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電車内のおやじ狩りに注意

第7話

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「どこかへ行きませんか?」
 フレンチトーストを食べ終わりヌイと一緒に皿を洗いながらサキはさりげなく提案をしていた。
「ん? いいね。サキちゃんとデートできるなんてうれしいな」
「そ、そうですか」
 ここまでストレートに言われるのもなんだか恥ずかしいな。
「悪いけど、デートの前に家に寄ってもいいかな。着替えておきたいし」
「わたしはそのままでもいいですよ」
「サキちゃんにも失礼かと。それに色々と目立ってしまうからね、制服ってさ」
 そうかな? 目立ってしまうのはハリヤマさんが女の子みたいな顔をしているからだと思うけど。
 でも、かなり筋肉はありそう。胸板もかたかったし、わたしを軽々と抱えていたっぽいし。
「ハリヤマさんは運動部じゃないんですよね?」
「うん。帰宅部。怪物の件もあるし、赤い石のことを調べていたりするからね」
「お姉ちゃんと?」
「いんや、一人だね。エニシは自分の能力のほうに興味がうつったようだし。お姉さんは頭よりも身体を動かすのが得意だし」
 洗いものも終わったようでヌイがタオルで両手を拭く。サキも同じようにしていた。
「赤い石のことはなにか分かったんですか?」
「全然。エニシの言うように宇宙人説を採用するとしても目的が分からないからね」
 ヌイは伸びをしながら大きくあくびをする。
「仮に赤い石が能力開発用の道具だとしたら地球人で実験をしてみようぜって話になるんだろうけど、宇宙人側にメリットがなさそうだからね」
 自分たちの能力以上のものを地球人が手に入れてしまったら本末転倒だし、とヌイは続けた。
「宇宙人がうっかり落としてしまっただけ、という可能性もあるような。そもそも赤い石はどこで見つけたんですか?」
「あー、それが分からないんだよね」
「え?」
 ヌイのあっけらかんとした言葉にサキが目を丸くしている。
「気づいたらあったんだよね。でも自分が赤い石をもっていることに違和感がなかったんだ」
「能力?」
「だろうね。怪物の親玉のなかったことにする能力と似てるけど、わざわざ自分から邪魔者をつくろうとはしないでしょう? 特別な能力は独占をしたいはずだし」
「そう……ですよね」
 ハリヤマさんが嘘をついている可能性もあるし。他にも便利な能力をつかえる仲間を増やしたいって考えかたもあるような。
 昨夜お姉ちゃんはなにもしなくていいって言ってくれていたけど。
「んー、やっぱり疑われてるのかな? お兄さん」
 ヌイが目を細めながらサキのほうを見つめる。
 自分の意思とは無関係にうなずいてしまったようでサキが驚いた表情をした。
「サキちゃんは自分で思っているより素直な女の子なんだと思うよ」
「顔に書いてあるんですか?」
「書いてあるね。お兄さんを疑ってますよ、それとお姉さんのことが大好き」
 ヌイがにやけながら返事をする。
「ハリヤマさんのことも好きですよ」
「ありがとう。お兄さんも大好きだよ」
 サキの頭をなでようとしたのかヌイが右手をのばしかけたが気が変わったらしく引っこめていた。
「そろそろサキちゃんって呼びかたも変えたほうが良いかな? 中学生だし子どもっぽい感じだし」
「いえ。わたしはそのままでいいですよ」
 さん付けだと……よそよそしい感じだし。どちらかというと自分のことをお兄さんと言うのをやめてほしかったり。
「というか話がすり替わっているような」
 リビングに逃げこもうとするヌイのほうをサキがにらんでいる。
「すり替わっているね。でも、お兄さんがどうこう言いわけをしたところで証拠もないから意味がないはずだよ。信じようとしても疑おうとしても」
「そうなんですよね」
 だからお姉ちゃんもなにもしなくていいと言ったんだろう。
「でも、サキちゃんのそういう考えかたとか姿勢。すごく良いと思うけどな」
 ヌイがキッチンにいるサキの顔を見つめる。
「そっちが本当のサキちゃん?」
「ないしょです」
「そっか」
 サキの反応を見てかヌイは笑っていた。



「おまたせ。サキちゃん」
 彼の家をながめていたサキに私服に着替えたヌイが話しかける。
「普通の服装ですね」
「秋と冬はこんな感じだと思うよ。女の子だったらもっとおしゃれをしていたと思うけど」
 そう言いながらヌイは両手で自分の赤みがかった茶髪をまとめてポニーテールにする。
「似合う?」
「はい。女の子みたいですよ」
「そっか。じゃあ、やめておこう」
「えー」
 髪をまとめるのをやめているヌイにサキが抗議の声をあげた。
「今日はサキちゃんとのデートだからね。男らしくしないといけない」
 右手をのばすヌイにサキが首を傾げている。しばらくすると、その理由に気づいたようで彼女は顔を真っ赤にした。
 おそるおそる……ヌイの右手をサキが左手で握りしめた。想像していたよりもごつごつしていたのか彼女がびくつく。
「へへっ、ちっちゃい頃以来かな。こんな風に手をつないだの?」
「そうですね」
「緊張している?」
 サキの左手が震えているらしくヌイが彼女の顔をのぞきこんでいた。
「ハリヤマさんが怪物の親玉かもしれないので」
 こういう場面で素直になれたら、もっとかわいげがあるんだろうけど。
「そっか、そうだったね。サキちゃんを悪女にしてしまうかもしれないね」
 子どもみたいに笑ったあとヌイは左手でサキの頭をなでるような動作をする。
「さっきの話の続きだけど、お兄さんはサキちゃんに信じてもらう努力をすることにしたよ。だから、今日のデートとかで判断してくれたらいいからね」
「信用してますよ」
「本当かな」
 からかうようにヌイが口にしている。
「本当ですよ」
「そっか。それじゃあ信じるよ」
「はい。信じてください」
 サキから顔を逸らしてヌイが遠くを見つめた。
「やっぱりサキちゃんは、サキちゃんが思っているより素直な女の子だと思う」
「えと、なにか言いました?」
 ヌイの言葉が聞こえなかったのか彼の正面のほうに移動し、その顔をサキが見上げている。
「なんでもないよ」
 そう答え、サキの左手をゆっくりと引っぱりつつヌイは歩きだした。
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