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常識は通じない①
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皮肉というべきか分からないけど、博士がわたしたちアンドロイドと違い人間であるのを証明できたのは心臓にナイフが刺さっていて大量の血液が。
「ナイフで刺されたのに笑顔とはな。アンドロイドでも痛いどころじゃないだろうに」
「人間かどうかはグレーだよ。アンドロイド以外の生物なのは確定だと思うけどね」
「他になんの生き物の可能性があるんだ」
「宇宙人とかかな。この館のテクノロジー、夢世界は図書室にあった人間の解明ができている化学では実現不可能な点もあるし」
人間よりも知能が高い存在と言うほうが適切かもしれないとナナが説明を続ける。
「一階の開かない扉も上位の存在的には普通でも、わたしたち下等生物からすれば魔法みたいに思えてしまうと」
「アンドロイドなのに下等生物と呼ばれるのか」
「実際にどんな風に呼ばれているかさておき。おそらく、わたしたちを創造したのは上位の存在」
「じじいのことだろう」
「博士が上位の存在なら身を守る術を用意していても不思議じゃない。抵抗をした様子がないし、初めから」
ちらりとこちらを見て、ナナが口を噤む。
「ナナの仮説が正しかったら、博士はパイプ役ですかね。上位の存在とアンドロイドとの」
「アンドロイドを人間にできるテクノロジーを上位の存在が知っていると考えれば、納得できる部分もあるな」
あくまでも仮説だし、宇宙人や上位の存在なんかを個人的には信じたくないんだがね。提唱したはずのナナが否定するようなことを言う。
「上位の存在かはおいといて、じじいは人間と同じぐらいの強度だったのは確定だよな。心臓をナイフで刺されて死んでいるんだから」
「壊れたんだったら正常な心臓と交換をすれば」
人間も臓器が正常に働かなくなると交換する場合があるとか難しい本で読んだ記憶があったような。
「移植で治ることもあるらしいが提供された部品と適合できるかの運要素もあるんだったっけ」
しゃがみこんで博士を観察していたゴウがナナに呼びかける。
「他人の肉体の一部を無理矢理に組みこむんだし、絶対に噛み合うほうが変な話だからね」
「種族が同じだとしてもですか」
「同じアンドロイドなのに、わたしとゴウとハチの性格がまるで違うみたいなものさ」
いつぞやのニイとナナが根本的に相性が悪いのと似たようなことか。
「ところで本当に上位の存在がいたとしたら壊れた博士を元に戻してくれれば良いのになんて、ハチは考えたり」
「博士が心臓を取り換えても生き返らないことは、わたしでも分かりますよ。イチとシイも同じです」
「壊されてしまったじゃなくてか」
「博士もイチもシイも殺されました。とても残念なことに」
ゴウが悲しげな顔をしたがすぐに切り替えたのか勇ましい表情に戻る。
「ナナ。確認なんだが心臓はアンドロイドにとっても急所だよな」
「外れても一日ぐらい平気らしいが、弱点に違いはない」
どうかしたかい、とナナがゴウに視線を向けた。
「じじいがナイフで刺されたから、なんとなく」
「どうして博士は殺されてしまったんですか。イチやシイとは理由が違うような」
イチとシイは人間になりたい欲求が歪んだ結果でアンドロイドではない博士に手を出したのは違和感がある。
「犯人が念のために殺したんだろう。人間になれるのは一人だけで、じじいがアンドロイドかどうかはグレーだったし」
「だけどナイフで心臓だけを狙ってますよ。アンドロイドだと思っていたなら」
「難しい話は一旦ここまでにして朝飯にしようぜ、腹が減っていると頭の回転が鈍くなる」
いささか強引に話題を変更された気もするけど、朝食がまだなのは事実なので仕方ない。
博士の部屋から食堂へ向かう途中でゴウが動きを止める。
「悪い悪い、じじいの部屋で調べたいことがあるんだった。先に食堂に行っておいてくれ」
ゴウとナナが見つめ合う。言葉を交わしてないのにお互いに伝えたいことは分かっているよ、みたいな顔つきをしていた。
「シスターコンプレックスなわたしとしてはロクと会話したい気分なのさ」
心配そうにゴウを見ていたからか、わたしの頭を撫でる。記憶が消えるリスクもあるのに今は彼女に触られたい気分だった。
「珍しいな、ハチから抱きついてくるなんて」
「本当にロクのところにも行くんですか」
抱きついたままなのでくぐもった声が出ている。ゴウを行かせまいとしているようで両腕の力を強くしている。
「ハチ、苦しいぜ。ロクのところには行くし、簡単にわたしは殺されたりしないぞ」
「だとしても皆で犯人を確保するべきなのでは」
「ナナとハチも好きだからだ」
「アンドロイドに感情はありませんよ」
「わたしは神様に好かれているから類似品を頂いたんだろうな」
寵愛されていて運が良かったとしてもゴウだけが犯人のところに行かなければならない訳じゃない。
「ナナは犯人が分かっているんでしょうか」
「ゴウの推理と全く同じかどうかは微妙だがね」
「だったら一緒に」
「だから、こうするしかないってことだな」
首の辺りに電気が走ったような。目は開いているけど、上下にそれぞれ黒色が広がっていく。
スタンガンかなにかで、意識が飛んだはずなのにゴウとナナの声が聞こえた。
「ナナも犯人は、しかいないと思っていたか」
「目星は全く同じだったようだ、そう考えたということは」
「ハチのついででも良いからロクも、無理な話か。以前にナナが言っていたように」
「まだ可能性がないとは言えない」
「気休めはよせよ、助かるのは確実に一人だけ」
わたしの意識がさらに遠くに移動していく、もしかしたら今のゴウとナナの会話は本当じゃなくて。
妄想や眠っている時に見られる夢の類いかもしれない。わたしの勘違いの可能性と考えるほうが納得できる。
だってその犯人は。
「ナイフで刺されたのに笑顔とはな。アンドロイドでも痛いどころじゃないだろうに」
「人間かどうかはグレーだよ。アンドロイド以外の生物なのは確定だと思うけどね」
「他になんの生き物の可能性があるんだ」
「宇宙人とかかな。この館のテクノロジー、夢世界は図書室にあった人間の解明ができている化学では実現不可能な点もあるし」
人間よりも知能が高い存在と言うほうが適切かもしれないとナナが説明を続ける。
「一階の開かない扉も上位の存在的には普通でも、わたしたち下等生物からすれば魔法みたいに思えてしまうと」
「アンドロイドなのに下等生物と呼ばれるのか」
「実際にどんな風に呼ばれているかさておき。おそらく、わたしたちを創造したのは上位の存在」
「じじいのことだろう」
「博士が上位の存在なら身を守る術を用意していても不思議じゃない。抵抗をした様子がないし、初めから」
ちらりとこちらを見て、ナナが口を噤む。
「ナナの仮説が正しかったら、博士はパイプ役ですかね。上位の存在とアンドロイドとの」
「アンドロイドを人間にできるテクノロジーを上位の存在が知っていると考えれば、納得できる部分もあるな」
あくまでも仮説だし、宇宙人や上位の存在なんかを個人的には信じたくないんだがね。提唱したはずのナナが否定するようなことを言う。
「上位の存在かはおいといて、じじいは人間と同じぐらいの強度だったのは確定だよな。心臓をナイフで刺されて死んでいるんだから」
「壊れたんだったら正常な心臓と交換をすれば」
人間も臓器が正常に働かなくなると交換する場合があるとか難しい本で読んだ記憶があったような。
「移植で治ることもあるらしいが提供された部品と適合できるかの運要素もあるんだったっけ」
しゃがみこんで博士を観察していたゴウがナナに呼びかける。
「他人の肉体の一部を無理矢理に組みこむんだし、絶対に噛み合うほうが変な話だからね」
「種族が同じだとしてもですか」
「同じアンドロイドなのに、わたしとゴウとハチの性格がまるで違うみたいなものさ」
いつぞやのニイとナナが根本的に相性が悪いのと似たようなことか。
「ところで本当に上位の存在がいたとしたら壊れた博士を元に戻してくれれば良いのになんて、ハチは考えたり」
「博士が心臓を取り換えても生き返らないことは、わたしでも分かりますよ。イチとシイも同じです」
「壊されてしまったじゃなくてか」
「博士もイチもシイも殺されました。とても残念なことに」
ゴウが悲しげな顔をしたがすぐに切り替えたのか勇ましい表情に戻る。
「ナナ。確認なんだが心臓はアンドロイドにとっても急所だよな」
「外れても一日ぐらい平気らしいが、弱点に違いはない」
どうかしたかい、とナナがゴウに視線を向けた。
「じじいがナイフで刺されたから、なんとなく」
「どうして博士は殺されてしまったんですか。イチやシイとは理由が違うような」
イチとシイは人間になりたい欲求が歪んだ結果でアンドロイドではない博士に手を出したのは違和感がある。
「犯人が念のために殺したんだろう。人間になれるのは一人だけで、じじいがアンドロイドかどうかはグレーだったし」
「だけどナイフで心臓だけを狙ってますよ。アンドロイドだと思っていたなら」
「難しい話は一旦ここまでにして朝飯にしようぜ、腹が減っていると頭の回転が鈍くなる」
いささか強引に話題を変更された気もするけど、朝食がまだなのは事実なので仕方ない。
博士の部屋から食堂へ向かう途中でゴウが動きを止める。
「悪い悪い、じじいの部屋で調べたいことがあるんだった。先に食堂に行っておいてくれ」
ゴウとナナが見つめ合う。言葉を交わしてないのにお互いに伝えたいことは分かっているよ、みたいな顔つきをしていた。
「シスターコンプレックスなわたしとしてはロクと会話したい気分なのさ」
心配そうにゴウを見ていたからか、わたしの頭を撫でる。記憶が消えるリスクもあるのに今は彼女に触られたい気分だった。
「珍しいな、ハチから抱きついてくるなんて」
「本当にロクのところにも行くんですか」
抱きついたままなのでくぐもった声が出ている。ゴウを行かせまいとしているようで両腕の力を強くしている。
「ハチ、苦しいぜ。ロクのところには行くし、簡単にわたしは殺されたりしないぞ」
「だとしても皆で犯人を確保するべきなのでは」
「ナナとハチも好きだからだ」
「アンドロイドに感情はありませんよ」
「わたしは神様に好かれているから類似品を頂いたんだろうな」
寵愛されていて運が良かったとしてもゴウだけが犯人のところに行かなければならない訳じゃない。
「ナナは犯人が分かっているんでしょうか」
「ゴウの推理と全く同じかどうかは微妙だがね」
「だったら一緒に」
「だから、こうするしかないってことだな」
首の辺りに電気が走ったような。目は開いているけど、上下にそれぞれ黒色が広がっていく。
スタンガンかなにかで、意識が飛んだはずなのにゴウとナナの声が聞こえた。
「ナナも犯人は、しかいないと思っていたか」
「目星は全く同じだったようだ、そう考えたということは」
「ハチのついででも良いからロクも、無理な話か。以前にナナが言っていたように」
「まだ可能性がないとは言えない」
「気休めはよせよ、助かるのは確実に一人だけ」
わたしの意識がさらに遠くに移動していく、もしかしたら今のゴウとナナの会話は本当じゃなくて。
妄想や眠っている時に見られる夢の類いかもしれない。わたしの勘違いの可能性と考えるほうが納得できる。
だってその犯人は。
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