8 / 43
電車内のおやじ狩りに注意
第7話
しおりを挟む「どこかへ行きませんか?」
フレンチトーストを食べ終わりヌイと一緒に皿を洗いながらサキはさりげなく提案をしていた。
「ん? いいね。サキちゃんとデートできるなんてうれしいな」
「そ、そうですか」
ここまでストレートに言われるのもなんだか恥ずかしいな。
「悪いけど、デートの前に家に寄ってもいいかな。着替えておきたいし」
「わたしはそのままでもいいですよ」
「サキちゃんにも失礼かと。それに色々と目立ってしまうからね、制服ってさ」
そうかな? 目立ってしまうのはハリヤマさんが女の子みたいな顔をしているからだと思うけど。
でも、かなり筋肉はありそう。胸板もかたかったし、わたしを軽々と抱えていたっぽいし。
「ハリヤマさんは運動部じゃないんですよね?」
「うん。帰宅部。怪物の件もあるし、赤い石のことを調べていたりするからね」
「お姉ちゃんと?」
「いんや、一人だね。エニシは自分の能力のほうに興味がうつったようだし。お姉さんは頭よりも身体を動かすのが得意だし」
洗いものも終わったようでヌイがタオルで両手を拭く。サキも同じようにしていた。
「赤い石のことはなにか分かったんですか?」
「全然。エニシの言うように宇宙人説を採用するとしても目的が分からないからね」
ヌイは伸びをしながら大きくあくびをする。
「仮に赤い石が能力開発用の道具だとしたら地球人で実験をしてみようぜって話になるんだろうけど、宇宙人側にメリットがなさそうだからね」
自分たちの能力以上のものを地球人が手に入れてしまったら本末転倒だし、とヌイは続けた。
「宇宙人がうっかり落としてしまっただけ、という可能性もあるような。そもそも赤い石はどこで見つけたんですか?」
「あー、それが分からないんだよね」
「え?」
ヌイのあっけらかんとした言葉にサキが目を丸くしている。
「気づいたらあったんだよね。でも自分が赤い石をもっていることに違和感がなかったんだ」
「能力?」
「だろうね。怪物の親玉のなかったことにする能力と似てるけど、わざわざ自分から邪魔者をつくろうとはしないでしょう? 特別な能力は独占をしたいはずだし」
「そう……ですよね」
ハリヤマさんが嘘をついている可能性もあるし。他にも便利な能力をつかえる仲間を増やしたいって考えかたもあるような。
昨夜お姉ちゃんはなにもしなくていいって言ってくれていたけど。
「んー、やっぱり疑われてるのかな? お兄さん」
ヌイが目を細めながらサキのほうを見つめる。
自分の意思とは無関係にうなずいてしまったようでサキが驚いた表情をした。
「サキちゃんは自分で思っているより素直な女の子なんだと思うよ」
「顔に書いてあるんですか?」
「書いてあるね。お兄さんを疑ってますよ、それとお姉さんのことが大好き」
ヌイがにやけながら返事をする。
「ハリヤマさんのことも好きですよ」
「ありがとう。お兄さんも大好きだよ」
サキの頭をなでようとしたのかヌイが右手をのばしかけたが気が変わったらしく引っこめていた。
「そろそろサキちゃんって呼びかたも変えたほうが良いかな? 中学生だし子どもっぽい感じだし」
「いえ。わたしはそのままでいいですよ」
さん付けだと……よそよそしい感じだし。どちらかというと自分のことをお兄さんと言うのをやめてほしかったり。
「というか話がすり替わっているような」
リビングに逃げこもうとするヌイのほうをサキがにらんでいる。
「すり替わっているね。でも、お兄さんがどうこう言いわけをしたところで証拠もないから意味がないはずだよ。信じようとしても疑おうとしても」
「そうなんですよね」
だからお姉ちゃんもなにもしなくていいと言ったんだろう。
「でも、サキちゃんのそういう考えかたとか姿勢。すごく良いと思うけどな」
ヌイがキッチンにいるサキの顔を見つめる。
「そっちが本当のサキちゃん?」
「ないしょです」
「そっか」
サキの反応を見てかヌイは笑っていた。
「おまたせ。サキちゃん」
彼の家をながめていたサキに私服に着替えたヌイが話しかける。
「普通の服装ですね」
「秋と冬はこんな感じだと思うよ。女の子だったらもっとおしゃれをしていたと思うけど」
そう言いながらヌイは両手で自分の赤みがかった茶髪をまとめてポニーテールにする。
「似合う?」
「はい。女の子みたいですよ」
「そっか。じゃあ、やめておこう」
「えー」
髪をまとめるのをやめているヌイにサキが抗議の声をあげた。
「今日はサキちゃんとのデートだからね。男らしくしないといけない」
右手をのばすヌイにサキが首を傾げている。しばらくすると、その理由に気づいたようで彼女は顔を真っ赤にした。
おそるおそる……ヌイの右手をサキが左手で握りしめた。想像していたよりもごつごつしていたのか彼女がびくつく。
「へへっ、ちっちゃい頃以来かな。こんな風に手をつないだの?」
「そうですね」
「緊張している?」
サキの左手が震えているらしくヌイが彼女の顔をのぞきこんでいた。
「ハリヤマさんが怪物の親玉かもしれないので」
こういう場面で素直になれたら、もっとかわいげがあるんだろうけど。
「そっか、そうだったね。サキちゃんを悪女にしてしまうかもしれないね」
子どもみたいに笑ったあとヌイは左手でサキの頭をなでるような動作をする。
「さっきの話の続きだけど、お兄さんはサキちゃんに信じてもらう努力をすることにしたよ。だから、今日のデートとかで判断してくれたらいいからね」
「信用してますよ」
「本当かな」
からかうようにヌイが口にしている。
「本当ですよ」
「そっか。それじゃあ信じるよ」
「はい。信じてください」
サキから顔を逸らしてヌイが遠くを見つめた。
「やっぱりサキちゃんは、サキちゃんが思っているより素直な女の子だと思う」
「えと、なにか言いました?」
ヌイの言葉が聞こえなかったのか彼の正面のほうに移動し、その顔をサキが見上げている。
「なんでもないよ」
そう答え、サキの左手をゆっくりと引っぱりつつヌイは歩きだした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん
夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。
のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。
異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。
片翼天使の序奏曲 ~その手の向こうに、君の声
さくら怜音/黒桜
ライト文芸
楽器マニアで「演奏してみた」曲を作るのが好きな少年、相羽勝行。
転入早々、金髪にピアス姿の派手なピアノ少年に出くわす。友だちになりたくて近づくも「友だちなんていらねえ、欲しいのは金だ」と言われて勝行は……。
「じゃあ買うよ、いくら?」
ド貧乏の訳ありヤンキー少年と、転校生のお金持ち優等生。
真逆の二人が共通の趣味・音楽を通じて運命の出会いを果たす。
これはシリーズの主人公・光と勝行が初めて出会い、ロックバンド「WINGS」を結成するまでの物語。中学生編です。
※勝行視点が基本ですが、たまに光視点(光side)が入ります。
※シリーズ本編もあります。作品一覧からどうぞ
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
前世は元気、今世は病弱。それが望んだ人生です!〜新米神様のおまけ転生は心配される人生を望む〜
a.m.
ファンタジー
仕事帰りに友達と近所の中華料理屋さんで食事をしていた佐藤 元気(さとう げんき)は事件に巻き込まれて死んだ。
そんな時、まだ未熟者な神だと名乗る少年に転生の話をもちかけられる。
どのような転生を望むか聞かれた彼は、ながながと気持ちを告白し、『病弱に生まれたい』そう望んだ。
伯爵家の7人目の子供として転生した彼は、社交界ではいつ死んでもおかしくないと噂の病弱ライフをおくる
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる