上 下
142 / 296
共和国編〜好きに生きる為に〜

141話

しおりを挟む

 クソ龍が俺では無くクロにぶっ飛ばされてから2週間経った。

 この街では変な噂が流れていた。
 数日に1度、どこかのお偉いさんが冒険者ギルドに来ては喚き散らし帰って行くのだ。

 ギルドマスターが鱗1枚だけを本部に送った結果、情報も証拠品も漏れて消えた。

 紛失したという話が俺に来たのは渡してから1週間後のことで

 俺は一言冒険者証渡して

「失せろ、これもいらねーや。別に冒険者ギルドだけが稼げる場じゃないからな」

 ギルドマスターは顔を真っ青にして何か言い訳を言っていたが聞かなかった。

 そもそも紛失したのに最低補償金も持って来て謝りもしない組織に用は無かったからだ。

 この事件が冒険者達の耳に入り加速度的に影響を与えるなんて俺はまだ知らない。

 そしてすぐに商業ギルドに行きギルドマスターにアポをとった。

 使者がすぐにアポの日付を返答しに来て今は商業ギルドに来ていた。

「いやぁ、噂のケビン様とお会い出来ることを光栄に存じます!
 私のことは知らなくても貴方様のことはよくご存知なのです。
 アレンサリーナとは同期でしてな? 常々自慢されていていつかお目にかかりたいと思っておりまして。

 あ、私ギルドマスターのガビンと申します!」

 おしゃべり過ぎてこちらが気圧されてしまった。

「それで今回こちらにご用向きになった案件をお聞きしたいのですが……」

 俺はマジックボックスから計画書を取り出しまずは読んでもらうことにした。

「えっと……商業ギルドって確か、特殊ダンジョン入場許可証ってありましたよね?

 それが欲しいのとこの計画を実行するに当たって面倒見の良い職人をやスラムの建築物の建て直しの許可が欲しかったのです」

 アレンサリーナさんに昔たまたま聞いた『特殊ダンジョン入場許可証』
 これは商人の護衛を強化したり商品開発をする為の素材をありったけ採取したり
 こだわりの強い職人さんが自ら素材を採取に行く時に審査を受けて発行してもらう許可証で
 ランク付けをされるとそのランクまでのダンジョンの入場許可が受けれるかなり特殊な制度だった。

 冒険者にウマが合わなかった腕のたつ傭兵等にも使われる商業ギルドの緊急時の私兵扱いの許可証だ。

 この人さっきからちゃっかりそろばんもどきを使って色々計算してる……
 そして計画書を読んでは「ムフフ、うはw」と笑い転げている。


「あ、今回の件に関しては全てのギルドで情報を吹聴させて頂いてます。
 冒険者が命懸けで持ってきた素材を紛失又は盗難……いえはっきり言えば強奪等バカにしてますからな。

 持ってきた素材の噂話を聞く限りのランクを見てもA+はたまたSランクになりますからね。
 龍素材ですからね。バカなことをしたものです。
 Sランクの冒険者が本部に乗り込むと豪語してる方もいらっしゃいますので下手したらSランクが減るやもしれませんねぇ」

 カイゼル髭を撫でるおっさんは物凄く悪代官の様な笑みを浮かべ机の上にあったベルを振る。

 音は鳴らないが魔力反応があったので魔道具だろうな。
 1分もしないうちに秘書っぽいお姉さんがトレーを持って現れた。

「商業ギルドでは革命的発明を幾つも出しているケビン様に審査等不要です。
 こちらの計画案にも唆るものしかありません。

 ちなみになのですが……」

 言いづらそうに眉を下げるので俺はニヤリと笑い。

「可能な限りは聞きますのでどうぞ言うだけは“タダ“ですよ?
 まぁ商人の皆さんは嫌いでしょうけどね?」

 何故か秘書さんもギルドマスターも目がきらりと光った気がする。

「えぇ、実はこの街ではケビン様の取り組みのおかげで孤児が減り就業出来る子供やギルドの訓練よりも実のある訓練を行い死亡率が下がりました。

 なので私達ギルドと致しましては……他の街の不遇な子供達や親の我儘により未来を奪われた子供達、保護された子供達も預かって欲しいのです」

 うーん……良いんだけど。
 俺は脳内で現在の建物の収容人数を計算して、うん足りないな。

「周りの土地や2号館を作る為の土地の融通を受けれるなら考えます。
 職員に関してはスラムにあれだけ人材が居ますからね」

「「人材ですか?」」

 俺は頷く。

「スラムの中には沢山訳ありな人が居ます。特に裏の人や権力者に狙われた人。潰された人。そして怪我をして冒険者を強制引退させられた奴ら。

 そして裏の手足としてしか生きられなかった腕っ節だけが取り柄の脳筋」

 そこで俺は一息入れて

「そんな人達に教育や治療を行い復帰させます。下手すりゃ昔有名だった著名な職人が出てくる可能性だってありますよ?
 腕っ節だけの脳筋達には冒険者か商人の護衛をさせるには丁度良いですし。

 彼等は上下関係だけはしっかりしてます。
 更には多分最初の裏の世界を始めた人が貴族か商人の関係なのか言葉使いだけはしっかりしてます。

 短気な所さえ落ち着かせれば十分護衛にはなるでしょう」

 そこで何故か秘書さんが驚いて声をあげる。

「な、治るとはどこまで治るのでしょうか……?」

 ん? 近親者に病人でも居るのか?

「こら! メイカ止めなさい!」

「嫌よ父さん!マリカを治せるなら治してもらいましょうよ!」

 親子だったぁぁぁ!!!似てねぇぇー


 俺が目をぱちくりとさせていると秘書さんがクスクス笑う。

「すみませんケビン様。私の妹のマリカは事故か故意か分かりませんが右手の指全て失ったのです。
 魔道具の故障と商会側は言いましたが……余りのショックに言葉すら失ってしまったのです」

 ふーん、精神的な失語症ねぇ。多分受け入れられなかったか事故の原因が余りに醜く家族を巻き込みたくなかったかな?


「別に良いですよ? その代わりもう一度輝くなら修行は必要ですし……
 何ならその計画案の教師なら嫉妬されずに自分の足場固めもできますよ」

 メイカさんは父親のギルドマスターから書類を奪い取り泣き出した。

「あの……ケビン様。本当に娘の指は治るのでしょうか? 共和国の首都の教会の最上位治癒師でも無理だったのです」

 ふーん。何でこの世界の人は失ったらそこで終わりになるのかな?
 魔法なんて奇跡があるのにね?

「俺の治癒は錬金術との合わせ技なので治りますよ?
 どちらかと言うと治癒というイメージより復元に近いので」

「「復元ですか?」」

 さすが親子、息ピッタリ!
 この日は許可証と建て直しの優遇の書類を貰い後日視察と称してマリカさんを連れて来てもらうことにした。
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

処理中です...