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第七章 因縁

第69話 スパイ対策

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 造船所へ行った後。

 俺は道端の屋台でおやつのガレットを買うと王立公園へ向かった。

 クルックー♪ クルックー♪……

 広場の人々の足元にふてぶてしく集まる鳩。

 噴水のまわりには子供が裸足になって遊んでいる。

 けっこう日差しがあるな。

 けれど約束のベンチへ座ると、背後の常緑樹があたりを木陰にしてくれてわりと涼しげだった。

「……もぐもぐ」

 ガレットを一口かじる。

 ふと、清掃員用の服を着た男があたりにほうきをかけているのが目に入った。

 ザッ、ザッ、ザッ……

 つばつきの帽子を深くかぶっていて顔は影になっている。

 彼は最初は広場の中央あたりを掃除していたが徐々にベンチのほうへ近寄って、やがて俺の座る位置のすぐそばをしいて丹念に掃き始めた。

「……若。昨日は肝をつぶしたでやんすよ」

 清掃員はそう言いながら帽子をかぶり直す。

 つばからかすかに見えた顔は見知ったもの……

 そう、ジョブ『忍者』のリッキーだ。

「見てたのか?」

「あまり無茶はしねーでほしいでやんす。若に代えはいないでやんすから」

 リッキーはあくまで掃除をし、俺はガレットを食べているので、傍目はためには会話しているようには見えないだろう。

 情報戦が激化している時期だからな。

 諜報員スパイ対策である。

「まあ、そう言うなって。なかなかイイ話が聞けたんだからよ」

 俺は昨日のように技能『壁抜け』を使ってライオネの領主とガイル侯爵との密談を数回にわたって盗み聞きしていたんだ。

 毎回危ねー目にはあったけど、それだけの成果はあった。

 まず、巷で流れている「ライオネがガゼット領を攻めるらしい」という風評だけど、あれはフェイクだってこと。

 ライオネの攻撃目標はあくまで俺らダダリ。

 そして、ガゼット領のある北側からじゃなくて南から攻めてくる。

 こざかしい策だぜ。

「でもに落ちないでやんすね……」

「あ? 何が?」

「いえ、ライオネはどうしてそんなにウチを攻めようとするんでやんしょ? 今ならガゼット領を攻める方がよっぽど合理的なのに」

「そう思うかもしんねーけどさ。人間が合理的って前提で計算を伸ばすのはほどほどにした方がいい」

「どーゆう意味でやんす?」

「それは……」

 まさかライオネの伯爵がうちのおふくろのことを好きだったなんてなあ。

 オヤジとライオネの領主で決闘までしておふくろを取り合っていたなんて。

 そんな因縁があるからアイツはダダリを……そして死んだオヤジのことをあんな目の敵にしてたんだな。

「……それは内緒だ。別にどうだっていいだろ」

「えー」

「それより大事なのは、俺たちがフェイクにかかっていると敵に思わせることだ」

「そりゃそうでやんすね。でもどうやって?」

「領地に分身を残してんだけどさ。風評を聞いたらしくガゼット領の領主が『同盟を結びたい』って言ってきたんだよ」

 ここはガゼット領との同盟の提案に乗って、俺らの意識が北側へ向いているって装っておこうと思う。

 ついでにガゼット領への影響力も高められたら儲けものって感じだな。

 俺はガレットの残りを一口で食べ終えてから続けた。

「……俺の方は以上だ。で、頼んでたのどーだった?」

「ええと、はい。ダンカン塔の市民団体のメンバーについてはかなり調べがつきやした。これが名簿でやんす」

 リッキーは目立たないしぐさでベンチの上へ書類をそっと置いた。

 俺はすぐにはそれへ手をつけない。

 後からそれとなく持ち帰ればいい。

「ご苦労だったな」

「ええ。しかし……マントの男とローブの女については一切情報が出てこないでやんすよ」

「やっぱりか」

 そう。

 王都で一番調べたかったのは、あの女魔王と勇者のことだった。

 ダンカン塔に女王を幽閉した市民団体は、勇者たちと何らかの関わりがあったようにも見えたからな。

 あの事件で捕えられた連中の人間関係を調べれば、勇者や女魔王の情報が出てくるかもしれないって思ったワケだ。

「でもまあ、そんなに甘くねえか。もう少し王都にいるつもりだから、引き続き調査してくれ」

「はあ。すぐに帰ってライオネ戦に備えなくていいでやんすか?」

「まだ大丈夫さ。ヤツらは風評がじゅうぶんに広まって俺らがあざむかれるのを待ってる。事実、ライオネ伯爵自身がまだ王都にいるしな」

「それもそうでやんすね」

 もちろん、さしあたっての脅威は強豪ライオネとの戦争である。

 それに女魔王たちはまだ俺のことを敵視した様子じゃなかったけど……

 この先、俺がゲームの知識で領地を強くしていけば必ずヤツらの『異世界改革』と衝突する時が来る。

 せっかく手掛かりがあるなら少しでも準備しておかねーと。

「じゃあ、頼んだぞ」

「かしこまりでやんす。では……」

 リッキーはそう言って公園の掃除を切り上げていった。



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みんなの感想(4件)

卓也
2024.07.13 卓也

分身・・・デメリットはないの?

体力が減るのが早い(疲れるのが早い)
お腹が減るのが早い
痛覚(物や、人と触れた感覚)が連携ない
戻った時にしか意識が統一しない
ってな感じの!
分身も?生理現象は起こるの?
片一方が飯を食えば腹が満たされ?
片一方がトイレに行ったら?もようしが無くなるとかは?ありますか?

黒おーじ
2024.07.13 黒おーじ

分身は、感覚もリアルタイムで共有して、しかも本体の一つの意志で複数視点の出来事を同時に処理できるようになります。それは3人の嫁を同時に相手してしっかり楽しめるほどにはスムーズです。

デメリットとしては分身を作り出した日は、最大MPが目減するという形で魔力を使うということ。(※これは次回52話に登場する設定ですのでお楽しみに)

分身の弱点としては「弱い」ということ。本体ステータスの10分の1しか戦闘能力がありません。魔法も使えない。

つまり、分身は内政や恋愛などでは問題ないが、戦闘には不向きということです。

ご飯、トイレなどは個別の分身で行います。分身を一度消し、再び生成した場合、空腹度や尿意などはその時の本体の状態になります。ただし、分身として行動すると、分身の腹や膀胱は独立しているのでそれぞれで管理するという感じです。

他にも『分身』の特徴はいくつかあるのですが、のちの展開をお楽しみにいただければと思います。

解除
卓也
2024.07.06 卓也

新しいスキルはフラグなのか?
単騎での攻撃を完全にかわすスキル→
女騎士と決闘
今回の壁抜けも?
幽閉女王と女騎士を助けに?

黒おーじ
2024.07.06 黒おーじ

そのように進んでいますね!
ただ、救出にはまだ関門があるみたいです。

次回もお楽しみに!

解除
卓也
2024.07.03 卓也

33話を読んで・・・・
海から遠い内陸部の領地なんですよね?
鉱山(鉄)があるって事は・・・
違う山には?岩塩がありそうな・・・

黒おーじ
2024.07.03 黒おーじ

お読みいただきありがとうございます!

川はあるけど海はない領地となっております。船があれば海に出られるけど今のところ船もない……
確かに岩塩が見つかれば解決ですが、果たしてどうでしょう。

次回もお楽しみに。

解除

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