短編集〜ふぁんたじー〜

赤井水

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短編集

大英雄の弟子の冷めた眼Part1

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 ◇プロローグ

 カント紀348年
 世界を震撼させた魔王が大英雄の6人によって討たれた。

冒険王レジャーノ
剣鬼サダツ
拳王レブラ
盗賊王サヌキ
賢者プリメラ
聖女ラム

 何故英雄ではなく“大英雄“と呼ばれるに至った理由は……
 序盤の序盤で勇者ロイスが討たれた事が原因であった。
 そこで冒険王レジャーノが冒険者ギルドより派遣され、そこからは破竹の勢いであった。

 当初10年計画だった魔王討伐がたったの3年で終わってしまったのだ。

 今は凱旋パレードの真っ最中である。

「大英雄ー!ありがとうー」

「聖女様ー賢者様ー」

「あれ?冒険王様は?」

「確かに……5人しか居ないぞ?」

 そう、人類勝利を祝う凱旋パレードは5人しか居なかった。

 そして王城で1つの発表があった。
 民衆へのアピールをする場所があるバルコニーで王様は1つの手紙を読んでいた。

「冒険王レジャーノは……え? これマジでワシが読むの?」

「「「…………」」」


「えーヤダなぁ何でそういうのワシに押し付けるのかのぅ……皆の者。
 冒険王レジャーノより伝言である!」

「俺には魔王討伐も未知の冒険も同じ事である。
 未だかつてない世界を見る為、俺は“次の旅に出る“
 未知を楽しめ!未知を恐れよ!俺は常に未知に挑み続ける。
 大英雄の称号を得る位なら冒険者だけで充分だ。また会おう!」


「「「「「…………は?」」」」」

 ここまで王の演説で静けさが勝った物はなかったという。

 後ろの大英雄達の顔も呆れ顔であったという。




 王の演説より2週間が経ったとある日。
 辺境の村に1通の手紙が届いていた。

「ロス、お前の師匠兼儂のバカ息子より手紙じゃぞい」

「おう、どうせ帰って来ないと思ってたし言われてたからね。
 ありがとう村長あと少し待ってて。薪割り終わるから」

 そこには身長は平均より小さく細身の黒髪の少年が薪割りをしていた。

「あれから3年かのう……時が経つのは早いの」

 パカン、パッカーン

「よし!ノルマ達成!手紙くれ」

 ズレた眼鏡を直し、村長に瞳を向ける。
 その瞳は時間経過と共に常に色が変わっていた。

「ふぉっふぉっロスよ。興味無い振りして感情が揺れ動いとるぞ? 瞳の色が固定出来てないぞい?」

 ちょっと顔を赤くしながら前髪で眼を隠すロス

「からかわないで手紙頂戴よ」

 村長からロスは手紙を受け取る。

「ふむふむ……へ? ……ほ? ……あんのぉ……」

 ロスの顔は真っ赤になり始め、ぷるぷると震え出す。

 あ、やばいと村長はダッシュで逃げる。


「あんのぉクソ師匠がぁぁぁぁぁ!!!」

 しばらくすると村長は戻って来てロスに声をかけた。

「それで、レジャーノはなんと?」

 ムスッとした表情で手紙を渡す。

※※

・ロス修行計画

15歳 村を出る
15~19歳 冒険者になりA級に成り上がる
生涯目標 俺を見つけろ!

・注意点

計画破産で破門
出来れば登録は迷宮都市で行う事
俺の義妹のメルトを頼れ

 同封した収納指輪に貴族英雄達のバッチが入ってるから貴族に絡まれたら使え。

 最後に未知を恐れよ、恐れた時に退いたら終わり。
 未知に挑む者になれ、前進しろ勝ち取れ。

 師匠より

※※

 村長もこれにはびっくりしていた。

「ロスの感情をここまで引き出せるのもレジャーノの奴だけじゃのう」

「めっちゃ腹立つ……そしてアイツ同じ大陸に多分居ない。
 俺の探知にも引っかからない面倒臭いなぁ……」

 2人で頭を抱える羽目になってしまうのであった。


 ◇ 第1話


「いたっ、止めて。痛いから……」

 懐かしい記憶だ。
 毎日毎日、俺は精霊にイタズラされていた。

 止めてと頼んでも頼んでも日に日にイタズラの頻度も酷さも強くなっていたある日の事だ。

「がぁぁぁぁぁ!!!てめぇら食っちまうぞコラァァ」

 俺の斜め後ろから獅子の咆哮の様な声が聞こえてびっくりして
 固まっていたら精霊達が急いで逃げていった。

 俺は後ろを振り返ると、獅子の咆哮に相応しい獅子の鬣みたいな髪型と
 髭を生やした上半身裸のムッキムキの人が立っていた。

 俺の方を見ると、頭に大きな手を乗せ撫でてくれた。

「おう!坊主、嫌なら嫌ってはっきり気合い入れて叫べよ。
 アイツらは強く言ってしまえばビビって出てこなくなるからなガハハ」

 これが俺と師匠の出会いだった。
 そこで俺は意識が覚醒した。


「ん? 夢か……」

 あー昨日の手紙のせいで適当な師匠の事を思い出してしまった。


 俺は昨日のうちにまとめておいた荷物を持って部屋を出る。

「ロスや旅立ちの祝福にほれ、お前さんの好物を用意したぞ」

 ニヤニヤしながら村長が俺に話しかけて来た。

「……おい、嫌がらせか?」

 俺は苦笑いしながらテーブルの上を見る。
 そこには朝ごはんとは思えないヘビー級のステーキが並んでいた。

「ふぉっふぉっ、なんじゃ? ひ弱じゃのう」

 そう言うと、村長は俺と同じメニューを食べ始めた。

「じーさん後100年は死なねんじゃねーか?」

 そう言いつつも用意して貰ったので俺も食べ始めた。

「ぐっ、流石にキツい。オーク肉1キロは無いだろどこのフードファイターだよ……」

「軟弱者め!これくらい食えんと冒険者になんぞなれんぞい!」

 ズズズっとお茶を啜りながら余裕で完食した御歳62の村長がそんな事を言う……

「師匠と言い、村長と言い化け物親子め」

 朝からステーキ1キロ食べてるこのじーさんは師匠の親であり
 近くの森に捨てられていた俺を保護してくれた育ての親でもある。

 俺は居住まいを正して村長いや、育ての親に15年間分の感謝の意を伝える。

「じーさん。15年間本当にありがとう。俺は少しでも有名になったらじーさんの自慢の子だって言わせてやるからな!
 流石に師匠より名声を得るのは無理だがな。15年の人生でたった2人の信頼出来る家族が出来た事に感謝します。
 育ててくれてありがとうございました」

 村長は目を細め、コロコロと笑い出した

「ふぉっふぉっ、相変わらず“2人“だけかのう。
 次は嫁を紹介しに来いアホのレジャーノは嫁は居らぬが子供は作ったかも何て言ったせいで大変じゃからの」

 かーっと顔を赤くし俺はあたふたする。

「お、女なんて興味ねぇからな!本当だからな?」

「ロスよいか? ワシやレジャーノの前の様にその感情のまま接すればすぐ出来るぞい?」

 俺は急に顔がすんっと真顔になり

「うん、それは無理かな? 2人しか信用も信頼も出来ないよ。
 まぁ、大英雄の人は少しは信用出来るかもしれないけどさ。
 でもそれはいつでも壊れる位にしか思ってないよ」

「前途多難じゃのう……転移で行くのか?」

 俺はコクンと頷き右眼に魔力を集中させる。

「 千里眼、時空眼」

 俺の脇に黒の渦巻き上のワープゲートが現れる。

「じゃーね、おじいちゃん」

 黒の渦巻き上の物が消えると……

「ふぉっふぉっ、最後におじいちゃんか。寂しくなるのうロスや……」

 1人きりになった家もどこか寂しそうに見えるのであった。



 俺は師匠の手紙を手に持ち転移した場所で街を遠目に眺めていた。

「ここが迷宮都市レスタか……久々に来たな」

 俺が住んでいた村の2つ山を越えた先にあるのが迷宮都市レスタ。

 属する国はコマリ国、コマリ国は大陸中央にあり北はこの間、魔王が討たれた魔族の領域ガスト国。
 西はマスラ共和国で沢山の小国家や少数民族が集まり協力して国の体制を取っている。
 南はマスト帝国、ここは実力主義国で“力は正義“をうたっている国家だ。

 師匠はいつもお金に困ってたら帝国に行って荒稼ぎしてた。
 力とは戦闘力か? と問われれば否だ。

 帝国の掲げる“力“とは学力・武力・魔法力・魅力だ。
 策謀力や個性力とも言われ、唯一無二の力を持っていれば成り上がれるし楽しめる国と言われている。

 東は亜人国家で沢山の亜人達が寄り添い集まっている。
 国家の個別名称は無いので東の〇〇種族と言った自己紹介をする人達は要注意らしい。

 ここの国は横の繋がりを大事にしており、他の国で問題が起きたとしても一丸となって問題に立ち向かおうとするらしい。
 迷宮都市は冒険者の街とも言われ、ダンジョンが中心になる都市なので各国より人が絶え間なく入ってきているので
 俺は各国の注意点を踏まえた上で迷宮都市の門へと向かうのであった。


 ◇ 2話

 俺は、今大行列に並んでいる。
 腰には剣を差し、フード付きローブを被り日差しを避けていた。

 偶に、横を物凄いスピードで走って行く馬車は警備隊であったり貴族であるのだろう。
 平民とは違い、顔パスが出来るのだろう。

 俺は、面倒事が起きない様に顔を隠していた。理由はこの眼鏡だ。
 この眼鏡は魔道具で俺の特別製の眼を隠す役割をしている。

「次!フードを取れ!目的は? どこから来た?」

 俺は、フードを取ると門番は納得したかの様な反応をしていた。
 眼鏡は多少高級品なので平民には手が出しづらいので
 フードを被っていた事に理解があったのだろう。

「ロス、2つ山を越えた先の村から来た。目的は冒険者になる為」

 門番は水晶を差し出したので俺は手を乗せた。水晶は青く光を放つ。

 確か、これは教会の戒律を破ってないか調べる奴だったけな?
 犯罪や嘘をついてる場合赤く光る仕様だった気がする。

「よし、入場税銀貨1枚だ。頑張れよ」

 俺は、頭を軽く下げ銀貨1枚を払った。

 大きい都市では街に出入りするだけでも税金がかかる。
 しかし、これもギルドに入れば免除される。

「村では自給自足だったとはいえ、高ぇよなぁ」

 俺はそう呟きながらも門を潜り抜けた。
 村では自給自足で狩りをして肉以外の素材は売っていた。
 薬草やスパイス等も山で取れた為、意外とお金は貯まった。

 街に行く用の服以外はお金は使わないのが辺境の村の利点だ。

「まぁ、あの村は例外か……」

 コマリ国の辺境の村ダストは別名修羅の村と呼ばれ。
 武者修行の聖地であり村人全員が冒険者で言うBランク以上の戦闘力を持っている。
 そこに住む子供達もまた何かしらのサラブレッドである為、普通の街の人や村人より常識が違う。

 そもそも、村長含め6人位でオークの集落壊滅させる等ダストの村人では日常の1コマであるが、村外の行商人に話を聞くと有り得ない事らしい。

 素材を買い取っていた時に白く燃え尽きて居たのは印象的だった。
 まぁ、常識が段違いに誤差があるので良識ある常識を教えてもらう為
 俺は最初に師匠の義妹のメルトさんの情報を集める事にした。

 適当に食堂に入ると結構賑わっていた。

「いらっしゃいませー何名様ですか?」

 若い女の人が声を掛けてきたので俺は人差し指を立てて1を現した。

「1名様ですね!カウンターへどうぞ!」

 席に案内されメニューを見ると結構種類が多い……
ウルフ肉の炒め物? え!? 犬食うの?
ジャンプラビットの蒸し焼き
オーク肉の揚げ焼き



 や、やべぇ。
 こんなにも村とは違うとは……犬やうさぎなんて村の周りにはいなかったからどーしよ……
 犬食うのか……都会コワイ。

 先程の女の人が木のコップに水を入れて持ってきた。

「ご注文はお決まりですか?」

 分からないので俺は

「オススメってありますか?」

 と聞き返す事にした。

「う~ん、私はジャンプラビットの蒸し焼きがオススメですよ!さっぱりしてるので食べ易いですよ!」

 そうなのか!1つ勉強になったと納得して

「じゃそれでお願いします」

「はい!ジャンプラビットの蒸し焼き入りましたー」

「「へい!注文確認OK~」」

 このお店は独特な掛け声がある様だ。

 俺は水で口の中を潤し、少し待っていると。

「ジャンプラビットの蒸し焼きお待たせしましたー」

 と野菜の上にタレが掛かった料理が黒パンと共に出てきた。
 おー美味そうだ。

「ありがとう。頂きます」

 そう言うと配膳してきた女の人に不思議な顔をされた。

「お客さんもしかして東の方ですか?」

 ん? 何故東?俺は首を振り

「いんや、俺はダスト村から来たんだよ」
と答えた。

 女の人は驚きながらも何か納得していた。

「メニューに迷ったり、食べる前に謎のお祈りをする人は東の国の人が多いのでそう思ったんです!」

「へぇ、多分狩りを中心にする村や国はそう習慣があるのかもしれないね。
 それにしてもオススメ選んで良かった。すげぇ美味いわ」

 このタレが絶品だった。

「良かったです!そういえばこの街には何しに来たんですか?
 若そうですし冒険者になりに来たんですか?」

 おっ!この際メルトさんの事も聞いておこう。

「それもあるんだけど、師匠の義妹さんに会いに来たんだけどさ。
 名前以外分からなくてね。情報収集もしてる」

 女の人はなるほど~と呟きながらも納得していた。

「それでメルトさんって知ってる?」

 俺がメルトさんの名前を出すと周りがガタガタッと音を立てた。
 俺はその人達を不思議そうに眺めて、女の人に視線を戻すと盛大に顔がひきつっていた。

「???え? やばい人なの? 会いに行くの止めようかな……」

「もう、手遅れだと思います……」

「へ?」

「あの方の諜報員はこの街全土に居て、こんな所で不用意に名前を出したらお迎えが来ると思われますよ。
 どちらにせよ早いか遅いかの違いだと思います」

 うへぇーと俺は嫌な顔をしつつも、ならいいやーと気持ちを切り替えた。

 女の人は心配そうに俺を眺めていて

「随分と余裕ですね?」

 と質問されたので普通に答えた。

「偉大なる師匠からの無茶ぶりに比べれば逃げていい課題は余裕ですよ?」

 と首を傾げた。

 相手の反応を見る限りこれはドン引きと言う奴だろう……

「え? 逃げられない課題って……」

「え? 逃げようとしたらとっ捕まって投げ返される地獄の課題……」

 そこまで言って俺は気付いた、これ常識とはかけ離れているのか?と

「普通の人ってもしかして……」

 と言いながら女の人を見ると顔を逸らされた。

 ぐっ、これもかぁ。
 あんのぉクソ師匠どんだけ俺を追い詰めたかったんだ。

『誰でも出来る、辞めれたり簡単にこなせる課題は課題じゃねぇ』って言ってたじゃんよ!

 俺は食べ終わり、食堂でお金を払い外に出た。

 目の前には馬車が居り、既に迎えが来ていた様だった。


 ◇ 第3話女帝メルト

 馬車の前には執事の様な格好をしている老人が立っていた。

 彼は一礼すると話し掛けてきた。

「貴方様がメルト様をお探しになられている方でしょうか?」

 何この爺さん、めっちゃ殺気飛ばしてくるんだが……

「あ、あぁ。師匠の手紙に義妹のメルトさんを頼れと書いてあったので探してました」

 俺はそう言うと手紙を収納指輪から出して渡した。

 爺さんは手紙を読むと殺気はどこにと言いたくなる程霧散した。

「なる程かの御仁からのお客様でしたか。失礼しました」

「い、いえ。そこまで地位の高い人だと聞いてなかったので
 師匠のいい加減さが語弊を産んだ形なので気にしてないです」

「かの御仁と名前が言えないのも面倒ですな。馬車にお乗り下さい。早速向かいましょう」

 俺は老人執事と共に馬車に乗った。

 10分程馬車に揺られると、馬車が止まり扉が開いた。

「うへぇ、マジか……」

 俺は館を見てうんざりした。

 そこには周りを見渡しても比較にならない程大きな家が建っていた。

「ささ、どうぞお客様。メルト様がお待ちです」

 そう案内され入口立った時だった。

「!!?時空眼!」

 俺は咄嗟に結界を張っていた。

 目の前には巨大な岩が飛んできておりそれを結界で受け止めていたが拮抗している。

「ぐぬぬ、時空眼!」

 次は結界では無く、転移の能力を発露させる。
 岩は空間の歪みに飲み込まれどこかに飛んで行った。

「ふははは!あれを凌ぐか? 我を探していた少年よ!何者ぞ?」

 長い赤い髪を揺らしながらドレスを着た綺麗な女性が階段を降りながら語りかけて来た。
 俺はそれを見てげんなりした。

 あぁ、確かにこの突発的脳筋行動物凄く師匠に似てる……

 老人執事が一言告げる。

「冒険王レジャーノ様のお弟子でダスト村より来たようです」

「むむ、兄様の弟子だと!? 少年!パパは元気か?」

 村長の事かな?

「村長は今日の朝オーク肉1キロ食べてましたよ。
 師匠レジャーノの弟子のロスです。今日ダスト村から出て来ました」

 ふふふと微笑みながらも

「私がメルトだ。オーク肉1キロかぁ……ロスよこっちのオーク肉は不味いから食べない方が良いぞ?」

 俺は言ってる意味が分からず首を傾げた。

「あの村のオーク肉はオークで非ずって事だ。あの村でオーク肉とはハイオーク以上の事だからな?
 ダンジョンに行ってこの豚何でしょう? なんて言ったらダメだぞ? ダスト村か東の国の出身とすぐバレるぞ」

 と笑いながら答えてくれた。

「あ、師匠の手紙に義妹のメルトさんに頼れと書いてあったので顔合わせを含めて挨拶に来ました」

「そうか、そうか。なら今日は泊まっていくと良い。それより先程の力は何ぞ?
 私の魔法を無効化? されたのは久々ぞ。兄様は脳筋だから拳で壊すが相殺では無くどこかに消えたのは初めてだぞ?」

 うへぇ。流石、師匠あれ筋肉で壊すのか……化け物だ。

「あれは……まぁ。魔法の1つですよ。空間系と言えば分かりますかね?詳しく言えない理由も」

 俺をまじまじと見つめるメルトさん。
 目がキラキラしていて、玩具見つけた時の師匠とそっくりだった。

「そうか、そうか。ならお土産とか無いかの?」

 うわっ、気付いたのか。
 流石に老人執事も苦笑いしている。
 この人すぐ横に居たからすぐに気付いていたからな。

「食料庫ってあります? ダスト村産のオーク肉結構持ってきてますよ? あ!後スパイスもありますよ?」

 するとメルトさんはぷるぷると震えていたと思うといきなり

「ひゃっほいー良くわかってるなロスよ!ダスト村出身者は皆オーク肉が恋しくてねぇ」

「お嬢様!ドレスで飛び跳ねないでください!」

「あ、」

 ポロン

 俺の目の前でメロンが2つ……
 すぐさま顔を逸らした。

「ほら、言ったことか……」

 と老人執事は見ない様におでこに手をやり隠し

 メイド達は慌てて着直ししていた。

 俺は顔を手で覆いつつもメイドさん達に食料庫に連れて行ってもらってこの館の人数を教えて貰っていた。

「え? 私達の分もですか? いやいやいや。そんな贅沢できませんよ」

 とふるふる首を振っていた。

「え? うちの村じゃ犬ですら食べさせてもらう常用食ですよ?
 気にしないで下さい。アイツらいくら乱獲しても次の日には沸いて来るので」

 メイドさんは犬の辺りでドン引きしていた。
 この辺がカルチャーショックだったんだろうと。

 とりあえずこの館には30人働いて居る人が居ると言う事なので
 オーク肉100キロ冷蔵付き魔道具の箱に詰め込んだ。
 後は香辛料とハーブを渡した。

 メイドさんと共に入口の方に戻ると部屋に案内され入口が開いていたので入ると、
 メイドさんの中では結構お年を召した方と老人執事にメルトさんが説教されていた……

「ポロンじゃありませんよ!貴方はここの地区の責任者なのですよ!しっかりとご自覚なさいませ!」

「うぅ……だってぇ。しかも若い子に見られた……あ、ロス。見た?」

 モジモジと顔を赤くしながら俺を見つめるメルトさん。

「あ、異空庫の確認してたので周りの騒ぎで気付いたので見てはいません」

 メルトさんの後ろでメイドさん。多分メイド長さんと老人執事がグッジョブと親指を立てて褒めてくれた。

「良かったぁ……ロスに責任取って貰わないといけなくなる所だった」

 危ねぇ、ほんとに危ねぇ。
 メルトさんのミスなのに何故責任は俺?
 この辺のカルチャーショックが懸念事項なんだよ。

「えっと、その責任って?」

 聞いちゃいけない様な聞きたい様な葛藤を得つつも聞いてみる。

「んー? 見てたらロスが私と結ばれるか? 死ぬか? どっちかだよ?」

 セェェェーーーフゥゥゥ

 見た相手が死んだらノーカン、見られたくらいなら身内にしちゃえって考え方じゃねぇか……

「そんな事を仰るから適齢期が「爺」ふぉっふぉっ」

 老人執事やべぇな……

「あ、それでオーク肉100キロ渡したんで皆さんで食べてください。
 俺1人じゃ処理しきれなかったんで。村長からも祭り以外で出すの禁止にされてたんで」

「ありがとう。ダスト村のオーク肉は美味しいからね。
 余った部分犬に上げてたの懐かしいよ。そう言えばリルは元気?」

 メルトさんの言ったリルとは村長のペット、犬のリルだ。

「元気ですよ。今や全長3メートル位あって本当に犬なのか? と疑問は凄いですけどね……」

 そうリルの大きさが普通の犬を飛び越えてしまっている為犬とは正確には言えないが。

「え? 何言ってるの? リルはフェンリルだよ?」

「「「え???」」」

 メイド長、老人執事、俺の声が重なった。

「アイツ神獣フェンリルなんですか?」

「そうだよ? って言うより喋れるぞリルは」

「話した事無いなぁ……俺の言ってる事理解しているから頭のいい奴だとは思ってたけどまさかフェンリルだったとは」

 村に魔物が寄ってこない理由がわかった気がした。
 フェンリルのリルがあの村全体を縄張りにしている為、近寄ってこなかったのか……

「そう言えば、話変わりますけどメルトさんって何してる人なんですか?」

 メルトさんはキョトンとした顔で俺を見つめる。

「知らないの? っていうか聞いてないの?」

 俺はコクンと頷く。

「私はダンジョン専門の商人よ。まぁ、裏の武力勢力を潰したりもしてるけどね」

「後者の方が最近は表のか「爺!」ふぉっふぉっ」

 爺さん懲りねぇな……

「あ、だから食堂の客達が怯えていたのか!」

 俺は納得した。
 裏の勢力潰しているという事はそれだけ武力を持っていると言う証でもある。

「ねぇ? ロスその食堂どこ? 潰してくるからぁ」

 俺はそれを無視する。
 流石にそれは私怨過ぎるからな。

「ねぇ、ねぇってばぁーー」

 ぐわんぐわんと揺さぶられるが無視した。

「女帝メルト様をここまで翻弄するとは流石、レジャーノ殿の系譜ですなぁ……」

 うんうん頷く老人執事。
 ん? 待て、女帝?

「女帝? 怖っ!」

「その2つ名で呼ぶなぁーキャラ作り失敗したんだからー」

 だよねぇー……さっきのポロリからキャラ作れてないもんな。
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