短編集〜ふぁんたじー〜

赤井水

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スキル【屋台】〜憧れは渋い屋台のおじさんです!〜

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 0話 プロローグ

 テキ屋ーー祭り会場で屋台を開きお店を展開して全国を練り歩く集団の名称。
 昨今、昔から暴力団との関係性を指摘されて排斥されたりギリギリ残っていたが
 世界規模の感染症により祭りが中止になったり自治体が素人屋台を
 出すようになった為に絶滅危惧種になった人々である。


 ひとえにテキ屋と言っても2通りある。
 ショバ代寄越せと迫ってくる輩に対応する為に組織を作った所と
 仕方なく折れてショバ代を払う為に組織に入った所である。

 最近の風潮でどちらも一般市民からはガラ悪い輩と言われ
 排斥されたのでそんな事は関係無いだろうが中に居た人間には非常に深刻な問題だった。

「ハァハァハァ。ここまで来れば逃げきれたか?」

 俺は息を整えつつも山の中で息を潜める。
すると

『三郎は居たか?あの野郎逃げやがってぶっ殺してやる!!』

 チッ、ついつい執拗しつこいなと心の中で悪態を着いてしまう。
 俺は三郎ーー勿論偽名だ、ひょんな事からテキ屋の造り手兼売り子になったが
 最近の排斥運動によって祭りから追い出された一派の組織の下っ端だった。

 俺はただ人の距離が近い屋台で物を売ってるお兄さんに憧れてこの世界に入ったが
 俺の地元では裏に暴力団が居るとは知らず入り気付いた時には抜けれられない様になっていた。

 名前が難しく好きではないのでたまたま偽名を使っていた事が功を奏し家族には迷惑がかかっていない。

 テキ屋が出来なくなればお金を組織に上げる事が出来ないと
 上から悪事に加担しろと言われてついつい普通に断ってしまった瞬間に刃物で襲われた。
 普段からふんぞり返ってギャンブルに明け暮れてる連中と
 屋台で体を動かしている人間の力の差と年齢の差で
 相手を倒し建物から逃げ出し近くの山に入ったのだが……諦めてくれないのだ。

 このまま他県に移り逃げようとしたのだが。
 間違えた方向の山に入ってしまったのでそれも難しい状況になってしまった。

 くそっ!もう少し落ち着いていれば県境方向の山に入れたかもしれないのに。
 まぁそれでも山越えに2ヶ月はかかるだろうがな。

 俺はそんな事を思いつつも静かに動いていると激流名高い川が見える崖の淵に立っていた。
 見つかる前に降りようとしたのだが、10m位の高さからロープ無しで降りれるのかと
 躊躇していると後ろからガサガサッと音が聞こえ急いで振り返ると

「おう三郎……さっきのパンチは痛かったぜぇ」

 ニヤニヤとしたおっさんがこちらに猟銃を向けて勝ち誇った顔をする。
 このおっさんのおかげで俺はテキ屋をしていたが全く儲からなかった。
 1日働いて3000円ってヤバいだろ?
 祭りに来るお爺さんお婆さん達のお捻りが無かったら
 俺は今はもう死んでるだろうと思う。

 お捻りとは扱き使われていると分かっている昔ながらの悲しい文化を知る世代が
 俺達の様な若い奴にこっそりとくれるお小遣いである。

 顔が良かったり愛想が良いと日当3000円に多くて3万、少なくても1万位貰える。
 俺は愛想が良い方だったので中間位貰えていた。このおっさんには秘密でな。

 俺は猟銃を突き付けられて嫌な汗が吹き出す。
 ジリジリと迫ってくるおっさんに合わせて後ろにさがると
 踵が半分崖の淵から出た事に覚悟を決めて俺は笑う。

「じゃあなおっさん。俺はお前に殺される位なら自分で運命を決めるさ」

 俺は崖から川に向けて飛び込んだ。

「な!?チックソがっ!」

 そんな声とバーンッという何かが爆発した音が聴こえたと共に
 俺の体のあちこちから痛みと熱さを感じた。

 くそっ!撃たれたと考える暇も無く
 頭の中は痛い痛い痛い痛い痛い痛いのオンパレードになったと思ったら
 今度はザブンッと体を冷たさが覆う、何とか川に落ちたが
 衝撃が強すぎて何処が痛くて怪我をしてるのかも分からなかった。

 それから数十分?  数時間経ったのかも分からないまま俺は川に流されながら朝陽が見えた。

「クソう……最期にこんな綺麗な景色を見せられたら死ぬ事に後悔が出るじゃないか」

 そんな言葉が俺の最期の言葉だった。


 ◇1話

 俺は再び意識を取り戻すとそこは……裏路地だった。

「建物でっけー……ん?」

 俺は縮尺がおかしい気がして自分の手を見るとニギニギニギニギと

「あら? 可愛いお手手ねぇ~ってちゃうわっ!!縮んどるやないかっ!……なんで何?」

 そしてここ何処?

 俺は瞬時に理解した!!

「も、もしや伝説の異世界転生では!?  な、ならば。す、す、ステータス・オープン!!」

 ちょっと恥ずかしくて噛みつつ唱えると目の前には
 オーバーテクノロジーよろしくのホログラム画面の板が目の前に現れた。

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名前:
年齢:15
レベル:1
固有スキル:屋台
称号:浮浪児 過去を思い出した男
祭りの神のお気に入り

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「名前がないなぁ。うん浮浪児って事は名前を認識する前に捨てられたから無いって事だな!
 テツ!俺の名前はテツで行こうっと!」

 そう宣言すると体が光ホログラムの名前もテツになった。
 そして浮浪児だけあって俺の体は並の15歳よりかなり小さかった。

 身長150cmあれば良い方だなとちょっとショックを受けた。
 俺は多分前世で10歳でその位の身長があったからだった。

 まぁ中学で身長が止まったから全く170cmから伸びなかったんだけどな!!

 俺はスキルより称号の【祭りの神のお気に入り】が気になったので
 触ってみると頭の中に声が響いた

『メッセージを預かってますので流します』

『はぁーい!祭りの神でーす!
 神谷謙信くんは残念な事にお亡くなりになってしまいました。
 でも君は祭りで私の祭殿に必ず貢物と祈願をして
 祭りの最終日には感謝のお酒を置いていってくれる大切な子でした。
 私の心は地球の者達に対して非常に懐疑的になってしまいました。

 だからこそ君には楽しんで貰いたいので他の世界の神にお願いして転生させて貰いました。
 記憶は15歳の時に戻る筈です!
 今度は楽しく生きてね』

「ぶふぉっ!!やめてやめて!その名前が恥ずかしいから俺は三郎って着けてたんだからね。
 でもこれ……捨てられた事知ったら祭りの神怒るんじゃないかな?
 大丈夫か?」

 そんな心配をした瞬間だった
 目の前に革袋がドンッと落ちてきてヒラッヒラッと紙が俺の目の前に落ちた。

 紙を見るも文字が読めない……と、思っていたら急に読める様になった。

 なになに?

『貴方様が記憶を思い出した事により、この世界の管理神である私達も
 貴方様の存在を捕捉する事が出来ました。
 今までの不幸は何かの手違いでは?と思われる程
 ありえない不幸が立て続けに起こってしまった為
 祭りの神が激怒され私達もこのままでは何も出来ずに貴方様が死んでしまわれると危惧し
 このお金と文字や言葉が分かる言語理解のスキルを付与させていただきました。
 この度は私達、神の行いによりおおいに不便な事になった事を心よりお詫び申し上げます。
 出来れば祭りの神に許した事を宣言して頂けると幸いです。
 この世界の管理神より』

 地球の神はこの世界の神より権限? 立場が上らしい。
 何か上からも下からも挟まれてる中間管理職に見えてイメージが
 バーコードの頭をガリガリ搔く苦労人の姿が……ブフォ。

「祭りの神様、こんなにも優しくして貰いこの世界の管理神様にも感謝します!」

 そう言うと目の前に魔法陣が現れ、そこには1つの短剣とローブが置いてあった。
 また手紙が置いてあったので確認すると。

『手早い対応ありがとうございます。
 そして私はバーコードではありません!
 ボンキュッボンですからね?ホントですからね!?

 流石に浮浪児のままの姿では危険なので装備品をお贈りします。
 そしてお金は【金銭管理】という派生スキルを使えば収納できます』

 あらら……女の人だったか。
 ボンキュッボンはここまで必死こいて言うって事はまぁ嘘だな。

 俺は言われた通りに

「【金銭管理】」

 と唱えると黒い渦に飲み込まれ消えてしまった。

「うーんどこ行ったんだろ?ステータス・オープン!」

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名前:テツ
年齢:15
レベル:1
固有スキル:屋台
派生スキル:金銭管理
習得スキル:言語理解
称号:浮浪児 過去を思い出した男
祭りの神のお気に入り

【金銭管理メニュー】
金貨10枚
銀貨100枚
銅貨500枚
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 ほへぇ……ステータスに着くのか。
 納得納得それで取り出す時は念じれば良いのか?
 銅貨1枚と思った瞬間に手のひらの上に銅貨1枚出てきた。

 何と!!奇っ怪な!スキルって素晴らしい!!

 俺の異世界ライフはここからスタートするのであった。


 ◇2話

 次は固有スキルの確認をする事にしようと思ったのだが
 なんで俺は浮浪児なのに1人なのか記憶を取り戻す前の記憶を探ると答えは簡単だった。

 浮浪児は簡単に死ぬ為、倒れたりすると荷物を剥ぎ取り餓死したとみなされ捨ておくそうだ。
 世知辛いな。服まで取ってしまうと剥ぎ取り強盗にあったと勘違いされるのでそういうルールがあるらしい。

 まぁ、今は都合が良いので固有スキルの確認をする。

「スキル【屋台】!!」

 目の前に人力引きの屋台が現れる。

「おぉぉ……ファンタジー。なんてこったい
俺だけの屋台だよ」

 中に入ると食材を入れる箱があり蓋を開くとそこは先程の金銭管理の様な黒い渦があった。

「ふむ、これもあれかな?結構な量収納出来る不思議なBOXかな?
 取り外し式の鉄板に調味料は……おおう!?

 塩と砂糖に胡椒と唐辛子まで有るじゃないか!?
 サービスで入れてくれたのだろかな?」

 何かそんな気がした。
 屋台の中に入ると何が出来てここが成長の余地有りと意識しなくても分かる様だった。

 他の人にバレてはいけない機能も既に見つけてしまった。
 この屋台には木材を取り込む事により串や箸や木皿を作る事が出来る魔道具が搭載されていた。
 更にこの屋台の中に居る時に敵意を感知すると自動的に結界が張られて身を護ってくれるらしい。

「何と至れり尽くせりか!? これは管理神様と祭りの神様に感謝を捧げないと。
ん? マジか……」

 感謝をどう捧げようかと悩もうとしたら屋台の中にある神棚に物を置けば
 奉納出来ると頭の中にメッセージの様な物が現れたのだった。

「ステータス・オープン!」

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名前:テツ
年齢:15
レベル:1
固有スキル:屋台
派生スキル:金銭管理 食材庫
習得スキル:言語理解
称号:浮浪児 過去を思い出した男
祭りの神のお気に入り

【金銭管理メニュー】
金貨10枚
銀貨100枚
銅貨500枚

【食材庫】

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 派生スキルが増えていて更にはステータスのホログラムの中にあるという事は
 念じればこの屋台の箱の中に食材を積める事が出来るという事がわかった。

 恐ろしいスキルを貰って恐悦至極だ。
 屋台の中で水も火も調理器具も全て揃ってるのは有難かった。
 油は高級品、いやそもそも植物油は記憶を辿ってみても
 まだ精製されてない様なので揚げ物は無理でも蒸し器があるので蒸し料理が出来るのは有難かった。

 俺は屋台を降りて、収納と念じると屋台も消えた。
 これぞスキルの強みだろうと思う。

 普通の商売人なら屋台を引いたり馬車を引き、盗まれないかと
 戦々恐々としながら商売をしなきゃならないだろう。
 しかし俺は屋台自体何処かに収納出来るので安心だ。

 管理神様に貰ったローブを着て俺は市場の方に向かおうとしたのだが
 如何せん先程まで浮浪児だったので臭いな。

 俺は記憶を辿り公衆浴場がある事を確認して向かう途中に
 布を2枚と中古の服を上下2着と下着2着と鞄と袋を買った。

 値段は合計で銀貨2枚だった、ふむ? 2万円位って事だろうか?
 いまいち浮浪児の記憶では物価基準が分からなかった。

 ローブ無しだったら多分店には入れてくれなかっただろうなと
 苦笑いしつつも俺は着替えをゲットするのだった。


 この小さい体でしばらく歩き公衆浴場に着き受付に向かうと

「お前さん金はあるのかい?」

俺の身なりを見て店員の婆さんに声をかけられた。
 俺は金はあるので頷くと

「あんたかなり汚いから倍のお金を貰うけど大丈夫かい?
 銅貨7枚の所14枚貰うよ? その代わり洗浄の実を2つおまけで着けてあげるからきっちり洗いな?」

 俺は金銭管理のスキルから銅貨14枚を取り出し婆さんに渡すと
 婆さんはスポンジの様な手のひらサイズのマリモみたいな物を2つ渡された。

「それをお湯に着けて揉むと泡が出るからそれで洗いな」

「ありがとう」

 俺はそうお礼を告げて中に入り脱衣所で鞄の中にあった袋に
 今まで着ていた服を入れてしっかりと閉じる。

 脱いでわかったがかなり臭かった、布を1枚取り出し鞄をロッカーの中に入れて木札を取る。
 こういう所は前世と変わらないな。木札を取ると鍵が閉まる原理は
 いまいち知らないが職人さんの技術なのだろう。

 浴場に入ると人はほぼ居なかった。
 手前でお湯がチョロチョロ出ていて奥の部屋からは湯気が出ている。
 サウナタイプの浴場かと納得した。

 俺は誰もこちら側にいない事にお湯が出ている場所の前に陣取り置いてあった桶で体を流す。
 マリモを桶の中に入れてお湯を含ませ揉むと泡がモコモコとたち始めた。
 その泡で頭を洗ったのだが、くそ!全然泡立たない。
  
「くぅぅ、我が体ながらなんて頑固な汚れなんだ」

 そんな呟きをしつつも4回目にしてやっと泡立ってくれた。
 このマリモは髪と体兼用らしいので頭を洗いつつも顔も洗う。

 周りを見渡すと汚れが目に見えて床を汚していたので取り敢えず慌てて汚れを流す。
 体を洗ったらもっと酷い事になるだろうとまだ人が来ていない事に運が良いと喜び
 マリモを泡立て濡らした布に泡を着けて体を洗う洗う洗う。

 結果じっくりねっとり3回洗った。
 布はお湯でもみ洗いしても全く汚れが取れないほど汚れてしまった。

 マリモを捨てる箱があったのでしっかりと絞りマリモを捨てて
 汚れが床に残ってないか確認した後に念入りにお湯を桶で床を流して桶を元の場所に戻した。
 俺はサウナのある部屋に入った……のだが踵を返して出ようとしたら肩を掴まれた。


 ◇3話

「昼間に子供が1人で来るなんて珍しいと思ったら人の顔見て帰るなんてひでぇじゃねえか」

 そりゃ隻眼のスキンヘッドの筋肉ダルマが居たら誰でも帰りますよ?


「一応15歳なので今日から大人ですよ?
 先程まで浮浪児だったんで、親切なお節介焼きがお金とローブと武器をくれたので
 汚れを落とさないと嫌われるし店にも建物にも入れないと教えて貰って来たんです」

 ポカンとした表情をしたスキンヘッドの人は爆笑しだした。

「ガハハハハ!!悪ぃ悪ぃ。
 随分と小さいから間違えちまった。
 それと今どきそんなお節介焼きが居るとはまだまだ捨てたもんじゃねぇな!!」

 えぇ、1度も会わず顔も知らない神様から助けて貰ったなんて言えないからね。
 感謝の品は屋台で作るか、お酒か何かを奉納するしか出来ないですから。

 スキンヘッドさんは何故か俺を離してはくれずに隣に座らされた。
 もう、帰りたい……お昼から公衆浴場に居るとはお金持ち何だろうか?

  「ん? どうした? 人が来ないのは婆さんが気を利かして人の出入りを一時的に止めたからだと思うぞ?」

 なんと!後でお礼……いや料金倍払ってるからまぁ感謝の意だけ伝えておこう。


「そうだったんですね。ちなみにおじさんはお金持ちか何かで?
 お昼に公衆浴場に居るなんて」

 おっさんは何も気にせずに俺の質問に答えてくれた。

「ん?まぁ金は持ってるぞ?
 これでも冒険者ギルドのトップだからな!
 お前さんも体鍛える名目で入るか?
 そういや名前も聞いてなかったな」

 マジか、ギルドマスターって奴だな。

「あ、テツです!15歳でレベル1です」

 ニヤリと笑うおっさんの顔は凶器だった。

「ほう、鍛えがいがありそうだな? 固有スキルは戦闘系か? それともクラフト系か?
あ、俺はガンツだ、よろしくなテツ」

 俺は諦めて貰おうと正直に固有スキルの種類を伝える事にした。

「商売系の料理系スキルですよ。戦闘はからきしです」

 顎をさすりながらガンツは考え事をして

「浮浪児だったって事は商売の伝も商業ギルドの登録料も払えんだろう?
 屋台をするにしても解体位出来ないと儲けが出ないぞ?」

 あー……確かに。
 言われてみればその通りだ、商売人たるもの原価を抑えて商売するのは基本だ。

「ちなみに登録料はおいくらですか?」

 俺は多分払えるだろうと思いつつも聞いてみた。

「店を持つなら金貨30~50枚で屋台や露天商、行商人でも金貨1枚が必要だな」

 うむ、払えるけど俺は何となくたがこの縁は大切にした方が良いと感じた。
 なので態とガックリと肩を落としたフリをする。

「冒険者をしながら屋台をする奴も多いぞ?
 まずはお前さんは体を大きくする事からスタートだな。
 よし!そうと決まれば汗を流してギルドに行くぞ!」

 俺は他人から見たらドナドナが聞こえるような感じなのだろうなぁ
 と思いつつもガンツと共にサウナから出て体を洗うのだった。

 服を着てガンツと共に受付を通ろうとすると婆さんが

「縁を掴んだね。頑張りな!」

 と声を掛けてくれたのでお辞儀をしてガンツの後を着いていくのだった。


 ◇4話

 ガンツの後ろを着いて行く事15分程すると大きな建物にたどり着いた。
 うん、冒険者ギルドだね。剣と杖がクロスした看板だった。

「アホ共に絡まれる前に登録しちまうぞ? 
登録料は銀貨1枚だが払えるか? 無理なら分割でも大丈夫だ。
 初回登録のみ分割OKだからな」

「大丈夫ですよ。銀貨1枚なら払えます」

 そう伝えガンツと共にギルドの中に入ると受付嬢さんがギョッとしていた。
 そりゃーね、自分の組織のトップが出先から帰って来たら子供連れ帰って来たら驚くよね。

「マイナ、テツの登録を頼む。小さいが成人してるらしい。登録料も払えるみたいだ」

「小さいって言うなっ!!ガルぅぅぅぅ」

 俺はついつい噛み付いてしまった。
 ちょっと恥ずかしくなって顔が赤くなるのが分かる。

「ギルドマスター、この年頃は身長とか気にしてるんですからダメですよ?
 テツ君だったね?私はマイナ。受付嬢をしてます。
 これ登録用紙、文字は書ける?」

 俺は頷き、登録用紙に名前と年齢を書き戦闘スキルの場所は無しと書いて
 銀貨1枚をポケットから取り出し受付に置いた。

 何故かガンツとマイナさんから注目を集めて居るので不思議に思ってると

「お前さん、文字の読み書きが出来るんだなそれは特技になるから覚えておけ」

 ガンツがそう言った時に俺は失念していた。
 現代社会での識字率は先進国で9割を超えて居たがこの世界ではかなり低いのだろうと。
 冒険者をしていくうちに覚えて行くのだと思った。
  
「あ、登録用紙受付ました。
 えっと戦闘スキルは無いからしばらくは雑用や採取メインの依頼しか受けれないからね。
 これからギルドマスターが連れてきたので一応今の実力試験をします。

 それと、これに血を1滴垂らしてください。

 後これを渡しておきます。字が読める人は少ないので読める人には渡してます。
 冒険者ギルドの説明と規則が書いてあります」

 マイナさんから渡されたのはうっすいペラペラの冊子だった。
 俺は目の前に出された金属のプレートに血を垂らすと首根っこを掴まれた。

「よし、テツ行くぞ!」

 遂にドナドナではなくガンツに強制連行されるのであった。

 強制連行された先は地下で、闘技場の様な場所になっていた。

 俺は短めの木剣を渡されてガンツは普通の木剣を……ん? 本当に普通の木剣か?
 体が大きくムキムキだから縮尺がおかしく俺と同じく短めの剣を使ってる様に見えた。

 そしてガンツは一言

「よし!来い!!」

 何が? 試験内容が分からないが取り敢えずかかっていけば良いんだろかな?
 俺は右手の短剣の木剣を逆手に持ち、半身に構えて右腕を前に出してファイティングポーズをとる。

 この構えは前世の同じ組織に居た『ナイフの拳』と呼ばれていた奴が居た。
 ケンという名前でこぶしという漢字を書くのにナイフが得意という謎の人物だった。

 うん、コイツは多分刺した事あるよね? って位リアルな体験談とナイフ相手の立ち回りを教えてくれた。
 仲間内には優しく敵には狂犬というやばい奴だった。

 ガンツはこちらに剣を中段に置いて構えて居るオーソドックな構えだったが隙が無いなぁ。
 実力が違い過ぎてそもそもどう動いても痛い臭いがする。

「ビビって無いで早くしろ!」

「へいへいわかったよ!」

 俺は返事と共に膝をカクンと抜いた。
 重力通りに下半身が折りたたまれる感覚から 
 上半身を前に倒し前傾姿勢になった瞬間に抜いた膝に力を思いっきり込めて前に飛び出す。

「うおりゃあ!!」

 殴る様に振り抜くがガンツには簡単に対応される。
 まぁ、距離あったし何より体が小さすぎて思ったよりも速さも力も入ってなかった。

「ふんっ!オラッ!まだまだ来いやっ!」

 勘弁してくだしゃいと言えたらどれだけ楽か……

 それから先、何度も死角を取ろうとしたが……
 完全防御姿勢のガンツには簡単に見つかり攻めあぐねて居ると

「崩しと力が全く足りておらんな!俺の方から次は行くぞ!」

 その宣言通りにガンツは突進してきたので俺は避け様としたが

「は!?」

 避けた先にガンツが居た。

「くそっ!誘導された!」

 ガンツは唐竹割りの如く、上から垂直に木剣を振り下ろした。
 俺は今までと同じ様にパリィーー木剣を弾いて防御する技ーーで耐えようと木剣と木剣が重なり合った瞬間に
 今までの比では無い程の重みが体全体に走るのだ。

 危機に瀕して辛うじて力の流れに逆らわずに力の半身にしていた
 体を回転させ押された木剣を起点にしてそのまま拳をガンツに叩き込んだ。

 "ゴンッ、ボキッ"
 よっしゃあぁぁぁぁ!!!当ててやったぜ!!ん? あ? ボキッ?

「いってぇぇぇぇ」

 何と、まさかの俺の腕が折れた……
 反撃された事に驚いたガンツだったが今度は俺の腕が折れた事にオロオロし始める。

「はぁ……何やってるんですかギルドマスター。テツ君、これ飲んで」

 涙を流して滲んだ視界に映るマイナさんは女神に見えた。
 マイナさんに貰った液体を飲むとスっと腕の痛みが消えた。

「おう、スマンなテツ。不意を着いた良い攻撃だったからついつい反射的にスキル使っちまったわ」

 頭をパンパン叩きながらガンツが謝ってくる。
 あれがスキルじゃなかったらこちらの世界の人間の腹筋はどんだけ硬いんだっておどろいていたわっ!

「ギルドマスターそれでテツ君の試験結果は?」

 マイナさんが早く話を進めろと促してくれる。

「レベルが低いから1番下からのスタートだな。
 まぁ採取に行く森の魔物位なら余裕だろうな。
 戦闘センス? いや作戦の立て方は中々上手いな。
 だが、対人戦が基本の構えだったから魔物戦の講習を受けた方が良いな」

 ガッハッハッと笑うガンツに魔法が使えるなら俺は撃ち込みたいと思ってしまった。

 すると首に何か掛けられた。
 首を見ると紐に繋がれた、先程の金属のプレートがあった。
 掛けてくれたマイナさんを見ると微笑んでる顔は女神です。

「改めて、冒険者ギルドへようこそ。
 無理せず、若いうちは実力を積み上げて1人前の冒険者になったら
 未知の世界へと足を進めてくださいね?」

 何故かその最後の言葉の時の笑顔には有無を言わさない圧力があり
 俺は怖かったのでコクコクと頷いて肯定した。

 そして新人冒険者へのサービスで冒険者ギルドの裏手にある宿に入れる事になった。
 ここはギルド職員や新人冒険者が格安で泊まれる冒険者ギルドが経営している宿だそうだ。

 俺は裏手に回って部屋の鍵を借りて銅貨2枚を払い。
 町に出て屋台めぐりをスタートするのであった。


 ◇5話

 屋台巡りをしてわかった事は、バリエーションが少ない上に屋台では肉の串焼きが多い。

 そして肉はウサギ?とオーク、おう!異世界ファンタジーレギュラー出演の豚野郎の肉だった。

 そして貨幣価値は銅貨1枚=100円で確定だった。
 銅貨100枚で銀貨1枚で銀貨10枚で金貨1枚だ。

 金貨の上には大金貨や白金貨があるが個人で扱える金額では無さそうなので気にしない。
 店舗出す為の登録金が金貨30~50枚って言ってたよな?
 日本円にして300~500万円って高いよなぁ。
 これ土地代抜きらしいからなヤバいね。


 銅貨1枚で結構大きめのパンが買えるというのは中々小麦粉だけは潤沢にあるっぽいな。

 まぁフランスパンみたいなカッチカチのパンだったけどね。


 俺は早速1本銅貨3枚の肉串を色んな屋台をハシゴして5件計15本の肉串を食べた。
 そして俺は膝を着いた……凄い店によって素晴らしい下処理の所も有れば塩っ辛いだけの店もあるけど総じて中々肉が獣臭くて美味い。

 基本的に肉はウルフ? ラビット? オークの3種類に高めの銅貨5枚のボアって奴が居るらしい。

 そんな時に俺の目に1つの屋台が目に入った。


「こ!これは!!」

 カエルの脚だ!!鶏のササミの様な食感でササミよりヌメっとした食感に前世では好みの別れる食材だった!
 因みに煮込み系のホロホロなら多分バレないレベルになるのだけどね。

 勿論、俺は好きだ!!
 誰も並んでいないので俺は勢いよくその屋台に近付いて行く!

「おじさん!!これ1つ下さい!」

 おじさんは驚いた顔をした後に笑顔で

「おう!?珍しいな坊主!この地域じゃフロッグは人気がないんだよなぁ。
 余ってるから1つおまけしてやるよ!銅貨2枚だ!」

 やっす!!人気が無いから安いんだろうなぁ。
 多分大体の人は見た目で拒否する人が多いんだよな!

 俺は手渡されたカエルの脚の焼き串を受け取りその場で頬張る。

「うおっ!? 処理が上手い!うまっ!」

 おじさんはニッコニコだ。

「おう!フロッグ系は処理を上手くすればする程美味くなるからな!」

 俺は食べていてふと、気付いた!

「ほんのり果物の香りがするね?さっぱり食べれるよ!」

 おじさんは俺の感想を聞いて驚いては居たもののニカッ!と笑い喜んでくれた。

「味が分かるって事はいい事だ!また頼むぜ!」

「ありがとうおじさんまた来るね!」

 俺はおじさんに手を振りながら宿に戻るのであった。

 あぁいう素晴らしい屋台があって働く渋いおじさんに憧れるのであった。


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