30 / 41
それからのこと。
30
しおりを挟む「シャーロット•••。」
憂いを帯びた表情すら、シャーロットは愛しく感じる。ぐいっと、ハリーの胸の中に閉じ込められる。
「シャーロットは、俺のことを十五年前から好きだったと言ってくれた。だが•••エドモンド第二王子のことは本当に何にも思っていないのか?」
「ハリー、さま。」
至近距離で見つめるハリーの瞳には悲しみが映し出されていた。シャーロットが、ハリーとキャシーの仲を心配し、苦しんだのと同じように、ハリーも苦しんでいたのだ。
「エドモンド第二王子は、ずっと前からステファニー様のことを愛しておられたのです。そして、ステファニー様も長い間、エドモンド第二王子のことを想っておられました。」
「•••第二王子は、王子妃候補がいるのにも関わらず、他の女性を愛していたというのか。」
「ハリー様。お二人は私達を蔑ろにすることも、想いを伝え合うこともありませんでした。お二人の想いに気が付いたのは、恐らく私だけだと思います。」
「なぜ•••?」
「お二人がお互いを見るときの瞳は、私がハリー様を見るそれと同じものだったからです。」
先程の悲しみを映したハリーの瞳は、喜びでいっぱいになり、また額に口づけを落とされる。
「ハリー様!」
「シャーロットが悪い。可愛いこと言うから。」
嗜めるように名前を呼ぶと、甘い言葉を囁かれ、また額に口づけされてしまう。
「ステファニー第二王子妃のお茶会に行きたくなさそうだったのは?」
「エドモンド第二王子もステファニー様も、私に申し訳ないと思っているようでした。自分達だけ、想っている相手と結ばれてしまうと。私がハリー様をずっとお慕いしていると伝えられたら、お二人は安心できると分かっていました。だけど伝えられなかった。」
「どうして?」
「ハリー様と婚約する前に、もし私の想いを伝えたら、エドモンド第二王子は、ハリー様へ無理矢理私との婚約を迫ることが分かっていたからです。無理矢理結ばれるのは悲しくて。」
「婚約した後は?」
「私は、この婚約が何かしら条件の付けられたものだと思い込んでいました。お父様がハリー様に無理をさせている、と。だから、その、いつかハリー様が私と婚約破棄したい時に、ステファニー様たちに私の想いを知らせるのは良くないことだと思いました。」
ハリーの瞳は獣のような獰猛なものになり、抱き寄せていたシャーロットを抱き上げ、あっという間に膝の上に乗せてしまった。
「ハ、ハリーさま•••。」
「婚約破棄なんて、酷いことを言うからだ。」
「もう、そんなこと思いません。ハリー様の気持ち、十分伝わりましたから。」
シャーロットは、ハリーの胸元に顔を埋めて呟いた。ハリーは、シャーロットの美しい髪をいつまでも撫でていた。
20
お気に入りに追加
362
あなたにおすすめの小説
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」
先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。
「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。
だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。
そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる