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第六章 魔境の奥で
第50話 ただのモンスターである
しおりを挟む結婚式も終わり魔法も覚えたことだし、魔境の攻略を再開しようかな。
最近はベネ領との塩戦争とか、王都でのナディア救出とかいろいろと立て込んでいたから進められていなかったけれど、プレイヤー領の発展に魔境の攻略は欠かせない要素だったんだよ。
ただしこれから先は難易度が少し上がる。
魔境の第1地区は『暴れトロルの森』、第2地区は『メタルキャタピラーの巣』、第3地区は『岩ゴーレムの鉱山』だったよね。
ここまでは言わばチュートリアルのようなもの。
続く第4地区へは軍勢を送るだけでも一苦労なはずだった。
そもそも攻略した第3地区の鉱山はかなり高く急峻で、人の足ではちょっと越えられそうにないものである。
その代わり、鉱山のこちら側には地下迷宮へとつながる洞穴があるのだった。
そう。
ようするに鉱山の下部に巨大な地下迷宮が張り巡らされていて、次なる魔境へ進むためにはまずコイツを攻略しなければならないのだ。
「まずは俺ひとりで探索してみるか」
そう考えたのには理由がある。
そもそもゲームの仕様上でも、未攻略のダンジョン階層へは領地の軍勢を連れていくことはできなかった。
連れていくことのできる仲間は最大5人まで。
この世界がそこらへんでゲームの仕様をトレースしているかは不明だが、せまい通路を大勢で行くとむしろ魔物との闘いが不利になるのは確かだ。
どのみち人数は精鋭で絞らなければならない。
そして、地下迷宮をマッピングするだけなら、まずはひとりで行ってしまった方が楽なのだ。
というワケで探索の準備を始めよう。
一度探索を始めたら数日は地下に潜ることになるからね。
「ええと、食いもんと、武器と……」
こうして必要なアイテムは魔法の『亜空間D』にしまっていく。
亜空間はFからDまでランクUPしていて、Fのときは手さげほどの容量、Eのときはミカン箱ほどの容量、そしてDとなった今は物置(約2畳)ほどの容量があった。
食料――ポテトやパン、干し肉、チーズ、飲み水。
鋼鉄の剣×2、鋼鉄のつるはし、やくそう×10、毒消し×5、眠りのお札×5。
マップ作製用の羊皮紙とペンとインク。
着替え、ランタン、油、手拭い、藁の寝袋。
「まあ、こんなとこかな」
準備が済むと、俺はひっそりと館を出て行った。
ちなみに分身でダンジョンへ行くことはできない。
いや……できないことはないんだけど、分身は弱いし、魔法や技能が使えないと無理ゲーだからね。
分身は館に残しておく。
これでダンジョンを探索しながら分身を利用して内政も継続できるってワケだ。
こういうのがかなりデカいんだよね。
さて、領地の村を抜け、川を越え、東の開墾地を通り、かつて魔境だった森を歩く。
このあたりの土地もまだ使えそうだけど……
旧魔境第1、第2地区は木材の供給地にもなっているから、森を維持しながら経営していくのが大事そうだな。
カンカンカンカン……!
やがて鉱山に着くと掘削者たちがつるはしを振るう音が聞こえてくる。
彼らは掘った坑道で石炭や鉄鉱石を獲得し、地上へ出てはコンテナに入れていくのだ。
コンテナがいっぱいになれば荷車を引いて鉄の錬金工房へと運んでいくはずだった。
「よお、ご苦労さん」
「あっ! ご領主!」
「お疲れーッス!」
最初は洞穴を怖がっていた掘削者たちも、今では慣れたものである。
ただし、鉱山の壁面に空いた一つの穴にだけは入らぬようキツく言ってあったはずだ。
「アレには誰も近づいてないだろうな?」
「へえ、もちろんでございます」
そう。
その穴こそ地下迷宮へとつながる洞穴。
非戦闘員の掘削者が入れば死間違いなしだからな。
「よいしょ、よいしょ……」
さて、俺は岩を踏みしめて、洞穴のところまで登る。
穴は暗すぎて先が見えない。
ランタンを灯そう。
ポー……
暗い岩肌へオレンジの光が染まる。
「ゴクリ……魔物ってゆーか、オバケがでそうだな」
そう思ってちょっぴり躊躇したが勇気を出して足を進めた。
オバケどころか魔物もあらわれない。
しばらく洞穴を進むと、岩を雑に削ったような階段があらわれる。
その中途半端な人工性がより不気味だったけれどその長い階段を下りきると、これまた不気味に錆びた鉄の扉がランタンに照らされた。
「んー……おら!」
めいいっぱい力任せに押すと扉は音を立てて開く。
一応、ちからは230あるからね。
ゴアー……!!
「わっ、びっくりした!」
中を照らすと急にボロボロの剣を持ったガイコツの姿があらわれオバケかと思ってマジでビビったけど、なんのことはない。
ただのモンスターである。
なーんだ。
「ったく、びっくりさせんじゃねーぞ。うるぁ!」
鋼鉄の剣で二、三打撃を加えるとガイコツはバラバラになって動かなくなった。
やれやれ。
つーか、この扉は締めておいた方がいいかな。
俺がめいいっぱい力を入れなきゃ開閉できない扉だ。
コイツのおかげでダンジョン内の強めモンスターが外へ出ていかない感じなのかもしれんし。
ギギギギ……
こうして錆びた扉を閉めると、俺は地下迷宮の通路へ歩を進めた。
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