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順番を守ろう①
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廊下の窓の光が青くなっていてか欠伸ばっかり。
いつもなら眠っている時間帯だけど、今はそんな状況ではなかったはず。
うとうとしてしまう。目が覚めるような出来事を思い出さないと。
例えばさっきのフリースペースのこと、とか。
この館のアンドロイドの強度は人間と同じぐらいで、ナナでもイチの首を切れたんだから一番非力なわたしにも。
首のないイチを見せないためか、わたしの視界を両手で遮るニイがナナに罵詈雑言を浴びせている。
ニイの指の隙間から見えるイチは動かなくなったからか首の断面からオイルは漏れていない。
「面白いことを言うね。そもそもわたしたちはアンドロイドなんだから人ですらないよ」
「アンドロイドとか人間とか線引きは関係」
「倫理観についてどれだけ話しても無駄だよ。ニイとわたしは相性が最悪で、平行線だし」
使命感か、ニイは人間の道徳的な話を話し始めている。ナナの態度は分からないがおそらく馬の耳に念仏。
「喧嘩するよりもイチの肉体を部屋に運んであげませんか。ベッドのほうが気持ち良さそうですし」
ばらばらのシイも自分の部屋のベッドの上に散らばっていたはず。左目だけはなかったようだけど。
「ハチの言う通りね、今はそれが一番正しいわ」
などとニイは声を弾ませていて。
「確かにイチの部屋を調べておく必要もあるか」
ナナには変な勘違いをされてしまった。
人間失格らしいナナにはイチを触らせないという謎の理由でニイとわたしだけで彼女の部屋まで運ぶことに。
イチの肉体は重くて運びづらかったので、ナナが持ってきた斧で真っ二つにしましょうと提案したらニイに怒られた。
ナナはわたしなりのブラックジョークと判断したようで腹を抱えている。
結局イチは真っ二つにしないまま部屋まで移動。
ファッションルームのエレベーターは四人までは乗れるのでラッキーだった。耳栓をしても無意味な四階をイチを運びながら通るなんて、考えるだけで頭が痛い。
ニイが推奨する、人間としての正しい行動は効率を無視してでも守らなければならないのだろうか。
イチの肉体を切断するのがやってはいけない行為なのは理解できているつもりだが。
イチの頭部を使って部屋の鍵を開けて、首のない彼女の本体をベッドに寝かせる。安眠できるようにかニイが布団をかけていた。
「めぼしいものはなさそうだね」
「イチは壊されたので犯人じゃないのでは」
「壊されたのは事実だが」
ナナの唇は動いているのに声が聞こえづらい。
ニイがわたしの耳の穴に人差し指を挿入したのが原因みたいだ。
「変なこと聞かない。犯人捜しの前に皆にもイチが殺されたことを教えるのが先でしょう、ハチ」
ニイは、殺されたという部分をわたしに強く言い聞かせている気がした。
「強要はいけないと思うな。言葉のチョイスは個人の自由を尊重するべきだ」
「ハチには誰かさんと違って正しいアンドロイドになってほしいだけよ」
「常識は弁えているつもりなんだけどね」
「犯人を捕まえるためだとしても首を切ろうなんて考える時点で常識外れにもほどがあるわ」
ナナとは分かり合えないとニイも悟ったのか部屋の扉のほうへ移動していく。
部屋を出ていく前に、首のないイチが眠りやすいように電気を消しておいた。
「どうかしたの、ハチ」
イチの部屋の前で立ち止まっているとニイが後ろから声をかけてきた。
わたしの頭にあったはずの違和感が、ニイの一言でどこかに消えてしまった。よく調べると、さようならと置き手紙があった。
「ニイとナナが喧嘩していた理由はなんでしたか」
「人間としての常識や道徳」
常識という言葉が脳味噌のフックに引っかかる。でも忘れるんだから大事じゃなかったんだと思う。
イチの部屋の扉のドアノブを握って動かす。鍵はきちんとかかっていた。
ニイとナナとわたしはイチの部屋を出て、ゴウと遭遇をした。ファッションルームでの出来事を説明するために一階の南側にあるフリースペースへ。
「犯人捜しも重要だが、ハチがいる状況であの二人が喧嘩するとはな」
壊されたイチを悲しむよりも、ゴウは仲間割れを危惧しているのだろう。
「原因は音楽と同じで、常識の方向性の違いだったかと。ゴウのパワーで仲直りさせられませんか」
「わたしにも無理だ。お互いの性格の話っぽいし。ハチ的に言うなら、カニとフルーツを一緒に食べるような感じ」
食い合わせが悪いんだとゴウが補足してくれる。
「心配しなくても、わたしたちは喧嘩してないよ」
斧をシイの部屋に戻してきたナナがゴウとわたしが使っている白い丸テーブルに近づく。
「気を遣わせて、ないな。この状況でもエビフライを食べられるハチの精神は開かない扉よりも頑丈なようだね」
わたしが夕食のエビフライをお腹の中に運ぶ間、ゴウとナナが情報を共有していた。
「シイの件が正当防衛の可能性はなくなったことになるのか」
「微妙だね。正当防衛だからこそ罪悪感を払拭するために残りのメンバーを殺すという場合も」
「そんな思考、ナナ以外にするほうが可能性は低いんじゃないかしら」
開かない扉の近くの壁に凭れかかったニイがナナを睨みつける。
「わたしはとやかく言うつもりはないが年功序列的にナナの考えに対して寛容になるべきなんじゃないのか、普段のニイなら簡単にできるはずだぜ」
それにナナも目的があったからこそ、イチの首を切り落としたんだしとゴウがナナを見上げた。
「イチの死因を調べるために首を切ったんだ。説明不足だったね、悪かったよ」
ニイからの返事はなかった。
「死因は頭痛なのでは、髪の毛をかきむしるようなポーズでしたから」
「頭痛が意図的か、偶然か気になっているんだ」
ナナが遠回しな言い方をするので首が曲がる。
「いつぞやイチは頭電話をされた時に痛みがあると言っていたから病気なのか、機械なんかを使っての犯行のどちらかだと考えているのかナナは」
シイが壊された日にナナから頭電話をされたけどイチが注意していたほどの痛みではなかったっけ、そういえば。
いつもなら眠っている時間帯だけど、今はそんな状況ではなかったはず。
うとうとしてしまう。目が覚めるような出来事を思い出さないと。
例えばさっきのフリースペースのこと、とか。
この館のアンドロイドの強度は人間と同じぐらいで、ナナでもイチの首を切れたんだから一番非力なわたしにも。
首のないイチを見せないためか、わたしの視界を両手で遮るニイがナナに罵詈雑言を浴びせている。
ニイの指の隙間から見えるイチは動かなくなったからか首の断面からオイルは漏れていない。
「面白いことを言うね。そもそもわたしたちはアンドロイドなんだから人ですらないよ」
「アンドロイドとか人間とか線引きは関係」
「倫理観についてどれだけ話しても無駄だよ。ニイとわたしは相性が最悪で、平行線だし」
使命感か、ニイは人間の道徳的な話を話し始めている。ナナの態度は分からないがおそらく馬の耳に念仏。
「喧嘩するよりもイチの肉体を部屋に運んであげませんか。ベッドのほうが気持ち良さそうですし」
ばらばらのシイも自分の部屋のベッドの上に散らばっていたはず。左目だけはなかったようだけど。
「ハチの言う通りね、今はそれが一番正しいわ」
などとニイは声を弾ませていて。
「確かにイチの部屋を調べておく必要もあるか」
ナナには変な勘違いをされてしまった。
人間失格らしいナナにはイチを触らせないという謎の理由でニイとわたしだけで彼女の部屋まで運ぶことに。
イチの肉体は重くて運びづらかったので、ナナが持ってきた斧で真っ二つにしましょうと提案したらニイに怒られた。
ナナはわたしなりのブラックジョークと判断したようで腹を抱えている。
結局イチは真っ二つにしないまま部屋まで移動。
ファッションルームのエレベーターは四人までは乗れるのでラッキーだった。耳栓をしても無意味な四階をイチを運びながら通るなんて、考えるだけで頭が痛い。
ニイが推奨する、人間としての正しい行動は効率を無視してでも守らなければならないのだろうか。
イチの肉体を切断するのがやってはいけない行為なのは理解できているつもりだが。
イチの頭部を使って部屋の鍵を開けて、首のない彼女の本体をベッドに寝かせる。安眠できるようにかニイが布団をかけていた。
「めぼしいものはなさそうだね」
「イチは壊されたので犯人じゃないのでは」
「壊されたのは事実だが」
ナナの唇は動いているのに声が聞こえづらい。
ニイがわたしの耳の穴に人差し指を挿入したのが原因みたいだ。
「変なこと聞かない。犯人捜しの前に皆にもイチが殺されたことを教えるのが先でしょう、ハチ」
ニイは、殺されたという部分をわたしに強く言い聞かせている気がした。
「強要はいけないと思うな。言葉のチョイスは個人の自由を尊重するべきだ」
「ハチには誰かさんと違って正しいアンドロイドになってほしいだけよ」
「常識は弁えているつもりなんだけどね」
「犯人を捕まえるためだとしても首を切ろうなんて考える時点で常識外れにもほどがあるわ」
ナナとは分かり合えないとニイも悟ったのか部屋の扉のほうへ移動していく。
部屋を出ていく前に、首のないイチが眠りやすいように電気を消しておいた。
「どうかしたの、ハチ」
イチの部屋の前で立ち止まっているとニイが後ろから声をかけてきた。
わたしの頭にあったはずの違和感が、ニイの一言でどこかに消えてしまった。よく調べると、さようならと置き手紙があった。
「ニイとナナが喧嘩していた理由はなんでしたか」
「人間としての常識や道徳」
常識という言葉が脳味噌のフックに引っかかる。でも忘れるんだから大事じゃなかったんだと思う。
イチの部屋の扉のドアノブを握って動かす。鍵はきちんとかかっていた。
ニイとナナとわたしはイチの部屋を出て、ゴウと遭遇をした。ファッションルームでの出来事を説明するために一階の南側にあるフリースペースへ。
「犯人捜しも重要だが、ハチがいる状況であの二人が喧嘩するとはな」
壊されたイチを悲しむよりも、ゴウは仲間割れを危惧しているのだろう。
「原因は音楽と同じで、常識の方向性の違いだったかと。ゴウのパワーで仲直りさせられませんか」
「わたしにも無理だ。お互いの性格の話っぽいし。ハチ的に言うなら、カニとフルーツを一緒に食べるような感じ」
食い合わせが悪いんだとゴウが補足してくれる。
「心配しなくても、わたしたちは喧嘩してないよ」
斧をシイの部屋に戻してきたナナがゴウとわたしが使っている白い丸テーブルに近づく。
「気を遣わせて、ないな。この状況でもエビフライを食べられるハチの精神は開かない扉よりも頑丈なようだね」
わたしが夕食のエビフライをお腹の中に運ぶ間、ゴウとナナが情報を共有していた。
「シイの件が正当防衛の可能性はなくなったことになるのか」
「微妙だね。正当防衛だからこそ罪悪感を払拭するために残りのメンバーを殺すという場合も」
「そんな思考、ナナ以外にするほうが可能性は低いんじゃないかしら」
開かない扉の近くの壁に凭れかかったニイがナナを睨みつける。
「わたしはとやかく言うつもりはないが年功序列的にナナの考えに対して寛容になるべきなんじゃないのか、普段のニイなら簡単にできるはずだぜ」
それにナナも目的があったからこそ、イチの首を切り落としたんだしとゴウがナナを見上げた。
「イチの死因を調べるために首を切ったんだ。説明不足だったね、悪かったよ」
ニイからの返事はなかった。
「死因は頭痛なのでは、髪の毛をかきむしるようなポーズでしたから」
「頭痛が意図的か、偶然か気になっているんだ」
ナナが遠回しな言い方をするので首が曲がる。
「いつぞやイチは頭電話をされた時に痛みがあると言っていたから病気なのか、機械なんかを使っての犯行のどちらかだと考えているのかナナは」
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