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「あ、あの!セレナ様!」


 アンは、意を決してセレナへ自分の胸の内を打ち明けた。



「その、ギルバートさんの様子が、最近・・・何と言うか、以前と違うのです。」



「違う、というのは、どういう所でしょう。」


 セレナは、目を光らせ、前のめりで尋ねた。


「えっと、その~・・・とても、甘いというか。」


 アンは、顔をリンゴのように赤くさせ、小声で答えた。セレナは、嬉しそうににんまりと笑うと大きく頷いた。



「そうではないかと思っていましたわ!・・・アン様は、それに対してどう思っていらっしゃるの。」



「う・・・。」



 アンが答えに詰まるのを見て、「嫌ですか?」と問われる。アンは、大きく首を振った。



「嫌ではないです・・・だけど。」




「だけど?」



「その、色々と考えてしまって。」


 アンとギルバートの婚約は、アンの安全を守るためのものだ。ギルバートを巻き込んでしまって申し訳ないという気持ちを拭えないアンは、ギルバートの甘さを呑気に受け入れていて良いのだろうか、と思ってしまう。



「アン様。」


 セレナは優しく微笑んだ。



「アン様は、聖女としてのお立場もありますし、婚約に至る経緯から、気持ちが追い付かないこともあると思います。」


 アンは大きく頷き、セレナの次の言葉を待った。



「ですが、アン様の、今のお気持ちを一番大事にしてほしいです。」



「今の、気持ち・・・。」



「アン様は、ギルバート様といるとどんな気持ちになりますか。」



「ギルバート様といると・・・。」


 アンは思い返す。

 お迎えに来てくれた時。ねこカフェに連れていってくれた時。拐われたら助けに来てくれた時。




 パンを試食してくれる時。




「・・・ドキドキして、落ち着かなくて。」



 だけど、それだけじゃなくて。



「いつも嬉しくて、心が暖かくなります。」




「その気持ちを大切にしていいんです。」



 セレナに優しく微笑まれ、アンの目は潤んだ。ギルバートを好きになってもいいんだよ、と言ってもらえたような気がして、アンはじんわりと心が弛んだ。



 早く、ギルバートの顔が見たくて堪らなくなる。アンがそわそわと待つのを、セレナは優しく見守ってくれた。

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