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第三章 ギルド結闘編

第51話 拳と拳 vsウェーン

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 親善試合の第三試合が始まった。 
 
 僕の対戦相手の名前は、ウェーンと言うらしい。

 その男は斧を片手に『かかってこい』と言っているかのように挑発をしている。

 その態度からは余裕さえ感じる。その巨大な体からしたら、僕は小さく弱いと思われているのだろう。

 まあ否定はできないけども。あんまり挑発には乗らないようにしないとね。
 
 ウェーンさんはニヤニヤしているだけで、特に何もしてこない。不本意だけど、こちらから動くしかないようだ。

 僕はウェーンさんのステータスを確認する。

 すると、ステータス画面には、職業や、レベルの表記などがなかったのだ。

 名前だけは書いてある。何かのバグかと思い、アイヤさんやトゥビーさんのも確認した。

 だが二人にも名前の表記はあったが、職業などがなかった。

 職業なしでレベルもないってことなのか? 流石に驚きは隠せないが、考えても仕方ない。
 
 ここは、僕らしくはないけど攻めてみようと思い、走り出す。

 すると、ウェーンさんは、持っていた斧を前に突き出して口を開く。

「おっと、これ以上近づくと危ないぜ?」

 その言葉に僕は立ち止まる。ウェーンさんは、手に力を込める。

 すると、黄色で丸い形をした謎の種を生成した。その種を空中に投げると、

「いくぜ! 避けないと怪我するぜ!
 『束縛する植物バインドプラント
』!」

 斧をバットのように扱い、僕に向かって打ち込んできた。

 まるで野球のバッティング練習の光景のようだ。

 その種を避けると、地面に勢いよくぶつかる。

 数秒経つと、その種から鳥籠の形をした植物が生えてきた。
 
 植物で拘束する能力か。厄介な能力だとは思う。

 まあ、当たらなかったらいいだけの話だ。と、思っている内にウェーンさんがこちらに近づいている事に気づいた。

 あれは囮だったのか。脳筋だと思っていたのだけど、意外と頭脳プレイをしてくる。

「おらぁ! 潰れろぉ!」

 振りかざしてきた斧を僕は後ろに下がって避ける。斧は地面に突き刺さった。

 僕はその斧を踏みつけ、抜けないようにした。そして剣脊けんせきの方で、連続で攻撃をおこなった。

「グハッ! なかなか、いい攻撃だな。だが、剣身で攻撃しないと、俺様を倒せんぞ。
 次は俺の攻撃を……うおぉ。お? あれ? 斧が抜けん。チビのくせにどんな脚力をしてやがる」
 
「僕の仲間が舐められっぱなしってのは気分が悪いんでね。少し意地悪させて頂きます。まだまだいきますよ!」

 僕は攻撃を続けた。頭が悪いのか、何かの意地なのか、抜けない斧を引き抜こうとする。
  
 これじゃあ僕がイジメいるみたいじゃないか。

 そして、何度か攻撃をおこなった後、肘打ちを入れた。

「ぐおっ! 俺の筋肉にダメージを与えるとは。やるなぁチビ。
 俺も負けるわけにはいかねぇからよぉ。手加減はしねぇぞぉぉ!!!」

 ウェーンさんは斧から手を放し、雄叫びをあげながら、拳を振りかざしてきた。

 僕はその拳を避けて、ボディにカウンター攻撃をいれた。ウェーンさんも負けじと、僕に殴りかかってくる。

 まるで、ボクシングの格闘技の試合をしている感覚になる。

 負けたくないと強い思いが、僕の中に眠っていた、闘争心が
今、目覚めようとしているようだ。

(楽しい。そして負けたくない。戦うことを楽しめるなんて、こんな感情まだ僕の中にもあったんだ)

 僕とウェーンさんの攻防は数分に亘った。息を切らしながらウェーンさんが口を開く。

「はぁ……はぁ……。こんなに熱くなる殴り合いは久しぶりだ。面白い。ただのチビだと思ったら、意外とガッツあるじゃねぇか。俺は……負けねぇぞぉ!!!」

「僕も負けるわけにはいかない。勝つのはこの僕だ! 決着を付けましょう!」

「望むところだぁぁぁ!!!」

 再び僕たちは、激しい攻防戦に入る。そして今、決着が付こうとしていた。

 ウェーンさんが思いっきり殴りかかってきた瞬間。僕はその拳を流し、蹴りをいれ態勢が崩れたところに、顎にアッパーを入れる。

 ウェーンさんは後ずさり、フラフラしながら、ゆっくりと僕に近づいてくる。

「ま、まだだ……。ここで俺が倒れるわけにはいかない」
「いえ、もう終わりです。今の一撃で……」

 僕が言いかけると、ウェーンさんは倒れてしまった。そして、ドリアード様が近づいてきて言った。

「親善試合第三試合……勝者トワ! そして,二回勝利した、人間族の勝ちよ。エルフの民よ、これで彼らの実力が分かったわね」

 ドリアード様の言葉にトゥビーさんが反応した。

「はい、私は満足ですよ。皆様お疲れ様でした。試すような真似して申し訳ありませんでした」

「いえ、僕も楽しかったですよ。エルフの皆さんもお疲れ様でした。ーーウェーンさん、いい試合をありがとうございました。
 僕にもこんな気持ちが残ってたことを確認できました。ありがとうございました」

 声をかけたが本人は気絶をしているようだ。僕はみんなの元へと歩きだした。

「ギルドマスターー! お疲れ様です! 勝利おめでとうございます!」
「ありがとうございます。ヒロさん、また、ギルドマスター呼びですか。いい加減辞めてくださいよぉ。言われ慣れてないので恥ずかしいんですよ」

「ヒロさんお疲れ様です。いい試合でした」
「ジークさんありがとうございます。なんとか勝ててよかったです」

「いてっ!」

 背中に痛みがはしった。ーーザーハックさんだ。満面の笑みでこちらを見て言った。

「俺たちの勝利だ! 坊主やるじゃねぇか! いいガッツだった! 見ていて楽しかったぞ!」

「ありがとうございます。あと、背中を叩くのはやめて下さいよー。結構痛いんですから」

 ザーハックさんはガッハッハーと高笑いを上げ上機嫌のまま、エルフたちの元へと去っていった。

 みんなから、労いの言葉をもらい、ドリアード様の元へみんなで向かった。

「では、みんなを回復させるわね」

 ドリアード様がそういうと、僕たちを回復してくれた。

 痛みがあった箇所もなんとも、なかったのように回復した。

 だけど、疲れまでは回復しないらしい。まあ僕はまだまだ動けるけども。
 体力を回復した、ウェーンさんが立ち上がり、僕を見るなり言葉を発した。

「チビ……いや、トワだったな。いい試合だった。またやろう。 
 次は負けない。そして、数々の失言を撤回する。申し訳なかった。俺らと一緒に、魔物退治一緒に戦ってくれるか?」

「こちらこそ。いい試合でした。僕も久しぶりに熱くなりました。僕も負けるつもりはありませんよ。
 僕も意地になってた部分がありました。失礼しました。もちろん! 一緒にエルフの里を守りましょう」

 そして、僕とウェーンさんは固い握手を交わした。

 周りから、盛大な拍手の音が鳴り響いた。
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