようにばらばらにされた彼女のことを思い出してしまい涙が溢れてくる。
「どんな気持ちでサンの心臓をばらばらにしたの、どんな気持ちでイチの頭を壊したの、どんな気持ちで博士の心臓をナイフで」
「悪いね、ハチ。もう思い出せそうにないや」
 サンの人格が宿っていたであろう心臓を抜き取り自分のものをくっつけたシイが、特に後悔した様子もなく普段と同じような口調で言っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

私と叔父は仲がよくない。

天野純一
ミステリー
運転席に座る叔父、喜重郎を見つめながら、私は思いを馳せる――。 最小限の文字数で最大限に驚きたいあなたへ。 その数、わずか1000字。 若干のグロ注意。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...