上 下
50 / 69
第六章 魔境の奥で

第50話 ただのモンスターである

しおりを挟む

 結婚式も終わり魔法も覚えたことだし、魔境の攻略を再開しようかな。

 最近はベネ領との塩戦争とか、王都でのナディア救出とかいろいろと立て込んでいたから進められていなかったけれど、プレイヤー領の発展に魔境の攻略は欠かせない要素だったんだよ。

 ただしこれから先は難易度が少し上がる。

 魔境の第1地区は『暴れトロルの森』、第2地区は『メタルキャタピラーの巣』、第3地区は『岩ゴーレムの鉱山』だったよね。

 ここまでは言わばチュートリアルのようなもの。

 続く第4地区へは軍勢を送るだけでも一苦労なはずだった。

 そもそも攻略した第3地区の鉱山はかなり高く急峻で、人の足ではちょっと越えられそうにないものである。

 その代わり、鉱山のこちら側には地下迷宮ダンジョンへとつながる洞穴があるのだった。

 そう。

 ようするに鉱山の下部に巨大な地下迷宮ダンジョンが張り巡らされていて、次なる魔境へ進むためにはまずコイツを攻略しなければならないのだ。

「まずは俺ひとりで探索してみるか」

 そう考えたのには理由がある。

 そもそもゲームの仕様上でも、未攻略のダンジョン階層へは領地の軍勢を連れていくことはできなかった。

 連れていくことのできる仲間は最大5人まで。

 この世界がそこらへんでゲームの仕様をトレースしているかは不明だが、せまい通路を大勢で行くとむしろ魔物との闘いが不利になるのは確かだ。

 どのみち人数は精鋭で絞らなければならない。

 そして、地下迷宮をマッピングするだけなら、まずはひとりで行ってしまった方が楽なのだ。

 というワケで探索の準備を始めよう。

 一度探索を始めたら数日は地下に潜ることになるからね。

「ええと、食いもんと、武器と……」

 こうして必要なアイテムは魔法の『亜空間D』にしまっていく。

 亜空間はFからDまでランクUPしていて、Fのときは手さげほどの容量、Eのときはミカン箱ほどの容量、そしてDとなった今は物置(約2畳)ほどの容量があった。

 食料――ポテトやパン、干し肉、チーズ、飲み水。

 鋼鉄の剣×2、鋼鉄のつるはし、やくそう×10、毒消し×5、眠りのおふだ×5。

 マップ作製用の羊皮紙とペンとインク。

 着替え、ランタン、油、手拭い、わら寝袋シェラフ

「まあ、こんなとこかな」

 準備が済むと、俺はひっそりと館を出て行った。

 ちなみに分身でダンジョンへ行くことはできない。

 いや……できないことはないんだけど、分身は弱いし、魔法や技能が使えないと無理ゲーだからね。

 分身は館に残しておく。

 これでダンジョンを探索しながら分身を利用して内政も継続できるってワケだ。

 こういうのがかなりデカいんだよね。

 さて、領地の村を抜け、川を越え、東の開墾地を通り、かつて魔境だった森を歩く。

 このあたりの土地もまだ使えそうだけど……

 旧魔境第1、第2地区は木材の供給地にもなっているから、森を維持しながら経営していくのが大事そうだな。

 カンカンカンカン……!

 やがて鉱山に着くと掘削者マイナーたちがつるはしを振るう音が聞こえてくる。

 彼らは掘った坑道で石炭や鉄鉱石を獲得し、地上へ出てはコンテナに入れていくのだ。

 コンテナがいっぱいになれば荷車を引いて鉄の錬金工房へと運んでいくはずだった。

「よお、ご苦労さん」

「あっ! ご領主!」

「お疲れーッス!」

 最初は洞穴を怖がっていた掘削者マイナーたちも、今では慣れたものである。

 ただし、鉱山の壁面に空いた一つの穴にだけは入らぬようキツく言ってあったはずだ。

「アレには誰も近づいてないだろうな?」

「へえ、もちろんでございます」

 そう。

 その穴こそ地下迷宮ダンジョンへとつながる洞穴。

 非戦闘員の掘削者マイナーが入れば死間違いなしだからな。

「よいしょ、よいしょ……」

 さて、俺は岩を踏みしめて、洞穴のところまで登る。

 穴は暗すぎて先が見えない。

 ランタンを灯そう。

 ポー……

 暗い岩肌へオレンジの光が染まる。

「ゴクリ……魔物ってゆーか、オバケがでそうだな」

 そう思ってちょっぴり躊躇したが勇気を出して足を進めた。

 オバケどころか魔物もあらわれない。

 しばらく洞穴を進むと、岩を雑に削ったような階段があらわれる。

 その中途半端な人工性がより不気味だったけれどその長い階段を下りきると、これまた不気味に錆びた鉄の扉がランタンに照らされた。

「んー……おら!」

 めいいっぱい力任せに押すと扉は音を立てて開く。

 一応、ちからは230あるからね。

 ゴアー……!!

「わっ、びっくりした!」

 中を照らすと急にボロボロの剣を持ったガイコツの姿があらわれオバケかと思ってマジでビビったけど、なんのことはない。

 ただのモンスターである。

 なーんだ。

「ったく、びっくりさせんじゃねーぞ。うるぁ!」

 鋼鉄の剣で二、三打撃を加えるとガイコツはバラバラになって動かなくなった。

 やれやれ。

 つーか、この扉は締めておいた方がいいかな。

 俺がめいいっぱい力を入れなきゃ開閉できない扉だ。

 コイツのおかげでダンジョン内の強めモンスターが外へ出ていかない感じなのかもしれんし。

 ギギギギ……

 こうして錆びた扉を閉めると、俺は地下迷宮の通路へ歩を進めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...