なんか短編集的な

鳩の唐揚げ

文字の大きさ
上 下
3 / 4

痛覚

しおりを挟む
「いっ…たぁぁ…。」

絶対みんな感じたことのある痛みが、僕の足の小指を襲った。

凄く痛い。

でも、僕がぶつけたわけじゃない。
名前も知らない誰かが、箪笥に小指をぶつけたらしい。


僕は最近、不思議な痛みに悩まされている。
その痛みは急にくる。
何もしていないのに、急に包丁で指を切ったかのような痛みに襲われたり、さっきのように足の小指が急に痛くなったり。
時には一週間、得体の知れない腹痛に襲われたこともある。

「もう、勘弁してくれぇ!」

僕は足の小指を抑えながらそう叫んだ。
この痛みはなんだろう。
まるで、誰かと痛覚が繋がったかのような痛み。
凄く不思議な痛み。

最初はこの痛みがなんなのか疑問に思ったが、日が経つにつれて、気にしなくなっていった。

今日は、急に足首が痛くなった。
どうやら、足を挫いたらしい。
かと思いきや、今度は頭が痛くなった。

「…あぁ、こいつ転んだな。」

しかも何もないところで。
だんだんと、相手がどんな行動をしてその痛みを感じているのかわかるようになってきた。
小指を箪笥にぶつけたり、何もないところで転んだり、この人はいわゆるドジっ子というやつなのだろう。
側から見たら可愛らしく見えるのかもしれないが、こちらとしたらやめて頂きたい。
もうちょっと気をつけて生活してほしいものだ。

そして、僕はこの痛みの持ち主が女性だということに気づく。
また、得体の知れない腹痛に襲われた。
きっと、そういうことなのだろう。


不思議な痛みに悩まされるようになってから、数ヶ月後、少し違う痛みを感じた。
胸が締め付けられるような、痛い…いや、苦しい感覚。悲しい感覚。

僕はこの痛みに覚えがあった。
それは高校生の時、片思いだった先輩が卒業していった時に感じた痛みだ。
その時僕は、結局最後まで想いを告げる事が出来なかった。

彼女のその痛みは日に日に強くなっていった。

もう、耐えられなくなっていた。
気づくと僕は、家から飛び出していた。

この痛みは、今彼女が受けている痛み。
これは、心の痛みだ。


最初は急に襲ってくる痛みに、苛立ちしか感じていなかった。
でも、その痛みを感じているうちに、この痛みの持ち主の事が気になるようになっていった。
この覚えのある心の痛みを感じた時、彼女に親近感が湧いたのだ。

そして彼女は僕の中でとても近い存在になった。
だから、この心の痛みが日に日に強くなっていくのを、ただ感じているだけではいられなかった。

僕は、ただひたすらに走った。
街灯が照らす夜の町を走り続けた。
心の痛みが強くなる方向へ。

だんだんと、心の痛みが強くなっていく中、僕は違う痛みに襲われた。
鈍い痛みが、僕の足首に伝わった。

痛い。それでも僕は、走り続けるのをやめなかった。


自然と僕の瞳には涙が溜まっていた。


僕の涙腺が限界を迎えた時、目の前には目を真っ赤にした女性が座り込んでいた。
その女性が履いている靴は、片方のヒールが折れていて、足首が真っ赤に腫れていた。

「やっと、見つけた。」

僕は、無意識にそう呟いていた。
彼女は涙を浮かべたその顔を僕に向けた途端、少し安心したような表情をした。

僕が彼女の痛みを感じていた様に、彼女も僕の痛みを感じていたらしい。

「そっか、君だったんだね。」

そう言ったその女性は、見覚えのある人だった。

何故痛覚が繋がったのか、わかった様な気がした。

今、なのかも知れない。
今言わなければ、またこの気持ちを言えずに終わってしまう。

僕は、勇気を振り絞って。自分の気持ちを告げた。

「高校生の頃から、貴方が好きでした。」

彼女の痛みで流した涙でぐちゃぐちゃになった顔でそういった僕に、彼女は笑みを浮かべながらこう言った。

「それ、今言う?…まぁ、でも、気づいてたよ。ずっと待ってたんだから。」

そして僕たちは、2人で痛みを背負いながら、夜の町を歩いていった。

心の痛みは、だんだんと消えていった。
代わりに暖かな温もりが、僕の心を暖めていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...