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猫②

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歩くだけでも全身に痛みが走り、朦朧とした意識のまま、渋滞だからと10分程歩かされた皮膚科は、明らかに今回の怪我には適していない病院だった。


猫の引っかき傷は、そもそも野良でも飼い猫でも保有菌の兼ね合いから、傷口に麻酔をし、ブラシで消毒、縫合を行うのが一般的らしい。

特に、一箇所は、そこそこの深さもあった。

しかし、母が選んだ病院は、町医者の様な場所で、怪我を見た際にも破傷風の予防注射こそしたものの、それすらも母が言ったから。基本的な治療は、毎日通院し、謎の薬を塗る。

下手に縫合するより、菌が外に出て行くのを待って、肉が盛り上がるのを待つ。

いってしまえば、一昔前の治療法だった。


金曜の夜中に怪我をし、土曜日に病院。

町医者のそこが日曜日に診察をしているわけもなく、また、甘く見られていたようで痛み止めも処方されていなかった。

勿論、私も猫の怪我だからと甘く見ていたし、そもそも朦朧として痛み止めのことを忘れていた。

土曜日の夜、皆が寝付いた中痛みで眠れるわけもなく、起きていても邪魔だろうとリビングのソファーで一夜を明かした。

半分ほど起きたままでねれるわけもなく、皆が起きてくる頃に身体が限界を覚え細切れな休みをとっていた。

炎症を起こしていたせいで、熱も出ており、様々な意味で限界だった。

ふわりと意識が浮上し、今何時だろうかと眼鏡をかけようとすると

「起きた?」

上から聴こえてくる母の声に、何か用だろうか。正直、用があってもこなせる気はしないけれど。と思っていた。

「今から、催事に行くから用意して」

そういったかと思うと、恐らく自分の用意をしに行ってしまった。

この時の私は、先ず右手首から手の先まで動かせない。歩く、というか振動で全身が痛む。発熱。

流石にこの状況で、車で移動し、人混みの中を歩くのは無理だ。そう判断した私は、母の所に向かった。

「ごめん、出来れば家で休みたい」

「そっか、じゃあ、とりあえず用意して」

???

もしかして、録音機だろうか

そう勘違いしてしまう位、私の言葉を聞いたとは思えない返答だった。

「車の中で休めるよ」

追い討ちの様にかけられた言葉に、車の振動も痛むとは気づいてないのだと悟った。



町医者の最寄駅からあと一駅隣にいけば、総合病院もあった。

しかし、母曰く、形成外科があるこの病院なら間違いがないと思ったらしい。

二週間経ってもよくなる気配がなく、皮膚科の先生からは、もしかしたら骨が折れているのかもしれないとまでいわれ整形外科へ行った際に、一般的と言われる治療法を語られた。


整形外科へは、私とAで行ったのだが二人して唖然としたのを覚えている。

そんな話を、軽い感じで家族に話すと、父やBとCは、そうだったんだ、と驚きながらも笑っていた。

ただ母は、自分の最初の病院選びが間違っていた。そう攻められたように感じたようで、急に泣き出すと「私が悪いんでしょ」とわめきだした。

他の家族がどう思ったかは不明だが、正直私は、そうだよ、と思っていた。



猫の怪我は、完治まで二ヶ月かかった。

大学が始まるため一人暮らしの生活に戻り、整形外科に通院。

どうやら神経を痛めたようで、神経痛に効く薬を処方された。

父と母は、まだ若いのに神経痛なんて、と嘆いていた。正直煩いとしか思えない。

薬の副作用の眠気で、一日の殆どを寝て過ごした。もしかしたら、休める意味もあったのかもしれないけれど。


完治して、既に何年か経過したけれど、今でも古傷は痛む。

あの時のオス猫を恨むことはないけれど、最初にあの病院を選んだ母の事は一生許さないんだろう。

右手が痛むたびに、そう考えてしまう。
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